余談

おまけ。兄妹のその後とアフターケア?











「……お守りはいかがですか?」

 そう声を掛けられたのは、買い物中の妹を店の外で待っている時だった。

 振り返ったアウリスは思わず息を呑む。

 美しい少女だった。

 この辺りでは珍しい黒髪に、艶を帯びた黒い瞳。肌は陶器のように白く輝き、ほっそりした首元はなだらかな線を描いて肩へと伸びている。伏せ目がちに見上げてくる仕草が妙に色っぽく、一瞬で釘付けとなった。

 見覚えのない少女である。

 占い師なのだろうか――やわらかな飾り布をかぶり、深い紫色のローブに身を包んでいた。華奢な指には小さな籠がぶらさがっている。

「お守り……ですか?」

 内心の動揺を悟られまいと、できるだけおさえた声音で返すと、少女はにこりと微笑んだ。ほんの少し口の端があがり、目が細められただけだというのに、強烈な吸引力がある。

「はい。お守りを売りにここまでやってきたのですが、一つだけ余ってしまったのです」

 16、7歳ほどと思われるが、この年頃の少女にしてはやや低い、大人びた声だった。心地良く、痺れるような甘さが耳の奥まで染みてくる。

「残すと怒られてしまうので、どうかもらっていただけませんか?」

「え? でも……売り物なんでしょう?」

「いいんです。きっとあなたに差し上げるために残ったものでしょうから」

 じっと見つめてくる黒水晶の瞳から、なぜか目をそらすことができなかった。まるで魅了の魔法でもかけられたように。

 アウリスは少女が差し出したペンダントを知らず受け取ってしまう。

 木でできたペンダントには、何かの絵が描かれているようだった。

「……です。しつこいですから」

 ほんの少し、悪意を含んでからかうように。立ち尽くすアウリスの耳元でささやくと、少女は幻のように去っていった。

 なびく黒髪を見送って、そのまま立ち尽くしていた時間はどれほどだったのか。

 やがて買い物を終えた妹が店から出てくる。

「兄さんごめんー、混んでてさ――」

 彼女はすぐアウリスの異変に気づいたらしい。駆け寄ってきて顔を覗きこむ。

「どうしたの?」

「えっ? あ……な、なんでもないよ。買えた?」

「うん。スプーおじいちゃんが好きなフルーツタルト」

 満足そうな妹に笑い返してから、アウリスは公園へと足を向けた。連れ立って歩きつつ、手のひらのペンダントに目を落とす。

「なにそれ?」

 目ざとい妹は即座に興味を示した。つま先立ちになってアウリスの手元を見る。

「安っぽいペンダントだなぁ。こんなの持ってたっけ?」

「いや……さっき、占い師風の女の子がくれたんだよ。売れ残ったからって」

「はあ? なんでそんなの受け取るの? また呪われでもしたらどうするのさ!」

 彼女の怒りはもっともであった。アウリスは困ったように笑う。

「う、うーん。でも、そんなことするような子には見えなかったから……」

「兄さんは人が好すぎるんだよ! もー! 大体なんなの、これ。アクセサリーにしてはちょっとダサいでしょ」

「お守りって言ってたよ。なんだったかな……」

 アウリスは少女が言い残した言葉を思い返した。

『……避けです』

 ペンダントに描かれているのは、イタチの絵。

「――ああ、ヘビだ」

「へ?」

「ヘビ避けなんだって。ヘビはしつこいとかなんとか……」

「……なんでヘビ?」

「さあ……?」

 二人は揃って首をひねる。

 十数メートル離れたところで、大柄な女性が悔しそうに歯がみしていることには、とうとう気づかなかった。

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