暗黒からの脱出

星村直樹

ネグロじゃない マナよ

第1話 バイオエレクトリック測定器

「ゴウ、お前がおれを殺すから、悪いんだ」


 エナ、マナすまん

 ゴウは、シェーンに打ちのめされて気を失った。


「ゴウ、楽しかったよ。お前がオレを殺したんだ。一緒に楽しくやろうぜ」

 シェーンは、ライトソードを振りかぶった。





「うわっ」

 マークは、全身に冷や汗をかいて目を覚ました。ゴウの奥さんが殺された時の夢だろう。でも、どうして自分が、その夢を見たのか。それも、シェーンが、ゴウさんの顔に見え、ゴウが自分になっていた。


 なにー夜中よ


「マージは、オレの夢を見ていないよな」


 見るわけないじゃない わっ! どうしたの? すごい寝汗



 マージは、宇宙の宝石だ。ピンクでハート形をしている。最近まで、胎水石と恐れられていた。今は、マークの左鎖骨下に食い込んでいる。マージは、12歳の少女の意識で話すが、実際は、魔法時代の女王の持ち物で、女王オバテアの生き写しでもある。

 彼女は、魔法を無効化する能力を持っている。とても強い宇宙の宝石だ。


「シャワー浴びるか。怖い夢だったんだ」


 うん


 普段は、鈴銘石のベルが、ドアの役目をしていて、マークの思考は、マージに漏れない。それを通り越してマージまで目が覚めた。ベルは寝ているのか、マージとダイレクトにつながったままだ。マークはこの後、マージと話して夜更かしをすることになった。




 マーク達は、現在コロニーネビラにいる。マークが所属している、何でも屋ココロの当主、ゴウが、地球、月、金星連合軍、バーム軍のジョン元帥から依頼を受けて建造したものだ。ジョンは、亡くなったゴウの嫁エナの父親。ゴウの義理の父に当たる。


 ネビラは、太陽系外探査と移住を目的とした自立移動ができるコロニー船のプロトタイプ。仕上げをスンボクとMS2がやっている。




 ラウンジで朝食をとっていると、ナオミが、心配そうな顔をして横に座った。


「夜中に怖い夢見て、マージまで起こしちゃったんだって?」

「そうなんだ。でも、久々に、マージとゆっくり話したよ」

 あんがい正夢かもね

「やめてよ、縁起でもない」


 ナオミとマークは、宇宙の宝石であるマージと、テレパシーで繋がっていて普通におしゃべりできる。それはナオミの持ち物であるベルもそうだ。

 マークに魔力があるわけではない。ナオミが四人を繋いでいる。


 でも、ぼくを通り越したんでしょ

 ベルが心配する。ベルが普段はドアの役目をしていて、マークのプライベートを守っている。ナオミもマージも、普段は、そのドアをノックしないと念話できない。


「どんな夢?」


「それが、たぶん、ゴウさんの奥さんが殺された時の夢なんだろうけど。なんでか、シェーン少佐の顔が、ゴウさんになっていて。ゴウさんが自分だったんだよ。ライトソードで、殺されそうになって目が覚めた」


「変な夢」

 そうは言ったが、ナオミは、マージと後で、ゆっくり話そうと思う。今回の宇宙戦争と関係があるかもしれない。ナオミの勘は当たる。ナオミは、マークを心配した。




 今日は、身体測定の日だ。ネビラにいるパワーグラビトンは、ゴウと、マーク。それに、もしかしたら、ユーナスが、そうではないかということで、検査することになった。


 3人をニーナが開発した学習機で測定する。現在、この学習機には、海露石がセットされている。海露石は、金冠石と繋がっている。この金冠石の持ち主が、身体測定を見学したいと言ってきた。ゴウの嫁は、この金冠石のレプリカが原因で殺された。だから、身体測定を渋っていたのだが、金冠石の持ち主は、これからの宇宙時代を引っ張っていく人物だ。だから、ゴウが折れた。ガンゾは、これをきっかけに、ゴウに気を使って製造をやめていたアクエリアスのパイロットスーツを復活させる事にしている。



 学習機は、ポット型で、中に裸に近い格好で入る。そこに羊水が流し込まれ、その羊水を通して電気信号が、体に通る。脳波の方は、従来型の学習機のヘルメットタイプ、これで、体験もできる学習機になった。これを稼働させると、羊水が青く光り出す。この生体電気が、インプットもアウトプットもしてくれる。この学習機は、脳に直接ニューロチップを埋め込む頭脳だけの学習記と違って、体までリアルに体験できるのが特徴だ。当然、体も鍛えることができる。


 マークがライブラリーの奥にある学習機の部屋に行くと、ゴウとユーナスが先に来て待っていた。

「来たか」

 二人とも腕組みしている。


「おはようございます。なんですか、二人とも腕組みしちゃって」


「これ、嫌いなんだよ」

 ゴウは、亡くなった嫁のエナを思い出す学習機が嫌いだ。アクエリアスのパイロットスーツも、悲しい思い出がよみがえるので、ボストンバッグに仕舞ったままだ。

「ぼくも、そうさ」

 ユーナスの本業は、コロニー運営。パワーグラビトンでなくてもいいと思っている。



「マーク、すまんが、先に入ってくれ。二人とも、マークが終わったら、入るんやで」


「まあ、マークが入るんなら」

「仕方ない」


 二人は、ここに来たはいいが、ガンゾに入るのを渋っていた。


「ニーナ、リミッター解除で頼む」

「耐G測定からやります。どうせなら、ファイターに乗る?」

「お願いします。へー、リミッターなんかあったんすね」


 マークは、勉強が嫌いだ。ずっと、この学習機のお世話になっている。これはシュミュレーションができるし、映像が頭に浮かぶので、とてもマーク向き。


 学習機に入ると、それと繋がっている博司に挨拶された。

「マークさん、おはようございます」

「博司さん、そちらは夜中ですよね」

「私は、寝ないからね。張も挨拶しなさい」

 何だマークか。最弱の騎士だよね

 おはようは?

 マージが怒る。


 おはよう、マージも

 金冠石の張は、マージに弱い。


「天然の龍族には、張も興味があってね。実際は、興味津々なんだ。最初が良く知っているマークだったから、がっくりしただけですよ」

 パワーグラビトンは、魔法時代に、龍族と呼ばれていた。


「そうですか、悪いな、張。オレを基準にしろよ」

 そうする



 そうこう言っている内に、マークの周囲が変化した。気が付くとマークは、宇宙戦闘用のファイターのコクピットにいた。ファイターの起動操作が、始まる。マークは、慣れた感じで、バルナックM型の起動操作をこなした。バルナックM型は、現在のバーム軍。中でも、地球の艦隊が標準に使っているファイター。起動を終え、コンピュータが、発進を促した。


「発進準備整いました。カウントダウン始めます。3,2,1.発進」


 いきなり、10Gの重圧が、マークにかかる。マークは、現実と変わらない重力下にさらされた。


 おっ、現実と同じだ

「ニーナさん、これって、どこまで重力を掛けれるんですか」


 ニーナと、ガンゾが見ているモニターに、マークの心拍数や、筋肉の筋縮波、血流などがどんどん映像化されていく。


「20Gよ。仮想だから、体感だとリミッターを外しても12Gぐらいよ。でも、10Gだと、現実と変わらないでしょう」


「すごいです」

 このシュミュレーターは、火星の衛星軌道にある宇宙ステーションを発進して、いったん地球を目指すコースを取る。その後、反転して火星に帰る。


 楽しそうに話すマークとニーナを見て、ゴウがちょっと気になって、ガンゾが見ているモニターを覗いた。

「ゴウは、検査される方やったからな、見たことなかったか。見てみい。マークの血流が、筋肉によって補助されているやろ。だから、高重力下でも、貧血にならんのや」

「筋肉が、心臓と同じ役目をするのか」

「まあ、そういうこっちゃ」



「じゃあ、加速Gを上げるわよ、12G」

 マークに、更に重圧がかかる。マークが、12Gをクリアしているのは、測定済み。

「どうする、未踏領域を測定する?。それとも、瞬発G測定したい?」


「えっと、15G試します」

「だめ、14Gが、まだでしょ」

「じゃあ、14Gで」

 マークの体重は、70キロ。その、14倍の重圧がマークにかかる。


「うわっ、これを1時間ぐらいやったら、へばっちゃいますよ」

「マークが継続できるのは、13Gということね。帰還して」

「了解」



「ゴウ、分かったか。マークの標準航宇速度は、12Gということや」

「なるほど」

 現在の航宇〔宇宙旅行〕は、慣性加速G航法である。普通は、出発地点から、1G加速し続け、中間地点から、1G減速し続ける航法を取っている。これだと、現周期の地球から火星までは、丁度1パーセクなので、1ヶ月かかる。マークは、それを3日弱で成し遂げる。


 普通の人が到達できる加速Gは、6G。それ以上耐えられるパイロットは、凄腕ということになる。凄腕の人は、8Gまで耐える。8から10Gは、グレーゾーン。10G以上耐えることが出来る人をパワーグラビトンと呼ぶ。学習機は、普段リミッターが掛けられており6Gまでしか体感できない。今回は、リミッターを外してその倍まで感じることが出来る。



 マークは、すっきりした顔をして学習機を出た。



 次に、ユーナスが、学習機に入った。そこに婚約者のミーシャが、やってきた。ユーナスを心配して、両手を祈るように握る。

 ユーナスが学習機に入ると、またまた、博司さんが挨拶した。ユーナスの前職業は、金星の水の遺跡の監察だった。ユーナスは、魔法時代の知識も豊富で、ちょっと長話になる。ガンゾとニーナは、それを心得ていて、しばらく二人の好きにさせた。マークは、博司に、また、新しい友達ができたと喜んだ。


「そうなんですか」

 そうだよ、ミーシャも龍族だよ

「張、答え合わせは、測定が終わってからでいいでしょう」

「今度、龍族の生態を教えてください。ミーシャは、自分の嫁になる人ですから」

 いいよ

「了解しました」



「そろそろ、ええかな」

「お願いします」


 ユーナスは、10Gまで耐えて見せた。立派なパワーグラビトンだ。



 この人、まだ伸びるよ。

「そうかもしれへんな。ユーナスは、パワーグラビトンが出だしたばかりいうことや」

 ガンゾが、張の推察に同意する。

「健康診断も一緒にしてる。これで終わりや。おつかれさん」

 それを聞いて、ミーシャがほっとする。ユーナスは、今後も博司と会話することに同意した。ユーナスには、魔力がないので、博司さんが声をかけることになる。

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