余談

おまけ。マイレとレオのその後











「あれだけで風邪引くなんて、だらしないわねー」

 ふふん、と鼻を鳴らし、マイレは寝込む病人の前で胸を張った。

 相手はじろりと反論するような視線を彼女に返したが、言い争う気力がなかったのか、苛立たしげに舌打ちしただけですぐに目をそらした。

「日頃の行いが悪いのよ。あたしは一度も病気になんてなったことないわ。あたしの勝ちね!」

 ここぞとばかりに罵るマイレ。

「水かけられて風邪引いたなんて、情けないにもほどがあるわ! しかもお祭りでよ? 信じられない。トゥルタ史上初じゃないかしら?」

「……………」

「年に一度の大切な祭りで、風邪……! あーあ、もう、情けない! いっつも偉そうにするくせに、本当軟弱ね、レオ!」

「……おまえな!」

 とうとう我慢しきれなくなったレオが、毛布を跳ね飛ばして身を起こした。

「誰のせいだよ! おまえだ! おまえが水かけたんだろーが!」

「驚いたわ! 祭りの時に水かけられて文句を言う人がいるとは思わなかった!」

「室内の人間にかけるのはルール違反だろ! 後始末にどんだけ苦労したと思ってんだ、派手にぶちまけやがって!」

「いちいち細かいわね! 神聖な祭りに参加させてあげようっていう親切心でしょ!」

「何が親切――」

 と、そこでレオは急に声のトーンを落としたかと思うと、額に手を当ててうずくまった。そうして溜め息をつく様子があまりにも疲れて見えたので、マイレはいささかうろたえる。

「な、何よ。そんなに具合悪かったの?」

「……元々、祭りの前日から風邪気味だったんだよ……」

 呻くように言われてしまえば、さすがのマイレもそれ以上責めることはできない。焦った表情で黙り込んだ。

 彼女はしばらく視線をあちこちにさまよわせていたが、やがて一つ咳払いをすると、口を開く。

「何か――食べたの?」

「……食べてねーよ」

「しょ、しょーがないわね。あたしが適当に作ってあげるわよ」

「……へ?」

 マイレはレオの視線から逃れるように背を向けた。

「台所借りるわよ」

「いや、だけど――買い物に行ってないから、材料ないぞ」

「そんなことだろうと思った!」

 マイレは部屋の隅に置きっぱなしにしていた買い物袋を持ち上げる。中には野菜や果物が入っているようだった。

「気が利くあたしに感謝しなさいよね。買ってきてあげたんだから」

「そ……」

 謝辞か、それとも憎まれ口か。レオは何事か言いかけたが、狼狽したように瞳を揺らし、結局口をつぐんだ。その態度にマイレも戸惑ってしまい、なんとも妙な空気が流れる。

「な……なによ」

「……別に」

「何か文句でもあるの?」

「ねーよ」

 ぞんざいに顔をそむけられてマイレはむっとしたが、相手が病人であることを思い出したのか、沈黙を貫き台所へ向かった。

「……食えるもん作れよ!」

「馬鹿にしてんの!?」

 元気の良い怒鳴り声だけがレオの元に届く。

 いつも通りだが、どこか雰囲気の違うやり取り。悪くはないな、とむず痒さを覚えながらもレオは思った。

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