第58話 それ誰?

「まだ裏がいる?」

「ワシですら、どこまで深いのか解らんくらいの闇じゃ、底なんて視えんしな…届きもしない」

「じゃあ、アンタをココで殺しても意味は無いと?」

「そういうことじゃ」

 フンッと少し考えてB・Bはニタッと笑って返した。

「命乞いなら下手な駆け引きね、アタシは猿が嫌いなの」

 目でエドモンドに斬れと命じるB・B。

(えぇ~)

 エドモンド正直、無抵抗の相手を斬るのには躊躇するタイプなのだ。

 躊躇しているエドモンドを思いっきり睨みつけるB・B。

(斬れ!!)

 B・Bの目がビキッと凄みを効かせてくる…。

(困った…人を斬ることに躊躇する俺がおかしいのか?猿だと思えばいいのか?)

 マジマジとヒデヨシを見つめ、これは猿だと自分に思い込ませてみる。

(猿っちゃあ猿なんだが…)

 返って斬り難くなってしまった。

 大きなため息を吐いたエドモンド、刀を握るその手に迷いが生じ、切っ先がヒデヨシから少し離れた、その刹那、ヒデヨシはクルッと身をよじり、エドモンドの刀から距離を取る。

「バカめ小僧、人を斬ることに迷いがあるとはな、よくも今日まで生き延びたものだ、運だけはいいのか?」

 ベロッと舌をだしてバカにした表情をエドモンドへ向ける。

「この猿がー!!」

 金色の着物を纏った猿にバカにされたエドモンド。

「だから早く斬れと言ったのよバカ!!」

 B・Bにもバカ呼ばわりされるエドモンド。

 その後方で、すでに他人事のオヤジとプリンセス天功は、無事にお膳に残っているカニを食べ始めている。

 チラッとエドモンドを見て、(言わんこっちゃない…)と目で訴え、再びカニフォークをカチャカチャと動かし始める始末。

 完全にエドモンドの間合いの外に逃れたヒデヨシは、B・Bを牽制しながらジリジリと後ろの襖から逃げようとしている。

 先ほどの動きからみて、ヒデヨシの体術は相当のものだと推測できる。

 油断とはいえ、エドモンドとB・Bに挟まれてなお、生きて延びているのだから…。

「じゃあな、ベリアル…今度は、もう少しマシな刺客をワシに向けることだ」

「お互いさまじゃないかしら、お宅の嬢ちゃんも瞬殺されないレベルを揃えておくことね」

「忠告痛み入る…ではな」

 身をひるがえして、襖を蹴破り奥の間に走り込むヒデヨシ。

 ドンッ!!

 鈍い音がして、ヒデヨシがコチラ側に転がり込んできた。

「なに?なんで戻ってきたの?この猿」

 B・Bが足元のヒデヨシの首を踏みつけながら戸惑っている。

 しっかりゴキッと、へし折れる体制をキープしているあたりは、さすがである。

 納刀した白雨に再び手をかけるエドモンドの視線の先、小柄の僧侶が立っている。

 顔は笑みを浮かべ好々爺といった老人がコチラを見ていた。

(アイツがやったのか?)

 自問したものの、僧侶から発せられる殺気は尋常じゃない。

 エドモンドの身体から嫌な香りを放つ汗が噴き出す。

 さすがにオヤジとプリンセス天功もカニフォークを止めて襖の陰から僧侶を見ていた。

「なにアレ?」

「私は知ってますぜ、ありゃジャポンクレリックでさぁ」

「クレリック?なんで神官から、あんな殺気が駄々漏れてんのよ」

「カニが不味くなりやすな~」

「アタシ、アンタが言うから食べたけど、全然プリンじゃ無かったわよ、あのエッグ料理」

「あぁ、茶わん蒸しですかい?」

「それ、不味いわ…甘くないし」

「アッシも嫌いでさぁ」

「アンタね~」


 B・Bが苦虫を潰したような顔で僧侶を睨んでいる。

 その足元でゴキッと鈍い音がして…ヒデヨシは首を折られて絶命した。

「徐福…」

 ボソッと呟いたB・B。

「ジョフク?」

 エドモンドがオウム返しで呟いた。

 それを聞き逃さないHAL、ここぞとばかりに説明を始める。

「徐福とはですね…」

「いいわ!! ココを出てからでHAL」

「そうですか…」

 心なしか寂しそうに転がり隅へ移動するHAL。

「出られたらね…」

 B・Bの額からツツーと汗が流れた。

(そういう相手ということか…)

 悟ったエドモンドが叫ぶ

「変身!!」

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