曹家の三姉妹(二)
曹操の娘、曹憲、曹節、曹華。
同じ母親の卞夫人の腹から生まれた娘である。
長女の曹憲は20歳。重厚な人柄である。
目立つことを嫌い、衣服も古いものばかり身に着けている。女に学問は不要と書物の類は一切読まず、裁縫をして一日を過ごしているという。男よりも目立たぬように生きるのか婦人の徳と心得ているような女である。
父の曹操の名が偉大するぎためか、これまで嫁ぐ相手を捜し求めたが、とうとう二十歳になるまで独身。そのためただでさえ地味な性格なのにさらに暗い印象を与えるようになった。
次女の曹節は17歳。
物静かであるが、すこし変わっている。
つねに部屋に閉じこもり、書物を紐解いている少女である。
宮中の人間と言葉をかわすことはほとんどない。ただし、蔡文姫と夏侯惇だけはべつで、この二人の前では快活になりいつまでも話すのを止めないという。
三女の曹華は15歳。
機転がきき、そして派手なことを好む。すこしばかり落ち着きがない。
幼い頃から曹操の親戚である曹洪にはかわいがられていた。
高貴な身分でありながら、舞踊と歌唱にすぐれていると評判である。
この三名が、宮中にくる。
※
建安17年の7月、劉協と曹家の三姉妹との婚礼が行われた。
このとき初めて劉協は三姉妹と会った。
長女の曹憲は奥ゆかしい人柄と聞いていた。しかし、
(これは違う……)
劉協は、伝え聞いている評判とはちがった印象をうけた。
たしかに物腰は年長者らしく三姉妹のなかで一番落ち着いている。
しかし、劉協にはその態度がたくみな計算からきているように思われた。
(それに、何といっても目が似ている)
父親の曹操に、である。
三白眼がそっくりなのである。
曹操と会うたびに見据えられているあの目である。はじめて会ったときからずっと変わらぬ、口先では甘い言葉を吐きながら腹の底を探ろうとするあの目と同じ目をしているのである。劉協はあの目に何年も底知れぬ威圧感をおぼえてきたのである。
目が合うと、曹憲は黙って目を伏せた。
三姉妹では曹憲にもっともいい印象を抱いていた劉協だが、会ってみてこれは信用ならぬ女だと劉協は直感した。
つづいて曹節。
(おや?)
劉協はおどろいた。
部屋に閉じこもって書物ばかり読んでいると聞いていたので、青白い小娘だと思っていたが、実際には三姉妹のなかでもっとも背が高く、そして肌も黒かった。まるで農夫の娘のようである。
ずっとまっすぐにこちらの方を向いたままである。
最後に曹華である。
背が低いのは父親譲りである。
しかし、小柄ながら華奢なその姿は野に咲く花のよう、曹華が艶然と微笑むと劉協もついつい頬がゆ緩んでしまう。
三姉妹のなかでもっとも愛くるしいのは、この曹華だといってよかった。
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