女の文学論(四)

「そういうことなら……。あたしの勘違いでした。ごめんなさい。今日は面白い集まりがあるから私も参加したいと思いまして」

「あなたには不向きな集まりだと思うけど」

 と清河長公主が言うと、曹華は膨れっ面をした。

「あら。文学について語り合うのでしょう?」

「あなた、いつから文学に興味を持つようになったの!?」

「音楽や踊りだって、教養に裏打ちされていなければ真に人の心をうつことはないのですよ」

「驚いたわ。あなたから教養なんて言葉が出るなんて」

 清河長公主は目をぱちくりとさせた。

「『士別れて三日、即ち更に刮目して相待すべし』ですよ」

「何ですか、それは?」

「日々鍛錬している者は三日も会わなければ見違えるほど変わっているという意味です。菫卓の言葉です」

 天真爛漫な曹華は胸を張って答えた。

 誰も些細な間違いについては訂正しようとしなかった。

 が、間違いに気づかない清河長公主はしきりに感心している様子だった。

「まあ、なんて素晴らしい言葉なのかしら。胸に刻んでおきましょう」

 曹節は、

「座る場所がないから、椅子を用意させましょう」

 といい、侍女に命じて椅子を持ってこさせようとした。

「いりません」

「え? まさかずっと立っているのですか?」

「座る場所ならあります」

 劉協を椅子に座らせると、なんとその膝に座ったのである。

 これには一同愕然とした。にこやかに笑っているのは水鏡先生こと司馬徽のみ。

「なんというはしたないことを!」

 声を荒げたのは王異であった。

「貴方は畏れ多くも漢の皇帝に嫁いだ身でしょう!! それがなんという……」

 曹華はぽかんと口を開けて王異を見るばかりである。

 だが辛憲英は、さすがに事が尋常ではないのに気がついたようだ。口に手をあて、劉協の顔をじっと眺めている。その瞳には驚愕の色が浮かんでいる。

 どうやら劉協の正体に気がついたらしかった。

「ごめんなさい。晴玉はまだ子供ですから」

 曹節が姉として謝ったが、気性の激しい王異はなおも治まらない。

「そもそもおいくつですか?」

「十五歳です」

「十五歳ならもう十分に大人でしょう! 私が十五で夫に嫁いだときには……」

「王さん。もうその辺で勘弁してあげたらどうですか? あなたは天下の貞婦ですわ。あなたに叱られたら誰も叶いませんわ。たとえ相手が曹家のお嬢さまでも」

 辛憲英にそう言われると、王異も矛先をおさめるしかなかった。

 曹華は劉協の両手をつかむと、それを己の細い腰に回させた。

 劉協は、まるで曹華の父親にでもなったような気分である。

 清河長公主はというと、目を剥いて劉協を睨みつけている。

「善きかな、善きかな」

 司馬徽は楽しそうに笑うばかりである。

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