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 話し込んじゃったね。ここももうすぐ暗くなっちゃいそう。でも、びっくりしたな。A君ったら急に逃げ出そうとするんだもん。わたしのこと、そんなに怖かった?


 さっきの、痛かったらごめんね。でも、A君が悪いんだよ。わたしの話を最後まで聞かないで逃げようとするんだから。でも、ふふ……これでじっとしててくれるよね。


 実はわたし、いままでA君に黙ってたことがあるんだ。ほら、A君の猫がいなくなったことがあったでしょ? わたしね、近くの土手でその子を見つけてるんだ。


 ひどい状態だったよ。わたし最初、ずたぼろの布切れが落ちてるんだと思ったの。だって、お腹を割かれて、中身がほとんど外に出ちゃってたんだもん。頭がほとんど胴体から取れかかってたし。


 わたし、びっくりして声も出なかった。気持ち悪くて、吐き気がこみ上げてくるのがわかった。でもね、そこで逃げたりはしなかったよ。だって、A君がこれを見たらきっと傷つくと思ったから。


 A君、あの猫可愛がってたもんね。それを野ざらしにしたまま帰ったりはできないよ。そう、家からスコップを持ってきて、橋の下の茂みにひっそり埋めたの。


 あの時、あの子の死体を見下ろしたときそのことを思い出したんだ。たとえこの手が血に汚れても、A君のことはわたしが守るんだって。やっちゃったことはもう仕方ないもんね? だから、こう思うようにしたんだ。これはあの子が悪いんだって。A君に付きまとうからいけないんだって。これは当然の報いなんだって。


 だからね、今度もしっかり埋めたよ。だって、逮捕されたら元も子もないもんね。もうA君を守れなくなっちゃう。


 え、この畳の下? 違うよ。もう、A君ったら早とちりなんだから。ちゃんと外まで引きずり出してから別のとこに埋めたよ。信じられない? あ、でも証拠があるよ。


 えっと……ここに……ほら、あった。


 これあの子が鞄につけてたキーホルダー。


 あの子、これ大事にしてたよね。当然だよね、好きな男の子とペアなんだもん。それをどうしてわたしが持ってるのかな? ふふ、そんなに驚かなくたっていいじゃない。こうなったのはA君のせいでもあるんだから。


 大変だったよ。畳を剥がして土を掘るの。でも、猫を埋めるのと同じだと思ってがんばったんだ。これは人間じゃないんだって。自分がいま土をかけているのは、悪い悪い泥棒猫。人間を困らせるいたずら猫なんだって。そうだよ。A君が最初からわたしだけ見ていればこんなことにはならなかったの。悪い子にはお仕置きが必要でしょ? ねえ、そうだよね?


 そんな怖い顔しないで。A君に危害を加えるつもりなんてこれっぽちもないんだから。わたし、言ったよね。A君を守るって。だから、大丈夫だよ。たとえ、あの子が見つかったとしたってわたしが逮捕されるだけなんだから。


 そうだよ、あの泥棒猫を始末したのはわたしだもの。そうだね、感謝してとは言わないけど、お礼のひとつくらいは欲しいかな。


 わたしがA君にお弁当を作っていくようになったのは、あの子がいなくなった次の日だったよね。


 A君があの子のこと心配してるのはすぐにわかったよ。そうなるのは予想できたから、わたしなりに励まそうと思ったの。ううん、そうやってごまかすのはよくないか。わたしね、あの子に会ってはじめて自分の本当の気持ちに気づいたの。いままでずっと、A君を守るのが自分の使命だって、何よりの望みだって思ってたけど、本当はそうじゃないんだって。普通の女の子として、A君と一緒にいたかったんだって。互いを支えあうパートナーとしてA君の隣にいたかったんだって。


 だから、A君。あの子のことなんか忘れてわたしと一緒になろ? あの子が腐って、土に還ってもずっとずーっと一緒でいるの。あらためて訊くけど、ダメかな?  もう、黙り込んでないで何か言ってよ。A君は本当に恥かしがりやさんなんだ……そうやって無反応を決め込むなら――えい。


 ふふ、さすがにびっくりした? でもわたし、こうやってA君の腕に抱かれるのが夢だったんだ。


 それにしても、ねえ、A君の心臓はどうしてこんなに静かなの? 女の子が抱きついてるんだよ? もっと反応してくれてもいいのに……ううん、意地悪いってごめん。これがA君なんだよね。わかってた。


 でも、わたし、そんなA君のこと…………………………


 A君?

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