第5話 ファイター戦
宇宙機雷の撤去は、人海戦術になる。兵士が、船外に出て、地雷を手動で、一カ所に集め、それを艦砲射撃で爆発させる。
この爆発が、ランドスルーでの、開戦の合図になった。
バーム軍が、駆逐艦3艘とファイター20機で、ケレス斥候隊の先方をくじきに出て来た。
しかし、チェコフ中将は、この部隊に、反応しなかった。戦艦イーサルの護衛についている中型母艦2艘の好きなように戦わせた。
このバームの部隊に指示したのは、サイファス少将の方で、現在の敵戦力を知るためである。
初戦は、ファイター戦になった。バーム軍のバルナックM型とケレス軍のレッドアローが、ぶつかった。ケレス軍の両母艦は、申し合わせて、敵と同数のファイターを出撃させた。どちらのファイターの性能が上か、実戦で確かめることになった。その為、ケレス軍の母艦も、バーム軍の駆逐艦も、初戦を静観した。この初戦は、今後の戦略に多大な影響を与えることになる。
バルナックM型は2人乗り、地球の大気中でも飛行できる形体をしている。普通の戦闘機型に近い。対して、レッドアローは1人乗り、宇宙戦闘に特化していて、円錐型で、ずんぐりしている。まったく設計コンセプトが違う両機は、どちらも同じ戦闘隊形、3機編成3隊と隊長機の、計10機が1小隊。2小隊の合計20機が戦闘に突入した。その戦闘スタイルは、同じだと思われた。
バーム軍のファイターは、駆逐艦の艦長に、殲滅だと、けしかけられた。
同じようにケレス軍のファイターは、母艦から、一機も逃がすなと激を飛ばされた。
正面から、真っ向ぶつかる両隊。バルナックM型機のレーザー機銃からドウン、ドウンと、強力なレーザービームが放たれた。対して、レッドアローの三連レーザー機銃から、パパパパパパッと、大量のレーザー砲がうなる。
どちらも、バリヤーに弾かれて無傷で交差した。
これで、どちらも敵は、後方にいることになるのだが、バーム軍は、2人乗りで、後ろ向きになっている法撃手が、更に撃って来た。これを簡単にかわすケレス軍。前面のレーザー砲は、レッドアローの方が強いかと思われたが、総威力で、バルナックM型の方が上。その攻撃を簡単に逃れたレッドアローは、機動力でバルナックM型をしのいでいた。
両者の戦力が拮抗している時は、隊長機の隊長の腕で、勝負が決まる。両隊は、天頂方向に反転して、敵と、また、ぶつかることになった。
バーム軍の隊長機は、パープルとオレンジ色だ。だから、各小隊をパープル隊、オレンジ隊と、呼称していた。対して、ケレス軍の隊長は、どちらも甘党で、それぞれ機体に、チェリーパフェと、シガーチョコの絵が描かれていた。だから、チェリー隊とシガー隊と呼称されている。規律の厳しい軍隊の中で、ファイター隊は、両陣営とも開放的で、上官の頭痛のタネになっている。
両軍のファイターは、認識票を出して正々堂々と戦う。だから、敵の呼称も、パイロットにダイレクトに伝わる。
バーム軍パープル隊のルガー隊長は、敵の認識票を見て、同僚のオレンジ隊のバルトロ隊長に、大笑いして話しかけた。
「バルトロ、認識票見たか。チェリーに、シガーだってよ。シガーったって、シガーチョコだぞ、甘々だな」
「ふん、俺等の勝ちだな」
対して、ケレス軍チェリー隊のボルボ隊長は、シーガー隊のグルニコフ隊長に、つまらんと愚痴を言っていた。
「ニコフ、敵さんは、隊を色分けしているだけか、つまらん」
「隊に愛着がないのだろ、俺等の勝ちだな」
どちらの隊も、とんぼ返りのように背面反転している。だから、座席は天底方向を向いて激突した。この3次元的な動きについて行けないと、この戦いから、脱落することになる。隊長機は、更に錐揉みしてループ反転のコースを取り、敵の後ろを取ろうとする。ファイターたちは、敵に後ろを取られまいと、更に錐揉みすることになり、一時、その空間は、混沌とした状態になった。
この状態では、観戦しているケレス軍母艦の艦長も、バーム軍駆逐艦の艦長も、どちらが優位なのかわからない。
機動力を活かして後ろを先に取ろうとするケレス軍に対して、バーム軍ファイターの後方に座っている法撃手は、正確な後方射撃を弾幕のように張り、敵を優位な位置につかせない。
何とか、バーム軍の後ろを取ったケレス軍だったが、後ろに隙が無い。チェリー隊のボルボ隊長に無線が入った。
「隊長、後ろに隙がありません。横撃でもしないと簡単には撃墜できません」
「ばか、そんなことができるのは、パワーグラビトンぐらいだ。後方は取ったんだ、愚痴ってないで、攻略法を考えろ。とにかく数を撃ってみろ」
「ラジャー」
ケレス軍は、大量のビームを撃ち出した。
これに対して、バーム側は、各機に、散開を指示した。
「全機、各自フォーメーションを維持しつつ散開しろ。敵機の機動力の方が上だ。だが、こちらの変形フォーメーションには、ついてこられないだろ、試してみろ」
「イエッサー」
混戦を抜けてみると、パープル隊とチェリー隊。オレンジ隊とシガー隊の戦いになっていた。両軍の艦長たちが一喜一憂する。後ろを取ったのは、ケレスなのに、当のパイロットたちは、勝っている気がしない。それというのも、エンジンが丈夫で、少々レーザーが当たっても平気だからだ。エンジンは、電気式でイオン放射を推力にしているので、後ろの推進部分には荷電端子がいくつも並んでいる。これにレーザーが当たると、一時荷電端子がシャウトして、推力が落ちてしまう。ところが、それは壊れたわけではなく、その端子だけリセットして起動すれば、また起動する。だから、大量に荷電端子をシャウトしないと敵の動きを封じることが出来ない。当然後ろを取られているバーム軍のファイターは、そう、やすやす、敵に決定打を撃たせない。
宇宙船には、どれにも、バリヤーが展開している。しかし、推力部分に、バリヤーはない。大砲の砲口部分もそうだ。ここに隙がある。また、宇宙船は、何基かのバリヤーによっておおわれている。この、継ぎ目部分が分かるならそれも弱点になる。しかしそれらを攻撃するのは、針に糸を通すようなものだ。相手の動きが鈍らないと、なかなか狙えるものではない。そのセオリーを無視して、ファイターを撃墜するパイロットがいる。それが、パワーグラビトンだ。今回、この戦いに、パワーグラビトンはいない。
探査戦艦イーサルというのは、他の同じ探査戦艦、ミーサル、キーサルもそうなのだが、ケレス軍大本営の兵器開発部とは別に、独自に兵器開発もする。この、ファイター戦を観戦していたチェコフ中将が、自艦の艦長と、開発主任、戦術主任を呼んで、戦いの解説をお願いした。
「わが方の勝ちですか?それにしては時間がかかりますね」
ファイター戦は、普通、後ろを取った方が勝つ。
戦術主任が、残念な顔をする。
「わが方の3連ビーム砲ですと、全弾命中しないと、敵のエンジン出力を60%以下にできません。ですから、相手を撃墜する決定打を撃てません。このような混戦の場合、全弾命中するのは困難です」
「荷電端子のリキャストタイム内にもう一度当てればよいのでしょう。そうすれば、敵は疲弊して動きが止まる」
「そうなのですが、それができていません。敵のレーザー砲は、出力が、当方の1.5倍もあります。数こそ撃ってこないのですが、これに当たるとバリヤー出力が落ちます。敵後方に座っている法撃手は、このレーザー砲を弾幕のようにうまく張って、当方に有効打を撃たせていないのです」
「では、ソフトが弱いということですね。三連レーザー砲の追尾機能は、どのくらいの確立ですか」 開発主任が、困った顔をして艦長に助けを求めた。現在、戦闘している最中なので、数字は出せない。 艦長が、開発主任に代わって答えた。
「三連機銃は、三連掃射できます。しかし、よく当たっても、3発ぐらいだとおもいます」
「これが、初対決とはいえ、追尾命中率30%ですか。敵のバリヤー出力はどうです」
これには開発主任が答えた。
「今のデーターでは数字を出せませんが、初激突は、どちらも無傷でしたから、当方と同じだと思われます」
「既存のデーターと同じとは限りません。それも監視してください。みなさん一度、持ち場に戻ってくださってけっこうです」
三人は、艦橋内の持ち場に戻っていった。
チェコフ中将は、戦術家ではない。この戦闘に有効な策を見つけることができない。だから、このデーターを後方の、カイザー中将と、ケンプ少将にリアルタイムで送信している。二人の応答がすぐ来なかったところを見ると、模様眺めで、戦術的アドバイスは期待できない。
ファイター同士の性能が拮抗している時は、隊長機の隊長の腕で勝敗が決まる。こういうのは、ケンプ少将の得意分野だ。チェコフ中将は、ケンプ少将をモニターに呼び出すことにした。
バーム側に動きがあった。後ろを取られたバーム軍は、整然と散開した。これを受けて、ケレス側も、各々分かれて戦うことになった。まず、各小隊が左右に分かれ、更に3機編成の3隊が、そこから散開。隊長機は、敵隊長機を狙って、とんぼ返りした。ケレス側も、驚くほど整然と、その後を追った。まるで、花火が、パッと開いたような瞬間だった。
「オレンジ3隊、逆トライアングルだ。No1頼んだぞ」
「イエッサー」
バーム軍オレンジ隊のバルトロ隊長が、指示する。No1は、副長。
まず、バルトロ隊長が、とんぼ返りしてオレンジ隊の後方にぴったりくっついているケレス軍を牽制する。それに対して、シガー隊のグルニコフ隊長は、後続の隊に前方集団を任せて、オレンジの隊長機を追う。隊長を倒せば、敵は瓦解する。
「隊長機は任せろ。後は頼んだぞ副長」
「ラジャー」
ここで隊長機の一騎打ちになるかに思えたが、バーム軍は、隊長機に連動した動きをした。オレンジ隊のバルトロ隊長がとんぼ返りをしたことで、バーム軍の後ろにッピタリくっついていたケレス軍のシガー隊は、上空から攻撃されるのを避けて、少し天底方向に沈んだ。後ろにスペースができることになり、そこに、オレンジ3隊の主力機が、急減速して入って来た。残り6機は、囮になり敵を引き付ける。ケレス軍は、いきなり前後をはさまれることになった。
「もらった!」
オレンジの主力3機が、中央後方にいる1機に集中攻撃した。その機は、エンジンが飛んで、慣性航宇しだした。
「よし、1機目だ」
敵は、動けなくなったのだ。もう1発いいのが当たれば、仕留められる。やったと、思ったが、敵機は、なぜか、そのまま、無傷で慣性航宇していた。
No1が、「成る程」と、バルトロ隊長に連絡した。
「バルトロ隊長、敵の動きを止めたのですが、その瞬間、エンジン部分にバリヤーが展開しました。このままだと、復活されてしまいます」
「なんだって!とにかく撃って、バリヤーの継ぎ目を探るんだ。それと、復活までのリキャストタイムを測ってくれ」
「ラジャー」
倒したと思った1機を主力機3機が追ったことで、戦線は、6対8になり、バーム軍が不利になる。激しい打ち合いの中、1機の出力が低下し、群れから遅れ出す。バルトロ隊長が、やばいと思うのだが、後ろについているグルニコフ隊長が、バルトロを応援に向かわせない。
「バルトロ隊長、後ろの敵機を引き離せません。グァー」
バームのオレンジ隊No8番機が大破した。宇宙空間での大破は、そのまま死を意味する。
「くそっ」
しかし、ケレス側、シガー隊の慣性飛行していたファイターも大破。たまたま、バリヤーの継ぎ目に、いいのが入ったのだ。このデーターは、すぐさま、他のファイターに共有された。ただ、バーム軍と違って、ケレスのパイロットは船外に脱出していた。セキュリティーは、ケレスが一枚上手を行く。
オレンジ隊に出撃を指示したバーム軍のサイファス少将は、この報告を受け、当方が不利であると判断した。救難信号しか発していない無防備なパイロットを仕留めるのは、心苦しい。が、宇宙空間を漂っている敵パイロットを仕留めろと、指示した。そうしないと、何千時間も訓練をしないと一人前にならないパイロットの数が、敵より多く減るのは、当方だ。参謀が、そう進言をして、現場にも、命令を伝達しているが、たぶん、そんな暇ありませんでしたと事後報告してくるだろう。ファイター乗りとは、そう言うものだ。
「とにかく、主力3機は、無事なのだろう。同じことを繰り返せば、数を減らすのは、敵方だ」
そう、独り言を言い。まんじりともしないで、戦いの行方を見守ることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます