6.現代ファンタジー②

 こうやってどんどん現代ファンタジーに引き込まれていった私だが、ここで「和風」現代ファンタジーにはまるきっかけとなった作品を上げよう。それは荻原規子「勾玉三部作」、そして上橋菜穂子「狐笛のかなた」である。

 

「勾玉三部作」は日本神話を下敷きにした「空色勾玉」、ヤマトタケル伝説を下敷きにした「白鳥異伝」、「更級日記」とアテルイ伝説を下敷きにした「薄紅天女」の三作からなる。それぞれ神(かぐの一族)と人間(くらの一族)がお互いに思い悩みかかわりあい、物語は進んでいく。どの作品もそうなのだが、非情で冷酷な面も持ちながら、人間以上に人間らしい表情豊かな神や皇族たちがとても魅力的な作品だ。私の日本神話好き、妖好きの原点はここである。



 「狐笛のかなた」もまた古い時代の日本を下敷きにした物語である。霊狐と主人公の少女沙夜が出会い、一国の陰謀に巻き込まれていくさまを描いている。上橋菜穂子の作品は細かな情景描写や世界観の作りこみが醍醐味だが、なにより食べ物が大変おいしそうに描かれているのが好きだ。クルミ餅や菜飯、あぶり餅――現代にあるものも多く、想像もしやすい。夜中に読もうものなら、半ば飯テロである。だいぶたってから上橋菜穂子作品に出てくる食べ物がレシピ付きで本になった時は、それはもう喜んで買い求め、いろんな料理をつくったものだ。


 私が異類婚姻譚(人外×人間)が好きになったのは、ひとえにこの二作品のおかげだといっても過言ではない。


 最後にあげるのは、これまた妖怪がメインの時代小説である。大学時代、個別指導塾で講師をしていた際に生徒からおすすめしてもらい、見事にはまった作品――「しゃばけ」だ。


 体の弱い江戸の廻船問屋の若旦那を主人公と、彼を慕い取り巻く様々な妖怪たちの物語である。主に若旦那の一太郎の身の回りで起こる事件がメインに描かれていて、ファンタジーで時代物、推理小説という三つのジャンルがバランスよく同居している。そして何より、妖怪たちのキャラの濃いこと! 砂糖菓子よりも若旦那に甘い甘い両親、咳をしただけですっ飛んできて薬湯を飲ませる兄や(犬神と白澤)ふたり、若旦那がもらうお菓子目当てで懐く家鳴りたち、皮肉屋の屏風覗き、お菓子がちっともおいしくない幼馴染の和菓子屋の跡取り息子――それはもう、とても賑やかな様子が目に浮かぶ。


 いろんな妖たちが和気あいあいと会話を繰り広げるのを読むのがまた楽しい。私を筋金入りの妖怪好きにさせてくれたのは、この作品で間違いないだろう。

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