第3話 宇宙戦争勃発
5日後、マーク、ナオミ、アリスは、先に帰ったジョン達を追ってレオコロニーにやってきた。
ジョンは、前の日に到着してレオコロニーの住人に祝福された。ジョンは、70歳。バーム軍の元帥になって初めて、43歳年下の凛々と結婚した。娘のエナとミナは、戦災孤児で、ジョンが二人を見つけて養父になった。だから、これが初婚になる。
現在、宇宙は、きな臭いことになっている。地球、月、金星の連合軍。バーム軍と、島宇宙のケレス連邦が、戦争をしそうなのだ。だから、ジョンが、バーム軍の元帥に推挙された。
しかし、マーク達は、この戦争とは全く関係ない依頼をジョンから受けた。
ジョンの娘、姉のエナは、ゴウの奥さんだった人で、10年前にアクエリアスコロニーで亡くなっている。しかし、それを救おうとした妹のミナは、居なくなる前に一度、炎の遺跡を探査しているジョンの前に現れた。そして、ジョンの目の前で、闇に飲まれてしまった。ミナは、魔法時代に飛ばされて、そこで、5代目巫女になっていた。しかし、そこでも、炎の遺跡で消えている。ジョンは、エナの手がかりを得る為に、マーク達に、炎の遺跡探査を依頼した。ここに、ベルの兄弟石、銘鈴石のバーンが眠っている。彼を起こせば、当時の様子が分かる。
本当はジョンも遺跡探査がしたいのだが、戦争がそれを許さない。ジョンは、せめて、炎の遺跡がある、ここに、指令室を置くことにした。
アリスは、ここで、エナとミナに会っている。懐かしそうに、レオコロニーを見渡した。
「暫く、遺跡探査の修業よ。鍛えるから、覚悟して」
覚悟している二人っだった。
アリスの弟、アランが居れば、3人で、遺跡探査ができる。アランは、姉に鍛えられているが、マークとナオミは、全然だ。これから訓練することになる。現在アランは、火星にいる。こちらに来るまで、修行することになった。アリスも暫くここにいるのだが、火星に用事がある。アランと入れ替わりで、火星に帰る。マークとナオミは、それまでに、ものになってとアリスに言われていた。
宇宙では、マークとナオミが修行している間に事件が起こってしまった。第二次宇宙戦争が勃発した。
ケレス連邦とバーム評議会共同で制作したスペースコロニーであるエゴラスコロニーは、ケレスとバーム領の、両宇域の間を走るベスタ航路上にある。以前、崩壊したアクエリアスコロニーの後、建造されたものだ。このエゴラスコロニーを設計したのは、ケレス。建造の半分もケレスが制作した。最初にケレス連邦に狙われるのがベスタ航路であると、バーム軍は推察していたので、気を付けていたのだが、してやられた。
事の起こりはこうである。
エゴラスコロニーの管制官が、ヒューベースのハッチが閉まらないと保全に訴えた。丁度、巡回警備する戦艦が出発した後のことである。今回の巡回担当は、バーム軍になる。これを聞いたバームの司令官サイファス少将が、ケレスに修理を依頼した。巡回警備の戦艦が帰ってくるまでに、ハッチが閉まるようにとお願いした。
しばらくして、ここに、ケレスの戦艦バリスクが入港した。バリスクのエレン中将は、ハッチの不具合に対し、714指令を発布した。
714指令? 管制官は、何のことか全くわからない。しかし、ケレス側に緊張が走る。714とは、ケレスが、エゴラスコロニーを乗っ取るのに準備する時間のことだ。全部で、12分無い。
この12分の間に、巡回している戦艦の盲点を縫って進軍している探査戦艦ミ―サルが入港する。更に大鑑巨砲戦艦ハイベレオが、出て行ったバーム軍の戦艦を追い返すためにコロニー前方に、現れる手はずになっている。探査戦艦ミーサルには中型の母艦が二艘ついて来ている。今回その母艦は、大鑑巨砲戦艦ハイベレオのサポートに回る。
この、714指令を聞いたケレス側の管制官が、緊急司令ボタンを押した。バーム側の管制官が、認識していないうちに出来ていたボタンである。このボタンによって、不具合が拡大した。
エゴラスコロニーのヒューベスは、ハッチが開きっぱなしである。だから、作業員は、船外服を着ないとヒューベースで作業できない。警備の者もそうだ。ここは、とても手薄になっていた。この、ヒューベースに行くドアが、開かなくなった。ヒューベースは、戦艦バリスクに占拠された形になっってしまった。
この時、コロニー内では、緊急作戦用の警告音が鳴っていた。これは、ケレスが最近演習につかっていたもので、コロニーが緊急事態に陥った時に避難を呼びかけるための音だ。以前あった、アクエリアスコロニー崩壊事故の関係で、バームでも、避難の訓練をしている。だから、誰も、これを変だと思わなかった。ただ、これに「714です」が、加わっていただけだった。
占拠されたのは、中央管制室、動力室、バーム指令室、領事館である。バーム軍の待機している予備兵には、速やかな撤退が指示されただけだった。本当は、捕虜にしたかったのだが、バームの予備兵の宿舎は、底部に接続しているバームの戦艦と繋がっており、繋がっている限りは、この戦艦を無力化できるのだが、時間があれば、手動で動けるようになり、反撃の機会を与えてしまうことになる。撤退させるのは、作戦の内だった。
エゴラスコロニーを任されていたサイファス司令官は、整然と撤退しろと厳命した。これは、何度もジョン元帥と打ち合わせしていたことだった。サイファスは、このあと、無傷の艦隊を率いて一番近くにあるジブリコロニーに引き上げることになる。このスペースコロニーを取られたら、ベスタ航路はケレスのものになってしまう。
サイファス少将が司令官室で、エレン中将と対峙した時、中将は、サイファスが打った奇策を称賛して、エゴラスコロニーからの撤退を認めた。サイファスは、どうやったのか、巡回警備に出ている艦隊と連絡を取っていた。その艦隊は、エゴラスコロニーと繋がっている主力戦艦の逃げ道に、防衛陣を引いていた。
「バーム軍エゴラスコロニー司令官、サイファスです。残存しているバーム軍の撤退を許可してもらいたい」
「エレンです。あなたは、最良の選択をしました」
「もう少し、抵抗できると思ったのですが」
「無傷で、艦隊をこの宇域から、さがらすことが出来るのです。そちらも優秀ね。どうやって巡回警備に出ていた戦艦と連絡をお取りになりました」
「連絡は、取っていないです。ただ、巡回警備の盲点になる航宇に監視ロボットを数台置いていました。そちらの展開スピードが、我々の想定を上回っていただけです」
「今度から、対策時間を改めるのね」
「物理的に無理でしょう。別の案を考えます。民間人は、協定通りにお願いする」
「問題ないですわ」
この様に第二次宇宙大戦は、静かに幕を開けた。エゴラスコロニーには戦艦を収容できるドックがあり、ここにいたバーム側の整備員は捕虜になってしまった。成り行きでそうなったのだが、エレンが血を流さなかったと、軍内では、驚きと称賛が密やかれた。
このように、エゴラスコロニーが、無血開城されたころ、ベスタ航路にある、バームが保有する水資源惑星ミラでは、バームとケレスが真っ向からぶつかっていた。ここに、エゴラスコロニーを占拠するために割いた主力戦艦がやってい来ると、ケレス2対バーム1でバーム軍が破れる。撤退の航路を厳選していたエゴラスコロニーの兵力が、これに加わっても、大勢に大差なく、被害が拡大することが予想されている。だから、水資源惑星ミラでは、ジブリコロニーの本隊が到着するまで、時間稼ぎをする打ち合わせになっていたが、激戦で、戦線を維持するのがやっとの状態だった。
そこに、今回来る予定にはなかったエゴラス警備の艦隊がやって来た。バーム軍は、息を吹き返した。
「コウエン無事か」
「サイファス、すまん」
二人は、士官学校時代からの親友だ。
「消耗戦を強いられたのか。これでは、相手の援軍が来たら1対3になってしまうぞ」
「あのイソラという母艦が、いやな所をついてくるんだ。長い目で見たら、消耗戦は、向こうの方が不利だろ。考えていなかった」
「バックナー大佐が、初戦は、無理するなって言っていただろ。撤退だ」
「ミラの水採掘場に作業員がいる」
「オレ達は、エゴラスコロニーからここに来たんだ。もう、時間がない。相手さんが、協定を守ることを信じよう」
「くそっ」
バーム軍は、あっという間にベスタ航路の主要拠点を失ってしまった。残るは、ジブリコロニーだけになった。
この知らせは、島宇宙方面司令官がいるバルゴコロニーに急報された。ワルター・グレイナー大将は、副司令官のチェン少将と、参謀のバックナー大佐を緊急招集して打ち合わせした。二人とも、もう、現場に散開している。通信での打ち合わせになった。
「予想より早いな」
「どうでしょう。ストロング少将の暗殺から、すぐ行動を起こしたとすれば、符合します」
「ジブリの守りは固い。演習と称して、エロスに向かっていると見せかけている我が艦隊は、間に合うと思います」
「そうでなくてはならない。チェン、頼むぞ」
「すぐ出立します」
「バックナーは、パラスだったな」
「ここを落とされては王手に手が届きます。地球からの本隊は、まだ、到着に時間が掛かりそうです。あるもので、時間を稼ぐしかありません」
「ブルースが到着するまで頑張ってくれ。バックナーは、全体を見なくてはいけない。前線は今回だけにしてくれ」
「そう、願いたいです。幸い、フォンファンの中国軍が加勢してくれます。簡単には、やられません」
小惑星フォンファンは、ジョンの持ち物だが、そこに入植しているのは、大半が中国人だ。中国国籍のジョンを慕ってやって来た。だから、中国が、属領みたいにして勝手に護衛軍を駐留させている。経済的にも、政治的にも、ここは、中国にとって、宇宙時代の拠点になる所だ。ジョンの嫁、凛々の母親は、中国で広く顔の効く袁家の者だし、父親の夏雲は、中国宇宙軍の元帥を歴任してから、バーム評議会議長になった。ここをケレスに渡す気は毛頭ない。だから、ジョンがフォンファンに来て、大騒ぎをして結婚を祝福した後、速やかに、小惑星パラスに進軍している。現在とても、士気が高い状態にある。小惑星バラスは、ケレス軍に取られたエゴラスコロニーがあるベスタ航路の真反対の島宇宙〔アステロイドベルト〕に有る。
「中国軍の加勢は、想定内でしょうが、士気の高さは、想定外だと思います。パラス航路の水資源惑星からは、駐留軍を撤退させて小惑星パラスに集合させるしかありませんでした。なに、ここからです」
「戦力は、やはり1対4か」
「まだ、確認できていません。ケレスも、ジョン元帥がフォンファンを拠点にすると知ったのは、結婚式後です。最高が我が軍の4倍だと想定しています。それより多いと、ケレス本星の警備をおろそかにしての戦力投入になります。短期決戦をするにしても、この短期間で、これ以上集められないだろうと推測しています」
「司令官、私もそう思います」
チェン少将がバックナー大佐を支持した。
「そうだな、光通信の設置状況は?」
「現在35%です」
「遅い」
「一週間後は、50%になります。ですから、この1週間耐えるのです」
想定していたとはいえ、エゴラスコロニーでも、水資源惑星ミラでも、電撃的に負けている。ジョン元帥には、半年耐えろ。そうすれば、勝利はこちらにある。と言われたが、持ちそうにない。ワルター大将は、島宇宙の勢力圏を半分食われる覚悟をした。
「このスピードには驚かされる。守るだけでは勝てない。現場で勝機を見つけてくれ」
「後詰めの火星駐留軍を守りではなく進軍に展開させました。ケレスの横腹を食い破って見せます。それに、エドワード大将が、サテ航路に向かいました。パラスの戦いに勝利すれば、退路を断たれるのは、ケレスの方です」
バックナー大佐が、火星にいるとき対応できたのは、ここまでだ。
「きわどいな。それだけ、パラスの戦いが重要になるということか」
打ち合わせで、真新しいものは見いだせなかった。負けから始まるのは、気持ちの良いものではない。ワルター大将は、戦艦ドック以外、農業中心の牧歌的なバルゴコロニーの景色を見下ろして、気分転換するしかなかった。
マーク達は、遺跡で、探査の練習をしていたから、戦争のことを聞くのが遅れた。ジョンの家に戻って、初めて開戦を聞かされた。執事の劉天の息子さん、劉飛が、待っていて、教えてくれた。
「アリス様、マーク様、ナオミ様、お帰りなさいませ。ケレスとの戦端が開かれました。ジョン様は、特設の元帥指令室に籠られました」
「やはり戦争になったのね」
アリスが、ため息をついた。
「ストロングさんを暗殺した、南米の人の罪が重いですよ」
「個人の罪なのに・・・」
ナオミは、まだ16才。事件の発端を知っていても、こんなの嫌いと感情をあらわにする。
「開戦のトリガーなだけよ。ストロングのことが無くても、いずれ、こうなったわ」
今回の戦争は、アリスもナオミ達と一緒で、ノーポジションだが、心情的には、バーム寄りになる。マークは、ケレスのドリトル家と深くかかわっている為、ノーポジというより、両方に肩入れしたい方だ。ナオミも知り合いが多い、両陣営の知り合いを心配した。
「この戦争って、どうなっちゃうんですか」
「そうねえ、泥沼化はないと思うわ。半年たつと、島宇宙の主要航路が、ケレス領で無くなるでしょう。だからケレスは、下準備して、短期決戦を挑んでくる。この猛攻に耐えられないと、バームの敗けね。でも耐えたら、負けるのはケレスの方よ。だから、決着は早いんじゃないかしら」
「決着したら、私の知り合いは、どうなっちゃうんですか」
「両方の陣営のってこと?」
「どちらもです」
「ケレスが勝としたら、ジョンの命は、ないかも。逆に、ケレスが負けるとしたら、オースの命ね。大将首というのは、そう言うものよ」
「いやだわ。そうなったら、死にそうになった人を助けます」
「ダメよ、戦争が長引く。戦争が長引く分、多くの戦死者が出るのよ。ナオミは、その人たちの死を増やす気」
「戦争って・・・」
ナオミは、分からないと黙り込んでしまった。
「和解って方向は、ないんですか」
「私たちに力があれば、そんなチャンスがあったかも。でも、もう、遅いわ」
「じゃあ、何かできることが有ったんだ」
「ワープ航法を見つけていれば、島宇宙をケレスに任せても、人類の進歩に影響なかった。でも、間に合わなかった。私たちは、出来ることを頑張るだけよ」
「そうですね」
ワープ航法が見つかれば、人類は、島宇宙を飛び超えて、太陽系外に向かって行き来できる。ケレス連邦に島宇宙を任せても問題ない。
「だから、今やっていることを頑張りなさい。明日も早いわ、劉飛さん食事をお願い」
「かしこまりました」
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