4.異世界ファンタジー②
さて中学生から高校生あたりになると、私は日本人作家の本をだんだんと好むようになっていった。小学生のころに読んだのは、やはり児童書の域を超えないわかりやすい物語が多かったが、年を重ねるにつれて難解なストーリーも理解できるようになっていった。
たとえば、先ほども上げた「十二国記」。紹介だけでとどめておこうと思ったのだが、話したいことがいろいろあるのでここでもう一度取り上げる。
このシリーズでは国ごとの王もしくは麒麟が主な主人公となる。この作品の魅力は何と言っても、その圧倒的な世界観だ。古代中国を下敷きにした世界は、「麒麟」に選ばれた「王」がそれぞれの国を統治する世界。ただのご都合主義ファンタジーとは違い、不条理なこともたくさん起こるし、困っていたら神様が助けてくれるなんてことは一切ない。バッドエンドで終わる物語もいくつかある。
一番最初の「月の影 影の海」も、最後こそはハッピーエンドだが、現実世界から来た主人公にそれはもういろんな災難が降りかかりまくる。だまされたり、妖魔に襲われたり、持っている剣に誘惑されたり、人に裏切られたり……私なら絶対に心が折れる。本来ならそれが当たり前。運よく助けられて、無傷で旅を進めてなんて、普通は起こりっこない。でも、後半にはちゃんと救いもある。そのバランスが絶妙で、余計にリアルさが際立っている。
私が一番好きなのは、「図南の翼」と泰麒編。どちらか一つを選べと言われたらものすごく困るが、僅差で「図南の翼」かな。主人公の珠晶が王になるために昇山(王を選ぶ麒麟がいる山までたどり着くこと)するストーリー。私は何より彼女のキャラクターがすごく好きだ。「大人がいかないなら、あたしが行くわ」――何があっても絶対にあきらめないのと、芯の強さ。そして彼女のセリフは大人になった今、とても心へ響く。
中でも一番印象的だったシーンは、「自分は王の務めを正しく果たせるとおもっているのか」と問われた時の、彼女の回答。「そんなのできるわけないじゃない!」「でも義務だから」「黄海は怖いところだ、そんな無茶な、って――どこが無茶よ! あたしでさえ覚悟ひとつで来れたのに!」と本音をさらけ出すところだ。強気な珠晶の本心。それはきっと、現実世界でも多くはてはまることだろう。愚痴や文句ばかり言うくせに、自分では何も動こうとしない。変えようとしない人々。自分もそうなってはいないだろうかと、彼女の物語を読み返すたび思う。
ちなみに一番好きなシーンは、「だったら、あたしが生まれたときに、どうして来ないの、大馬鹿者っ!」と迎えに来た麒麟に対して張り手をするところ。今までの旅を走馬灯のように思い出して、つい言っちゃった珠晶ちゃんがとてもかわいい。
ちなみに今このシリーズはまだ完結していない。公式HPによると「2016年中に新作の完成を予定している」とのこと。まだまだ終わっていない泰麒編の続編が待たれる。
もう一人異世界ファンタジーとして日本人作家の作品をあげるならば、私は迷わず上橋菜穂子「守り人」シリーズをあげる。こちらは最近NHKでドラマ化されていたので、知る人もだいぶ遠くなったのではないだろうか。
短槍使いの女用心棒バルサを中心に、精霊と人とが複雑に絡み合いながら暮らす世界が描かれる物語。そこに生きる人たちも様々で、王を神とあがめる民もいれば、精霊とともに暮らす民がいる。初めはどこか古代日本を思わせる国が舞台になっていたが、やがて小さな島々が集まって国になっている海洋国家、中央アジアやモンゴル、インドなどを思わせる国々の話へと発展していく。
この作家さんの強みは何と言ってもフィールドワークに根差した「リアリティ」だと思う。文化人類学者でもある上橋さんはアボリジニの研究をされていて、何度も現地へ足を運んだそうだ。だからこの人の作品はどれも色があり、においがあり、味がある。私が物語を書くときに、できるだけ写真や文字資料を読み込む、可能であればその舞台へと足を運ぶのは、上橋さんの影響が大きいのかもしれない。
ただし、残念ながら「獣の奏者」はあまり世界に入り込めなかった。作家さんを見て作品を買う私にしては珍しく、1回読んだかどうかという作品。動物も出てきていて、私が好きなストーリーなはずなのだが、こればかりはしょうがない。
それに対して、最近読んだ「鹿の王」は圧巻の物語だった。異世界ファンタジー世界に医療を持ち込んで、ウイルスやら抗体やらの話まで自然に織り込んでしまうのはすごい。こんな切り口まであったのかとただただ感服させられる作品だった。
さて、異世界ファンタジーの話はこれで終わりだ。
次は現代を舞台としたファンタジーの話へ行こうと思う。
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