第64話 魚に弱いでイワシだろ?

「独特のフォルムね」

「センスを疑うわ」

 プリンセス天功とB・Bがビジュアルに嫌悪感を示す。

「で…どことなく懐かしいような気もするんでやすが~」

 なんというか…人間がベースなのは解るんだが、なんというか…混ぜ方が雑というか、魚に手足を足した?

 魚のエラから手がニョキッと生えて、脇腹からニュッと足が生えている。

 それも、絶対におっさんの手足だ、毛の生えかたが独特で生理的に気色悪い感じだ。

「人に魚を混ぜたのか…魚に手足を付けたのか…」

 プリンセス天功が悩んでいる。

「いや…被り物じゃないの?」

「まさかの着ぐるみ?」

 B・Bの被り物説を肯定しきれないプリンセス天功。

「いえ…完全に細胞レベルで融合しています」

 HALのスキャンの結果が信じられない2人。

「なんというか…大胆な融合よね」

 プリンセス天功が言葉を選びながらボソリと呟いた。

「思い切ったセンスというか…振り切ってる感が…ね…」

 B・Bも少し同情するような口ぶりだった。


(俺は…まだ、マシなのかもしれない…)

 その振り切ったデザインを目の当たりにしているエドモンド、自分もDNA融合の産物えはあるわけだが、アレに比べればデザインは鮮麗されていたのだと初めて安堵した。

 完全に蚊帳の外のオヤジ、特に気になる要素は無いようだ。

 ウロウロと辺りを散策している。

 大きな風呂敷を持っているあたり、金目の物を物色しているといったほうが正しいのだろう。

 エドモンドの勝負の行方などに興味はないのだ。

 いや…残念ながら、オヤジ程ではないにせよ、B・Bもプリンセス天功も、もはや半魚人あるいは魚人半に心の大半を持って行かれている事実は否めない。

 対峙しているエドモンドですら、そうなのだ。

 何をしに、この武舞台に立っているのか…うっかり忘れているくらいだ。


『第一回戦、始め!!』


「ん?」

 エドモンドが呆けている間に開始の掛け声が掛かった。

 魚人半が一気にエドモンドとの距離を詰めてきた。

(早い!!)

 ビジュアルとは大違いの速度で、あっという間にエドモンドの眼前に迫ってきた魚人半。

 魚が走るというだけでも驚きなのに、早いのだ、反応が遅れたエドモンドを責めることは誰にもできない。

 魚人半の右フックがエドモンドの顔面をしっかりと捉えた。

「くっ…」

 反射的に反対側へ自ら飛んでダメージを逸らしたエドモンドだったが、精神的なダメージは相当に大きかった。

 想像できるだろうか…魚に右フックを繰り出される自分の姿を…。

 B・Bは瞬時に悟った。

(これは、精神の戦いだ…)


 エドモンドが構えを取る。

 左の頬から漂う魚臭…

 エドモンドも思った。

(これは、精神の戦いだ…)


 なにせ、魚人半のビジュアルから心に放たれる精神にくる違和感だけでなく、それが意外な早さで迫ってくる、おぞましさ…メンタルダメージの克服こそが勝利の鍵である。


「HAL!!」

 エドモンドが後ろを振り返らないままHALに問いかけた。

「アレは…あの魚はなんだ?」

「…マスター…アレはイワシです」

「イワシ…なるほど…」

 フッとエドモンドが笑う。

(アレはイワシ…イワシ…イワシ…)

 何やらブツブツ呪文のようにイワシと唱えるエドモンド。


「どうしたのかしら?エディは」

「さぁ? アレじゃない、虫だから魚には本能的に恐怖を感じるんじゃない?」

「あ~食べられる的な」

「そう、エサの気持ちになるんじゃない」

「なんせダンナはカミキリムシでやすからね~」

 いつの間にかB・Bの後ろに立っていたオヤジ、畳まれていた唐草模様の風呂敷にナニカで膨らんでいる。

 ジーッとプリンセス天功の視線が風呂敷に注がれる。

 視線に気づいたオヤジ

「コレはアッシの夢と希望ですぜ」

「そう…膨らんでいるのね…」

「夢と希望を失っちゃあ、生きていけませんぜ人間ってヤツは」

「随分、具体的な夢と希望なのね」


 3人の視線が武舞台のエドモンドに向けられる。

 どうも防戦一方で旗色は悪い。


「イライラするわ~、思い切りが悪い!!」

 B・Bは苛立ちを隠せずにいた。

 元より、一度たりとも隠したことは無いのだが。


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