余談

おまけ。魔女の元に手紙が届く前











「――さて、次はどんなイタズラを仕込もうか」

 それが主人の口癖だった。

 しわだらけの顔をさらにしわくちゃにして、意地の悪い笑顔を浮かべ、そう呟く。少し引きつった、老齢らしい低く掠れた声で。

「もうジジイなんだからやめときなよ。自分で引っ掛かってぽっくり逝っちゃうんじゃない?」

 と、彼が口を挟めば、年齢など微塵も感じさせぬ大声で笑う。

「それも面白い!」

 ――どうしようもない主人だ。彼は呆れ果てた。

 心配して差し入れを持ってきてくれた近所の娘さんには、コーヒーカップからコーヒー色の妖精らしき物体を出現させて驚かせ。

 久しぶりに会ったかつての冒険者仲間には、わざわざ一室の床すべてを使い、踏むたびに女性の甘い声が響くようにして仰天させたり。

 とある魔法具を買い取りに来た商人には、膨大な数の偽物を作って大層困らせた。

「ほれ小鳥、来い来い。見てみろ、こんなのを作ったぞ」

 主人は彼のことを『小鳥』だとか『鳥』だとか呼んだ。きちんと名前をつけろと抗議したことはあるが、面倒くさいの一言であえなく却下。我が道を往く主人であった。

 高齢にもかかわらず活動的で積極性にあふれ、死の間際までイタズラのためだけの魔法装置作りに情熱を注いでいた。

『次はどんなイタズラを仕込もうか』

 しわがれた声は、今はもう彼の記憶の中にしかない。

 ささやかな音楽を奏でるオルゴールを横に、彼は窓辺によりかかって外を眺めやった。

『次の魔法装置はすごいぞ。こう、ハンドルを回すとだな、それだけで魔法が飛び出てくる!』

 主人が嬉々として語っていた魔法装置は、ついに完成しなかった。くだらないイタズラ魔法が飛び出してくるだけなのだから、別に未完成のままでも構わないと彼は思っていたが。

「迷惑だよねー、死んだあとまでさ」

 オルゴールはくるくると回り続けている。

 彼は大袈裟な溜め息をつき、そっと、ほんのわずかだけ窓を開けた。1羽の鳥が飛んでくる。

「誰でもいいよ。一番近くにいる、力の強い人に届けて」

 彼が手紙を渡すと、鳥は器用にくちばしでくわえ、飛び立っていった。

 それを見送ったあと、彼は視線を落とし、屋敷の庭を見つめる。

 ひどい状態だ。雑草は好き勝手に伸び、風雨にさらされた門は錆びついてツタが絡みついている。時が止まったような室内に比べ、外は如実に時間の経過を表していた。

『小鳥や。もしもこれが完成する前にわしが死んだら、すまんが代わりに壊しといてくれんかね』

 最期にした約束。

 そこまでしてこのイタズラ装置を作りたいのか、と彼は心底呆れたものである。

「本当、手間のかかる主人だよ」

 そして彼はいそいそと準備に取り掛かった。

 ――さあ、これが本当に最後の、最期のイタズラだよ、マスター。

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