1年目~2年目:病気発覚からICD植え替え。
経緯01:2004年6月上旬。倒れてから転院まで。
【当日】
その日、旦那君はいつもと同じように出勤していました。
旦那君は外勤メインの仕事をしていました。週に一回、新宿の本社に寄ってから帰宅していました。
ひと月後に外勤先が移動になり、その日は、職場の方々と慰労を兼ねての飲み会があるとのことでした。
午後8時頃に一度、旦那君から連絡があり、午後10時頃に、今度は私の方から連絡をしました。
「今お店に入って、これから会社の人と食事してから帰る」
「了解。じゃ、帰るときにまた連絡頂戴。気をつけてね」
「わかった」
当時、娘が生まれたばかりでした。もうすぐ生後1か月で、自宅でテレビを見ながら娘にまったりと授乳中でした。
午後10時30分頃、電話が鳴りました。
家には子機がなく、また娘の授乳中だったので、電話には出ませんでした。
この時間帯に、実家からよく電話が掛かってきていたので、多分それだろうと思っていたんです。
一回目の電話が鳴り、すぐに二回目の電話が鳴りましたが、それにも出ませんでした。
午後11時頃、授乳も終わり一息ついた頃、また電話が鳴りました。
電話は、旦那君の実家からでした。
旦那君が食事中に急に倒れ、救急車で運ばれた、と言う電話でした。
一瞬、頭が真っ白になりました。
その反面、非常に冷静に話を聴いている自分もいました。
新宿の病院に運ばれ、危険な状態なのですぐに病院に来て欲しいと、搬送先の病院から連絡があったと言われました。
電話の後すぐに、近所に住んでいた義両親が義兄(下)の車で来てくれました。一緒に病院に行くつもりでしたが、娘がまだ生まれたばかりでしたので、私は実家で待ち、義両親と義兄が病院に向かいました。(実家も近所です)
(補足1:義兄は双子で、来てくれたのは下の義兄でした。なので義兄(下)と表記しています)
午前1時頃、義兄(下)から電話がありました。
「落ち着いて聴いてね」
そう言われ、一瞬、最悪の結果が脳裏を過ぎりました。
が、一命は取り留めたと聞き、心の底から安堵したのを覚えています。
義両親達が到着した病院で受けた説明は、次の通りでした。
・午後10時半頃、食事中に旦那君が急に倒れ、意識不明の状態に陥ったため、救急に連絡。
・救急車が到着した頃には心拍・呼吸とも停止状態で、救急車内での心電図の波形から、心室細動を確認。
・搬送先の救急救命センターにて除細動処置(電気ショック)により、蘇生。
・119番通報から旦那君の蘇生までに、約21分掛かったため、脳へのダメージがかなりあるだろうとの判断から、蘇生後、脳低体温療法を実施。
とにかく旦那君が生きているというだけで、良かったと思いました。
【翌日】
旦那君が搬送されたのは、新宿の某大学病院でした。
救急救命センターの面会時間は、12:30~13:00、18:30~19:30の2回のみでした。
この日は義兄(上)と義母、そして私の三人で行きました。
脳低体温療法の旦那君を見るのは、本当に辛かったです。
麻酔で眠っているので意識はなく、鼻には管が入り、呼吸器を着けた状態で、ベットに横たわっていました。
脳低体温療法の為、身体は冷たく、少し硬かったです。
身内に不幸があった人は判ると思うのですが、亡き人の感触に似ていました。
ピッピッという心電図の音と、シュー、シューという呼吸器の音。
腕に刺さった、沢山の点滴。
前日まで、普通に元気にしていたのに、なんで? どうして?
あの日ほど、時間が戻れば良いと痛切に祈ったことは、ありません。
それくらいの衝撃でした。
脳低体温療法は、脳には優しいけれど、反面内臓への負担は大きいそうです。そのため、治療時間は24時間が限界だと説明されました。
とにかく目覚めないことには、脳にどれ位障害が残っているのかなどは判らないと言われました。
また、蘇生までに時間が掛かったので、最悪の場合、目覚めない可能性もあると言われました。
義母は身体がそれ程丈夫でないため、夕方の面会にはひとりで行きました。
看護婦さんが、何でも訊いて下さいねと言ってくれて、嬉しかったです。
私が出来る事といえば、祈る事と、とにかく声を掛け続ける事だけでした。
目が醒めることを信じ、祈り、他愛の無いことを旦那君に話し続けました。
自分の事や子供の事。これまでの事、そしてこれからの事。
とにかく楽しいことを、ずっとずっと話し続けました。
【2日目】
脳低体温療法が終わり、徐々に体温を戻していく処置をしていました。
脳低体温療法時、34度位に保たれていた体温を、少しずつ元の体温に戻していくとのことで、この日は35度を目安に戻していました。
先生の話だと、こちらの思い通りに進んでおり、脈拍・血圧ともに安定していると説明されました。
明日、徐々に麻酔を切り、旦那君が目覚めるのを待つとの事でした。
【3日目】
多分、この日の感動は、一生忘れないと思います。
昼の面会時、病室に入ると、旦那君の呼吸器が外れていました。
声を掛けると、目を開けて、私を見てくれました。
私が声を掛けると、口を開けて、私を呼んでくれました。実際は声が出ず、「あー、うー」状態でした。
でも口の形から推測して、私の名前を言っていると分かりました。
私のことも、生まれた子供のこともちゃんと分かっている様子で、本当に、本当に嬉しかったです。
夕方の面会の時には、ベットが移動していました。
低体温だった反動で、熱が出ていました。高熱がでることは、前もってお医者様から説明を受けていましたので、それ程気にはなりませんでした。
熱でボンヤリするのと、鼻から入った管が気持ち悪いのと、一番は麻酔がまだ完全に切れていないのでしょう、ボンヤリしていました。
沢山の点滴をしていて、そのため手を固定されていました。それが嫌だったのか、しきりに腕を動かし、外そうとしていました。
【4日~10日】
始めのうちは、まだ熱でぼうっとしていることが多かった旦那君ですが、再度ベッドが移動した頃には、随分意識がはっきりしていました。
一週間目からは、食事が摂れるようになりました。
この頃になると、しっかり目覚め、会話も出来るようになっていました。
ただ、倒れる前とは性格がちょっと違ったり、私が来たことを覚えていなかったりしていて、いつもとはちょっと違うな、と感じることもありました。
意識がはっきりしてからも、3~4日間は、脳機能障害がありました。
心肺停止からくる低酸素脳症とのことで、記憶が無くなっていたり、飛んでいたりしました。
具体的には、
・自分の年を50~60代だと思っていた。
・子供の年齢が判らなかった。
・夢と現実の区別が付かない。
・午前中にお見舞いに来たことを覚えていない。
といった感じでした。
性格の変化や数時間前のことを覚えていないのも、低酸素脳症による高次脳機能障害が原因のようでした。
それでも、蘇生までに掛かった時間を考えれば、これ位で済んだのは本当に奇跡的だと、色々な方から言われました。
もしかしたら一生、目が醒めないかもしれなかった事を考えれば、本当に運が強かったのだなと、改めて思いました。
旦那君の容態が多少なりとも落ち着いたので、ネットで『心室細動』を調べ始めたのが、ちょうどこの頃です。
ブルガダ症候群という病気も、心室細動を調べている過程で知り、自覚症状などから「もしかしたら……でも、まさかなぁ……」と、思っていました。
そして先生から、「ブルガダ症候群かもしれない」と告げられ、あぁ、やっぱりそうだったのかという気持ちでした。
前もって調べたのと、一番最悪だった状態を乗り切ったのとで、取り乱したり落ち込んだりはしませんでしたが、「キツイなぁ」と感じたのも、正直なトコロです。
一度心室細動が起こってしまったので、おそらくICD(植込み型除細動器)という機械を入れることになるとの説明も、この時ありました。
高次脳機能障害が見られたので、先生の方から、『高圧酸素療法』をしてみようという話になり、八王子にある系列病院に転院することになりました。
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【心室細動】
不整脈の一種で、心臓が痙攣しポンプ機能を果たさなくなる状態です。
血流が止まるので脈拍がとれず、心電図を見るとガタガタの波形が取れます。
AED(体外式除細動器)などで電気ショックを起こし、早急に脈拍を正常に戻さないと、脳へのダメージがどんどん進み、非常に危険です。
【脳低体温療法】
旦那君の時に私が受けた説明ですが、体温を34度前後まで落とし、脳の保護や回復をする治療法とのことでした。
この時は水が循環しているマットを身体の上下に挟んで身体を冷やし、体温を下げる『水循環ブランケット』という方式でした。
【高次脳機能障害】
記憶障害や感情のコントロールができない、性格が変わったなど、命に係わらないけれど、日常生活において困ることが起こる障害です。
記憶障害では、過去数日~数年の記憶が飛んでしまったり(記憶喪失ですね)、旦那君のように、数時間前のことを覚えていないなど、「ご飯はまだかい?」「おじいちゃんさっき食べたでしょう」がリアルに起こります。
感情のコントロールができなくなったり、性格が変わったりも、家族としては『こんな人じゃなかったのに』という感情がどうしても生まれてしまいました。
患者本人はもちろん、家族や身近な人にも精神的負担がかかる状況に陥ると感じます。
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