第59話 着物にアレって?

「実際、死ぬかと思いやした…」

 オヤジが荷車を引く。

「まったくね…死んでないのが不思議なくらいよね…はぁ~」

 プリンセス天功が荷車を押しながらため息をついた。

「あのじじぃー!!」

 荷車の上でスクッと立ち上がって青い空に叫ぶB・B。

「今度会ったら、あのヘラヘラした首、ねじってモギモギしてやるー!!」

 ダンダンダンッと地団太を踏むB・B。

 その度に、荷台に乗せられているエドモンドの身体がガクガクと跳ねる。

 グッタリと横たわり、まるで力が入っていないのでグネグネと跳ねるエドモンド。

 同じリズムで跳ねながらエドモンドの容体を看ているHAL。

「B・B、暴れないでください、心拍数を読み取れません」

「そうよB・B揺らさないで押しにくいのよ!!」

「解ったわよ!!」

 ドカッと座るB・B

「グエッ」

 カエルがオタマジャクシを飲みこんだような声を出したオヤジが、跳ね上がった荷車の手すりで首を吊られて、もがいていた。

「実際、死ぬかと思いやした…」


「しかし、役に立たなかったわね~エディ」

「変身したまではよかったんでやすがね~」

「普通はあそこから見せ場なんだけどね~エディの…」

「瞬殺されやがって、この役立たず!!」

 B・Bが意識の無いエドモンドの頭を蹴飛ばす。


 そう、変身したエドモンド、素手で殴りかかったまでは主人公っぽかったのだが、徐福はハエを払うかのような仕草で、パシッとエドモンドの拳を払いのけボディにズドンッと重低音が畳越しに伝わるくらいの強烈な一発をくらい、今も目を覚まさないのだ。

「起きろ!! 寝てばっかいやがって、本来ならオマエが引く立場だろう!!」

 ドゲッともう一度、頭を蹴飛ばすB・B


「ホント…起きてよエドモンド…」

 小声で呟くB・B

 下唇をギュッと噛む。


 命からがら逃げだしたのか?

 いや、逃げることすら許されなかったのだ。

「まぁ、食事を愉しんだなら、帰りたまえ、今日は顔合わせだけで済ますつもりだったんだがね…ヒデヨシの、残念な結果になってしまったが、ククククッ」

 徐福は、さも愉快といった顔で笑った。

「外に車を用意してあるよベリアル、それに乗って行くといい、キミ達と次に会うときは、少し私への見方も変わっていると思うよベリアル、また会おう」

 一度背中を向けた徐福がクルリと振り返り

「あぁ、言い忘れた、キミ達の次の行くべき場所を示しておいたよ、私はしずかと違って親切なんでね」


 そんなわけで、波乱の顔合わせは幕を下ろしたわけである。

 約一名、うっかり命を落としかけたカミキリムシを荷車に乗せて、示された場所へ向かっているのわけだ。

 B・Bが大人しく従ったのには理由がある。

「ソコに転がっている彼にも必要な事だと思うよ…たぶん」

 徐福の助言に渋々従っているのだ。

 まぁ、ソレが面白くも無いわけで…事あるごとにエドモンドを蹴飛ばしている理由でもある。

「大体、車はどうしたのよ!! HAL!!」

「追跡の可能性もあるので、破棄しました」

「誰がアタシ達を追跡してくるのよ?」

「誰?関わる全てが対象と見なしてます…とくに徐福にはです。真意が視えないうちは警戒するに越した越したことはありません」

「で…荷車なのね…」

 黙って聞いていたプリンセス天功が溜息をもらす。

「電装系ならHALがチェックすればいいじゃない」

 荷車に乗ってるだけのB・Bが再び文句を言う。

「常にジャミングしながら移動していたのですが、結局、徐福には行動が筒抜けだったわけでして…」

「なによ静がアタシ達を売ったっての?」

「静御前に敵意は感じませんでした、むしろ…いえ、まぁソレで使ってたわけで、徐福に静御前が情報を流すことはないでしょう、仲悪いし」

「色々知ってそうねHAL」

 プリンセス天功がジロッとHALを見る。

 ハッと思い出したようにオヤジが口を開いた。

「アレだったんじゃないですか?飛んでinファイヤーする昆虫みたいなアレでさぁ」

「火に飛び込む昆虫…」

 B・Bがチラッとエドモンドに視線を移す。

「ダンナのことじゃないですぜ」

 オヤジが慌てて両手を放して否定した。

 荷車がガクッと後ろに傾いて、エドモンドが転がり落ちた。

「起きないわね~」

 プリンセス天功が荷車に腰かけてエドモンドを眺める。

「起きやせんね~」

 オヤジが荷車を立て直し、後ろを振り返りながら呟く。

「指示された場所はこのあたりですね」

 HALが広い海をサーチするように見回す。

「アレね…」

 頬杖をついたまま、B・Bが海を指さす。

 海面に立つ、腰ミノを付けた釣り人。

「着物に腰ミノって…何人?」

 B・Bが呆れている。

「なんで水の上に立ってるの?あのヒト?」

「アレでさぁ、伝説のマジシャン、マッコリとかナントカ…」

「どうでもいいわ…ハッキリわかるの、アレ変態よ」

 B・Bが手を振る腰ミノをバッサリと変態と言い切った。

 よく視えないが、腰ミノの変態はメッチャ笑っていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る