銭取り太守(一)
曹洪はお金が大好きだ。
目に入れても痛くないほど好きである。
都を守る総責任者にして曹操の大切な功臣のひとりであるが、とにかくお金が大好きなのである。
そんな曹洪が、宮中にやってきた。
曹洪から用件があってやってきたわけではない。
呼ばれたのである。
曹洪は部屋の一室に通された。
そこは伏皇后の部屋であった。
椅子が出された。曹洪が座って待つと、しばらくして伏皇后がやってきた。
曹洪は立ち上がった。曹洪を呼んだのは伏皇后だった。
「皇后。ご機嫌うるわしゅう……」
「挨拶はよい。それよりも例のものを」
侍女が細工をあしらった木箱を持ってきて曹洪に渡した。
曹洪は箱を開けた。
中には金銀財宝が入っていた。
曹洪の顔の喜ぶこと。
しかし、箱を閉じると髭を撫でながら、
「それよりも皇后。蔡文姫に何をしたのですか」
「ん?」
「魏公がたいへんお怒りでしたぞ。魏公は蔡文姫の才知を愛しているのです」
「才知を? 女として、ではないのか」
それを聞いた曹洪は、ぷっ、と吹き出した。
「なにがおかしい?」
「それは考え過ぎでございましょう。魏公はそのような方ではございません。それに……」
「それに?」
「蔡文姫という女がそこまで美しいとは到底思えませんな」
「ふむ……」
「ともかく魏公の感情を逆撫でにする行動は慎んだほうがよろしいですぞ」
「わかっておる。わらわは菫貴人のようにはなりとうない」
「皇后……」
「妊婦の首を絞めて殺すのは楽しかったか?」
「私は魏公の命令に従ったまで……」
「まあ、よい。魏で頼りになるのは将軍だけだ」
そういう伏皇后の目は狡猾に光っていた。
「お任せください」
「ところで……」
「はい」
「陛下に嫁いだ三人娘。あれはどうかな?」
「ああ……。三者三様、それぞれ違いますな」
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