第65話 所詮イワシじゃねぇか!!

「栄養はあるみたいよイワシって」

 プリンセス天功が呑気に話し出す。

「だから、あんなに飛び跳ねるの?」

 B・Bが聞き返す。


 聞き返したくなるほど、イワシの魚人半は元気に跳ねまわっている。

 避け、受け、エドモンドも跳ねまわっているのだが、どうにも歯切れが悪い。

「ビチビチ…ビチビチと、どっちが魚だかわかりゃしませんねぇダンナ」

「魚が手足、生やして襲ってきてんだからエディ、心理的に対処ができてないんでしょうね」

「なさけない!!」

 B・Bがスタスタと武舞台に近づく。

「アンタ、いつまでオタオタしてる気? さっさと、さばいてしまいなさい!!」

「俺の刀は包丁じゃない!! 魚をさばくためには抜かん」


 イワシの魚人半の攻撃はエドモンドからすれば、早いだけで単調ではある。

 避けるだけならば、まぁ問題はないのだが、いかんせん、そのビジュアルから放たれるメンタルダメージと、生臭いという五感にダイレクトに訴えかけてくる間接攻撃が、とにかくキツイ。


「エディ!! アンタ、目の前の生き物を魚だと思ってるの?」

「なに? 魚じゃないのか?」

「魚に手足は生えてないわ!!」

「じゃあ、コレは何なんだ?」

「何なんだ…と言われても…ねぇ…」


 しばし、3人は沈黙して「はて?」と小首を傾げる。


「マスター、それは改造人間です、いうなれば、マスターと同じ仲間です」

 シレッとHALが現実を突きつけてきた。

「仲間…だと…??」

「DNAの強制的な融合によって産み出された遺伝子工学の成れの果てという意味では、カテゴリーとしては同じ位置に分類されるかと思います」

「同じなのか?」

「はい」


 まさかの外野の仲間から、一番のメンタルダメージを受けることになろうとは…


 イワシの魚人半の正拳を避けたと思いきや、足をヌルッと滑らせたエドモンド、転びはしなかったものの上体を大きく崩したところへ魚人半の尻尾がビターンとエドモンドの横っ面にHITする。

 ムカッ!!


 肉体的なダメージはない。

 しかし、魚の尾で叩かれるという屈辱がエドモンドの中のナニカを目覚めさせた。

「この魚野郎!!」


 エドモンドが刀の柄に手を掛けた。

「おおぅ!!」

 オヤジが思わず声を漏らす。

「抜く気になったのかしら?エディ」

「スロースターターね…イライラするわ」

 B・Bが舌打ちする。

 まぁ、刀さえ抜けば、なんとかなるだろう、そんな安堵感に包まれかけた御一行に、まさかのエドモンド…。


「変身!!」

「えーー!!!!」


 エドモンド、まさかのカミキリムシへの変態を遂げたのである。

「対抗心かしら?エディ…」

「イワシとカミキリムシに張り合う余地があるのかしら?」

「さぁ? ダンナの考えることは解りませんや…あっしには」

 深く頷く3名。


「俺の方が…」

 エドモンドが何か言いかける。

「俺の方が?」

 3名が聞き返す。

「俺の方が、マシだろーーー!!」

 エドモンドが吠える。

(まぁ…そりゃそうだけど…)

 3名は納得したが、HALだけは…

(が進めばしら?)

 もしHALに表情があるのなら、彼女のAIはニヤリと笑ったであろう…。

 自身の洒落にではない、エドモンドの行く末にであることは言うまでも無い。


 昆虫化したエドモンド、もはやイワシの魚人半など敵ではない。

 実際、あっという間に片付いた。


 もともと変身する必要などなかったのだ。

 魚を白雨で切り身にしようと思えば、いつでも出来たのだ。


「どうして最初からやらなかったの?」

 B・Bがエドモンドに尋ねる。

「なんか…」

「なんか?」

「刀が臭くなりそうで…」

「……そう…でもアンタ、身体中が生臭いわよ…」

「決勝は、シャワーを浴びてからでいいか?」

「そうね、大会本部には伝えておくわ…よく身体を洗うといい」

「あぁ」

「それと」

「それと?」

「ほっぺにウロコが付いてる…」


 エドモンドが部屋で汗とウロコを洗い流している頃、決勝の面子が発表されていた。

「まぁ…当然のユーラシアですな~」

「エディの相手…後1人は…キング・オブ・シーフード?」

「一番旨い海の幸…でいいのかしら?」

 B・Bが自らのやくに疑問を感じるほどに、ふざけた名前だ。

「それでいいのじゃぞ」

 後ろから大きな声を掛けてきた老人

「Drアナハイム…」

 プリンスセス天功がゲッといった顔で老人を見る。

(バアル…)

 B・Bは心でDrアナハイムを『バアル』と呼んだ。

「ワシの人型決戦兵器リッパーが決勝で相手してやるわい」

「人型…決戦兵器?」


 もはやリッパーは人ではなく、人型と呼ばれ、あまつさえ決戦扱いになったらしい。


「此処に来ていたのね」

 B・BがDrアナハイムに話しかける。

「当然じゃろ、ワシらには母の実家同然じゃしの」

「ふん…ガイアメモリーを起動させるためでしょう」

「それも当然じゃ、ナベリウスにも会いたいものじゃの~ベリアル」

「別に…でも、太郎玉は渡せないわよ、アンタだけには」

「フハハ…なんじゃか解っているようじゃの…アレの価値を」


「エドモンドに切り刻まれるといいわ、お宅の兵器」

「人を捨てさせたから兵器なのじゃ…その意味を教えてやるわい」


 不敵に笑うDrアナハイム、その自信はどこから…。

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