第57話 猿王

「クソアマがー」

 B・Bの顔が歪む、完全にケンカする顔だ。

 というかB・Bと、まともにケンカになる者などそうそういないのだが。

 エドモンドは考えていた。

 さっぱり避けられる気がしない。

 一足飛びで斬りかかっても、あの男には到底届きそうにない、確実に足を止められる。

 珍しくエドモンドは、ヒデヨシに対して攻撃的な思考になっていた。

 どうも初見から、あの男にはナニカ感じるものがある。

 それは間違いなく危険な感覚なのだ。

 クマの寝床にズカズカ入り込む鈍感なエドモンドでも解る、解りやすいほどの殺意。

 周りを取り囲む女達も相当の腕だが、殺気は感じない。

 あからさまな殺気はヒデヨシから感じるのだ。

 ソレを隠そうともしない殺気、B・Bが苛立っているのは、その殺気を感じているからだろう、もともと短気だし。

(あのサル顔…癇に障る!!)

 B・Bはもちろん、ヒデヨシの殺気を感じている、素人でもソレと解るほどの隠そうとしない殺気、あのオヤジですら、いやAIのHALですら感じているかもしれない。

 だが苛立っている理由は、単純に猿が嫌いなだけだ…。

 とくにナニがあったというわけではない、きっと…。

 なんか嫌いなだけ、その理由が明確になってないから、余計に癇に障る。

 それがいけなかった。

「なんか顔がというか…存在が気に入らない」

 B・Bの顔が凶悪に歪む。

 向けられたヒデヨシの殺気を押返すような殺気を放つ。

 受け流すタイプのエドモンドとは真逆の対応というか反応。

 先ほど小刀を投げた女、相当な修練を積んではいるのだろうがB・Bに気圧されている。

(仕掛けるなら今か)

 エドモンドが刀の柄に手を伸ばす。

 こういうときには、ライトセイバーレプリカより、白雨に手を掛けるのはやはりクセなのだろうか…それが愚策だと解っていても。

 腰を落として、やや前のめりに身体が傾く、だらりと下がり気味の右手、飛び込んで居合で一閃する構え、明け透けな構え。

 ヒデヨシの視線がエドモンドへ移る、B・Bを牽制していた殺気がエドモンドへ向けられた瞬間、B・Bがヒデヨシへ一足飛びに距離を詰めた。

 阿吽の呼吸、エドモンドが小刀の女へ飛び込む。

 気圧されていた小刀の女が一瞬遅れて反応する。

「遅い!!」

 エドモンドの白雨が女の後方でチンッと涼しげな音を立てて納刀された。

「峰打ちだ…」

 小刀の女がゆっくりと後ろを振り向く視線がエドモンドを捉えることは叶わなかった…上半身が不自然な角度で折れ、ドサッと畳に落ちた。

「あれ?」

 完全に決め顔だったエドモンドの表情がオヤッと緩む。

 プリンセス天功の目が信じられないものを視たとばかりにパチパチと瞬く。

「マスター…白雨は切返しの不便さゆえに両刃に使用を変えました」

「両刃?」

 オヤジが首を傾げる。

「はい、日本刀の鋭い斬れと、その背面は鎌のような粗々しさを持たせることに成功しました、これによって…」

「えぇー!!」

 驚いたのは抜いたエドモンドである。

 まさかの峰打ちが鎌で真っ二つって…。

「悪い事したな~」

 残りの女がエドモンドとジリッと距離を置くように離れていく。

「ドン引きね…」

 プリンセス天功が呟く。

「久しく見ない、いい顔で決めたんでやすがねー」

 なんか恥ずかしくなったエドモンドが下を向く。


「アンタら…それは置いといて…早く手伝いなさいよねー!!」

 ヒデヨシは座ったまま、B・Bの体をさばいている。

 相当出来るが、座ったままでは攻撃に移れずに焦れているのが表情から伺える。

「あぁーもう!!」

 B・Bの蹴りをヒデヨシの手が抑える。

「エドモンド!! 天功!!」

 プリンセス天功がオヤジから小刀を受け取る。

 しっかりと盗もうと抜いていたのだ。

 小刀を正面に構えヒデヨシに走り込む天功。

 一歩踏み込んだエドモンドの白雨がヒデヨシの胸を貫き、天功の小刀がB・Bの足を取ったままの左手を斬りおとす。

 自由になった右足をトンッと軽く着き、そのまま後ろ回し蹴りがヒデヨシの顔面で弾ける。

 横に倒れるヒデヨシの顔面をB・Bが踏みつけると天功の小刀がヒデヨシの喉元へ、エドモンドの白雨の切っ先がヒデヨシの眼前に突きつけられる。

「チェックメイト…でいいのよね?南の猿王」

「チェスならば…そうよな、だがなキングはワシではないのだよベリアル」

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