第63話 魚に弱いでイワシだと?

「手に入れろ♪太郎のボール♪」

 プリンセス天功がなにやら口ずさむメロディ、なぜか懐かしいような、髪の毛が逆立つような勇気が湧いてくる。

「というわけで、エドモンド!! エントリーよ」

 B・Bがエントリーシートを差し出す。

「むむっ…俺が出るのか?」

 正直、気乗りしないエドモンド、そもそも『太郎玉』の信ぴょう性以上に、『浦島太郎』とか名前まで変わるとかいう謎イベント、それにとくに願い事もないと言い切るエドモンド、


(いや…あるだろう…)

 一同、触覚を見ながらそう思わずにはいられないのだが、本人は気にしていないようだ。

 受け入れが早すぎるエドモンドを見て思うプリンセス天功。

(今度は魚になるのではないか?)

 ソレは進化とよべるのだろうか?昆虫に魚を捕り込んだらどうなるのかエドモンド。


「太郎玉って…ビックリするほど収集意欲が湧いてこないネーミングだな」

「ダンナ…名より実ですぜ、どんな願いも叶うってトコがミソでさぁ」

「どんな願いもってトコがマユツバなんじゃないのかしらね~」

 今を生きる現代人3名の意見はバラバラである。

 そこで、チッコイ旧世代がスクッと立ち上がる。

「バカね、オカルティックな部分を差っ引いても、お金でなんとかなる部分に期待は持てるわ、ゲットしなさい太郎玉を!!」


 いつになく無口なHAL、何かを知っていそうな…いなそうな…。


 そんなこんなで大会当日、

「トーナメント方式なのね」

 プリンセス天功が今更ながらトーナメント表を眺めている。

「ほう…ダンナの初戦の相手は~、誰でしょうな?」

「名前を見ても想像がつかん」

 そのはずである、エドモンドは浦島と卑弥呼以外は接点が無かったのだ。

 それに…漢字が読めないという致命的な知識不足が手伝って、まったく相手に興味が無いのである。

「鰯丸油三郎、イワシマル・ユザブロウと読みますマスター」

「イワシマル?」

「魚の名前です、マスターに解る様に言い直しますと…オイルサーディンです」

「なに?オイルサーディン?缶詰と戦うのか?」

「名前ですから…」


 トーナメント表によると、全部で3ブロックに分かれている、各々のブロックの勝者がバトルラワイアルで決着をつける。


「なんで最後3人になるんだろう?」

 エドモンドが首を傾げる。

「簡単よ…ユーラシアのためのトーナメントだからよ」

 腕組みをして面白くない顔をしているB・B

「どういうことだ?」

「ユーラシアを勝たせるために、2対1になるように仕組まれてるってこと…じゃないかしら」

「なるほど…出来レースですかい」

「そう…」

「となると…」

 プリンセス天功がトーナメント表を指で辿る。

「エディがBブロック、ユーラシアがA…Cブロックの誰かがユーラシア側の選手ってことね~」

「誰でもいい…俺は勝つ」

 グッと拳を握るエドモンド、いつになくやる気が、みなぎっている。

「太郎玉欲しくなったの?エディ?」

 プリンセス天功が訪ねる。

「いや…俺は…オイルサーディンが嫌いだ」

 そうエドモンドはイワシが苦手であった。

 そのやる気は初戦のみに注がれているのだ。

「なんでもいいわ、勝てば文句は無いのアタシ」

「イワシには負けん!!」


 なんだかんだで戦いの場に立てば身体が動くのが兵士というものだ。


 大会宣誓は卑弥呼が行う。

(充電は大丈夫か?)

 一同が不安そうに見守るなか、高らかに宣誓が行われる。

「栄誉ある浦島の名を継がんとする者よ、その力を我の前に示せ!! この乙姫を得んがために」

「乙姫?」

 卑弥呼の脇に置かれていた青い布に覆われたナニカ、バサッと布が捲られると、褐色の美少女が姿を現す。

「コニチワ、アタシ、オトヒメアルヨ」

 その首には『太郎玉』と思しき直径15cmほどのオレンジ色の球がぶら下げられている。

「アルヨって言ったぞ」

 エドモンドは、もはや何系の人種か解らない美少女の存在が気になっていた。

「あの顔からアルヨってねぇ~」

「アレですな、プリンだと言われて食べたら茶わん蒸しだったときの衝撃ですな」

「例えが解りにくいわ…」

 現代人が困惑している最中、古代人B・Bは考えていた。

(アレも機械人形なのかしら?)

 エドモンドも考えていた。

(出来レースだとすると…アレはユーラシアの好みということか? なかなかマニアックな…)

 後ろにコードがあるか否かはさておいて、褐色の「アルヨ」は、なかなかのインパクトのある景品といえよう。

 ある意味『太郎玉』よりも…。

「ダンナ、アッシならアレを売り飛ばせる自信がありやす」

「あぁ、そうだろうよ」

「優勝してくだせぇ、ダンナ!!」


 オヤジの鼓舞をサラッと流して、エドモンド、今、初戦に立つ。


「アレがダンナの相手でやすか?」

「そのようね…」

 オヤジがイカ焼きを歯で千切りながら、プリンセス天功はワカメラーメンをすすりながら拳をグッと握った。

(アレなら勝てるわ)

 B・Bも海鮮丼を頬張りながら頷く。

「イワシとは魚に弱いと書くのです」

 HALがボソリと呟いた。

 10m四方の正方形の石畳みで出来た闘技場の反対側から現れた男…いや魚?

 半漁人というか…

「魚人半のほうがしっくりくるな…」

 エドモンドが呟いた。


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