第2話 パワーグラビトン

  次に、次が厄介な人だ。

 ゴウは、自分の番が来て、また腰を引いた。「やっぱり、明日にするか」などとごねる。


 あんさんが、メインや と、ガンゾが心の中で愚痴った。


 そこに、ナオミが、アリスを連れて来た。アリスは、時々夜中に泣いて目の下を腫らせて、朝、起きることが有る。今日も、そうだった。ゴウは、アリスに弱い。やっと、最終兵器が来たかとガンゾが胸をなでおろす。


「アリスー、遅かったな」

 ゴウの顔が、パッと明るくなった。


「また、目を腫らしちゃったのよ」

「またか」

「ネクロだとは思うんだけど、話せないし」

「マージも、ベルも話せません」

「ごめん、いつものことだから。ゴウ、学習機に入るんでしょ。見に来たわよ」

「おう」


 やっと、ゴウが元気になった。アリスは、嫁のエナ、その双子の妹のミナの妹分みたいな人。エナは、殺され、それを助けに来たミナは、行方不明。ゴウは、アリスに愛情を注ぐことになる。



 ゴウが学習ポットに入ると、またまた、博司が挨拶した。ゴウは、博司の魔法時代にいた知り合いの、龍王と呼ばれたルークみたいな人だった。博司が懐かしそうに話しているのに、張は、黙ったままだ。挨拶した後こうなった。


「張、何か気になるのですか」

 ルークとも、コウオとも違うけど、とっても強い人だと思う

「張が、誰かを褒めるなんて珍しいです」


「そうなのか。龍王の方がすごいだろ。戦艦壊した話は、有名だぞ」

 魔法時代の話の中で、龍王〔コウオ〕は、侵略してきた宇宙戦艦をシャインイングバーストの一吹きで、大破させている。


 そうだけど、うーーん、マージ、どう思う?

 ゴウ? 変な人じゃない。アリスのお尻ばっかり追いかけてるわ


「おいおい、マージ、人聞き悪い。アリスを愛しちゃってる人と言ってくれよ」

 はいはい



「ゴウもファイターに乗る? ファイヤーバードあるわよ」

「頼むよ」

 ファイヤーバードは、ゴウ専用に開発されたファイター。マークのアクエリアスFと違って、長距離航宇ができる。マークの場合は、アクエリアスクルーザーと合体しなくては長距離航宇出来ない。



 ゴウは、ポットの中で、ファイターの起動操作をしていて、アクエリアスコロニー時代のことを鮮明に思い出してしまった。こうなるのが嫌で、学習機に入るのを拒んでいた。楽しい思い出も沢山あるが、最後が悲惨だ。エナとお腹の中の子供を殺された。仲間も、友達も死んだ。生き残ったのは、自分と、ガンゾとニーナだけだった。


 ああ、そうか、娘の名前は、マナだった


 ゴウは、鮮明に当時のことを思い出した。エナのお腹の中の子供は、女の子で、自分が、マナと名付けた。なのにあんなことに。ゴウは、なぜかマナが近くにいるような気がして、気が動転した。


「ゴウ、大丈夫?」

 ガンゾに頼まれて、アリスが声をかける。ゴウは、この声に救われた。エナとミナが最後に気に掛けた人。それがアリスだ。アリスは、それに応えるように成長した。


「大丈夫に決まっているだろ。カウントダウン頼む」

「3,2,1、発進」

 ズガンと、12Gの重力がいきなりかかった。これが、ゴウの標準速度。マークは、最近になってやっとゴウに追いついた。


「ニーナ、13Gで、ええで。本当は、これが標準速度や」

「了解」

「そうなんですか」

 やっとゴウに追いついたと思ったマークが、がっくりする。

「ファイヤーバードは、標準速度13Gで、設計してる。ゴウを測定した結果が、そうやったんや。学習機の最高体感Gが12G言うだけやで」

「マークも13Gまで耐えるでしょう。大したものよ」

 この後もっとすごいことになるのを知っているニーナが、マークを慰める。


「よっしゃ、ゴウ、未踏領域の測定に入るで」

「いいぞ」


「14G」


「15G。ゴウ、どうや」


「うーん、体感Gは、12Gまでなんだろ。よくわからないな。たぶんまだいける」


 ここにいる全員が、目を丸くした。


「16,17,18G。最高瞬間Gの20まで、2Gしかありません」


「すまん、20Gは瞬間用なんや。これ以上は、調整するしかない」

「はは、ちょっと苦しいかもな」


 結果、ゴウの耐Gは、18G以上だということになった。


 この時、学習ポットに変化が現れた。

 ポットに入っている羊水が、更に青く光り出した。ガンゾはこの光景を知っている。


「ガンゾ、学習機の操作できません。18Gを超えるわ」

 ニーナが加速Gをダウンしようとしたが、止まらない。


「大丈夫や、生体電気システムがない時もこうなった。どうせ、20G以上には、ならんのやろ。様子、見よ」

「でも・・」

 ニーナが、心配して、ポットの内圧を見たが、変化していない。しかし、生体電気の青い光は、更に光り出した。



 この時、海王と張は、大変なことになっていた。

「張、止めなさい」

 ぼくじゃないよ、あの人が、ぼくの力を勝手に引き出しているんだ。マージ、聞こえる?学習機を止めさせてよ


 ナオミ、マーク聞いた! 学習機を止めるのよ

 マージが緊急停止を訴えた。


「ガンゾ、なんか変だ。張が力を使っている。学習機を切ってくれ」


「何やて、ニーナ、緊急停止」

 ニーナが学習機を緊急停止するときポットは、眩しく発光していた。


「ゴウ、大丈夫か」

 ガンゾは、学習機を停止すると同時に、海露石を外した。金冠石とのリンクが切れて、学習機は正常化した。


「うーーん、何があった。おまえら、ゆっくり動いているように見えるぞ」


「何やて、もう一回身体測定するから、そのままでいてや」


「また、耐G測定か?」


「基礎測定だけにしとく。大人しゅうしとってや」


 この時、ここにいる全員が、驚異の数字を見ることになる。

 これを受けて、ナオミが博司に結果報告した。


 テレパシーでこれを聞いた博司が、張と出した答えは、ある程度予想できるものだった。


「ただのベースアップなんですが、ゴウさんは、パワーグラビトンの未到達領域をはるかに超えてしまいました。これは、張がやったことではなく、ゴウさんが、張の力を引き出してしまった結果です」


「ゴウ、聞いた? 力の加減をするのよ。じゃないと、そこから出るとき、学習ポットが壊れる」

 アリスが、ゴウを学習ポットに引き留めていた。


「力の加減はしてみるが、よくわからんぞ」

「倍よ、とにかく壊さないで」

 ゴウの身体能力はすべて倍の数値をたたき出していた。だが、瞬間の力がどれくらいあるのかわからない。特にスピードが、異常に早くなっていた。反応速度が格段に上がっていて、数値を吹っ切っていた。


 なんだかなー 暮らしにくくなるのか

 などと考えながら、そろりとポットから出る。ゴウは、何とか、学習ポットから出ることに成功した。


「マーク悪い、ちょっと握手してくれ」

「えー、手加減してくださいよ」

 二人は、普通に握手した。

「何だ普通か」

「いえ、普通の人は、耐えられません」

「何だって、オレは、アリスに触れなくなったのか」

「初めから、触らす気は無いわよ。普通、壊れそうなものでも、私達はちゃんと使っているでしょう。慣れてよ」

「まいったな」


「とにかく、この数値をもとにパイロットスーツを作ってみる。それまで、ファイヤーバードは乗らんといてや」

「ファイヤーバードも壊れるってことか」

「そんなことない。ファイヤーバードは、プロトタイプやで、倍ぐらいの数字は何とかなる。そやけど、反応速度が異常に早い。既存のパイロットスーツは、すぐダメになるで」


 ガンゾは、暗にアクエリアススーツしかないと言っている。それが分かるゴウが、がっくりする。もう、開き直るしかなかった。

 やっぱり、金冠石は鬼門だった。だが、シェーンの時のように、常軌を失わなかったのは幸いだった。ゴウは、この後、ガンゾに言って、いろいろ身の回りを整理することになる。

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