余談

おまけ。イレミアスとラッズのその後











「久しぶりに陛下から大目玉を食らったな……」

 王の寝室から退出すると、ラッズは金茶の髪をくしゃりと乱した。

「おまえのせいだぞ、ラッズ」

 イレミアスが不機嫌に言い放つ。

 二人は一礼する兵士の前を通りすぎ、静かに廊下を歩いていく。

「原因は僕だけど、選んだのは君でしょ。イレミアス」

「よくもそんなことを。陛下をダシにして嘘をつくとは、いくらなんでも悪質すぎる。なにが重い病だ。魔女の呪いだ?」

「一応勇者である君なら、〈鷹の目の魔女〉を引きつけてくれると思ったのになぁ」

「一応とはなんだ、一応とは!」

 突然の怒声に、すれ違った女官がぎょっとして壁際に寄る。

 イレミアスは鷹揚に片手を上げてみせたが、女官の瞳から怯えの色は消えなかった。

「あーあ。脅かしちゃって。君、声低いんだから怒鳴っちゃ駄目でしょ」

「誰のせいだ……」

「ところで、〈魔女殺し〉のことをどれだけ知ってます? 君」

 抗議をまるきり無視され、イレミアスは仏頂面になるが、諦めて前を向いた。

「詳しくは知らん。謎の人物だろ。男であることしか分からない。魔法使いだと言われてはいるが、剣や槍を使うと聞いたこともある」

「ですよね。ただ、勇者じゃないことは確か。――〈魔女殺し〉は、どうやって魔女を殺しているのかな。一人で」

「そんなの私が知るか。噂は誇張される。一人だというのも魔法使いだというのも、信用はできんな。魔法使いの魔法では魔女に対抗できないというのが通説だろう?」

「……は、純粋な技術だと言ってた」

 ラッズの茶色い目が狡猾そうに光った。

 それに気づいたイレミアスがすかさず釘を刺す。

「もう私は付き合わんぞ。そんなに〈鷹の目〉が欲しいのか」

「……心配しなくても、もうあんな危険な代物に手なんて出しませんよ。思い出させないでくれます? 勇者でもない者がどうやって魔女を殺せるのか、単純に興味があるだけです」

「酔狂な」

「君は気にならないんですか? 一応勇者である君ですら、魔女には手も足も出なかったんですよ?」

「だから一応と……!」

 と、イレミアスは怒鳴りかけ、辛うじて言葉を呑み込んだ。

 しかし傍の兵士がびくりと跳ねるように姿勢を正したので、あまり意味はなかったようだ。

「……鍛錬不足だったのは認める。だけど、もうおまえの考えてることには付き合わないからな」

 その返答に、ラッズはつまらなさそうな半眼になった。

 だが、すぐに澄ました顔で話を変える。

「ところでイレミアス、城下で噂になっていることがあるんですが、知っていますか?」

「なんだいきなり? また妙なことを思いついたんじゃないだろうな?」

「違いますって。なんでも、夜な夜な泣きながら通りを走っていく女がいるとかで」

「なんだそれは」

「その涙は金色で、そりゃあもう尋常じゃない量を流すそうで。触れたものを溶かすらしいですよ。民衆がひどく怯えています」

 民衆が、の部分をさりげなく強調すると、イレミアスは瞬く間に表情を引き締めた。顎に手を当てて考え込む。

「本当か? ……なんとかしなければならんな」

「……イレミアス、君のそういうところは微笑ましいと思いますけどね」

 まだまだいけそうだ、とラッズは思った。

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