広告人間

深夜太陽男【シンヤラーメン】

第1話

 働かないで生きていく方法を俺は真剣に考えていた。不労所得というやつだ。

 土地を持っていればそこを貸したり駐車場などにすれば金が勝手に儲けられるという。しかし俺に土地などあるはずがない。金融トレードはパソコンでワンクリックするだけで大金が生まれるという。しかし持ち金がそれなりに必要で金持ちの遊びだとわかった。ギャンブル、確実性がないのは嫌だ。起業、だから働いたり苦労するのは御免なのだ。当たり屋、痛そうだし死んだらなあ。泥棒や詐欺、犯罪はNG。牢屋暮らし、拘束はないだろ。生活保護、毎日人が並んでいて俺が相手されるわけがない。金持ちのじいさんを助ける、漫画の読みすぎだろ。真面目に考えれば考えるほど、真面目に考えていないのは俺自身だと気づかされる。虚しいものだ。

 働くしかないのか、と諦めていたら『広告収入』という項目を見つけた。自分の所有するものに企業や商品の広告を載せるだけでお金がもらえるというのだ。確かに電車の中や建物、F1カーでさえ広告でゴタゴタだ。自分の趣味を掲載しているホームページやウェブ動画に広告を載せる、その収入だけで飯が食えている奴もいると。まさに遊んで暮らせるわけだ。

 しかし俺は大したものを所有しているわけがなく、面白いホームページも作れるはずがなかった。あるのはこの体だけ。プロ野球選手のユニフォームを見ていて、俺は思いついた。

 とある大企業のロゴをプリントした服を着て、俺はその大企業に営業に行った。毎日この服を着るから広告費用をくれないか、と。受付のお姉さんは苦い顔をしていたが、やってきた広報係の者は俺を面白がった。広報キャンペーンとして一定期間、その企業ロゴの服をずっと着ていれば金が振込まれる契約がなされた。俺以外にもそういうことをするための人間が多数募集され、街はしばらく企業ロゴ人間が目に付くようになりちょっとした世の話題になった。契約期間が終われば金がなくなってしまう。しかし俺は確信した。これは金になる。

 俺は他の企業にも出向き同じことをした。服は様々な企業のロゴでごちゃごちゃしたが、人目を気にしなければ生活には困らなかった。一応契約にもルールはあり、同系の企業を同時掲載さるのは禁止だったり、掲載している企業の商品の悪口は一切喋れなかったりとするものだった。息苦しさはあったが、働かないで生きていけるのだ。これくらい小さな我慢だ。

 生涯契約をすると値段が跳ね上がった。つまりに肌に直接、刺青で企業ロゴを彫るのだ。俺は調子に乗って全身を埋めるように入れた。耳なし芳一状態である。服の下は意味がないと思われるかもしれないが、金で色んな女と寝る機会が毎日あるので広告としては十分だ。


 人生の大半を遊び倒して過ごした。働いたことなどほとんどなかった。やがて金を使うのにも飽き始めたとき、この国は民主主義から共産主義に政治が移行した。なんでも機械が人を管理するようになったから貧富の差など不合理らしい。全てを平等に、一部に利益は禁止という概念だ。俺も貯蓄を没収されたがあとの人生は質素に生きたいと思っていたので別に良かった。それよりどんな貧乏人でも生きることが保障されるってのはいい世の中になったもんだ。

 未だに金儲けを企む奴は機械によって処分されるらしい。俺は払うものは全部払ったので無関係だと思っていた。ある日、役人ロボットが俺のところに来て言った。

「あなたを営利行為罪で逮捕します」

 ロボットが鏡をこちらに向けている。そこには全身広告人間がいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

広告人間 深夜太陽男【シンヤラーメン】 @anroku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ