第56話 食道楽
『ナニワ』という歓楽都市で足止めをくらった…わけではない。
特に誰に止められたわけでもなく、御一行は早や4泊している。
カニ鍋を囲んでの昼食。
「あれね、ドライブインにはカニはさすがに無かったものね」
プリンセス天功がバキッと足を割りながら、シャブシャブっとカニを愉しむ。
「ダンナ、カミキリムシもカニを食うんですな」
「カニクイムシね」
B・Bが天ぷらを食べながら笑う。
「紙を食うからカミキリムシってわけでもないのだろう」
「そうね、カミを食うならカミクイムシだものね」
アハハハハハ…。
なにが面白いのか解らないが、カニ鍋は人を笑顔にするらしい。
「神を斬る蟲…になるかもですけどね」
ボソッと部屋の隅で
「HAL何か言った?」
B・BがHALの方を振り向くと、食事の真っ最中…
「食欲失せるわ…ホント」
「HAL、いつも思うんだがソレ美味いのか?」
「美味い?私に味覚はありませんよ、コレは私の動力源です」
「動力?」
「エネルギーよ」
B・Bが興味無さそうにエドモンドに言葉を返す。
「はい、コレは、ゲル状のボディに無数のナノマシーンを蓄えています、放射能に汚染された大地を浄化するために世界中にばら撒かれたマシーンなのです」
「マシーン…機械?」
「そうです。機能を突き詰めると、この形がベストなのです、正式名称
「なんのことだ?」
エドモンドが首を傾げる。
「原子レベルで放射能を洗浄する機械って意味よ」
B・Bが咀嚼してエドモンドへ伝える。
「なるほど」
「WARMの中には、無数のナノマシーンが搭載されてます」
「ナノマシーン?」
「見えない程チッコイ機械よ」
「なるほど」
「私が必要としているのは、そのナノマシーンなのです、ソレを定期的に取り込むことで半永久的に機能を維持できるのです」
「それでミミズを食うのか」
「WARMです、ミミズではありません」
「ゲル状のボディはブースターの着火など火器の燃料に使ってます」
「栄養を無駄なく摂取できてるってことよ」
「なるほど」×3
そこだけは理解できた3名、それ以上は難しくなりそうなのでコクンと頷き、カニ鍋に戻った。
「ところで、何しにココに来たんだ?」
エドモンドがB・Bに尋ねる、カニの足を頬張りながら。
「ん?それ大事な事?」
B・Bがカニの足をバキッと割りながら答える。
「ココに何かあるんじゃないのか?」
エドモンドがカニの甲羅を裏返してカニみそを混ぜながら尋ねる。
「アンタ、細かいことを気にするタイプ?」
B・Bがカニの足をしゃぶしゃぶしながら聞き返す。
「細かいことなのか?」
エドモンドが溶いたカニみそをカニの握りに塗って食べる。
「アンタのカミキリムシ化の方が深刻なような気がするわ」
顔より長いカニの足をシュルーッと歯で滑らせ食べるB・B
ガラッと襖が開いた。
「カニはご堪能いただいておりますか?そろそろ太閤さまも、みえますので…」
細い糸のような目の着物の女性が部屋を移動しろと目で促す。
「なるほど…コレを待っていたのか」
「そういうことよ」
「太閤さま?ってどちら様?」
プリンセス天功がB・Bに尋ねる。
B・Bが頭とアゴに左右に手を当てウキーッと猿の真似をする。
「なるほど、あっしは察しましたぜ、旦那アレでさぁ、あの時のアレですぜ」
「あの時のアレ?でアレ?」
「伝説のモンキーキングでさぁ」
「猿王?」
通された広間の向こう側でちっこい老人が座っている。
金色の着物を纏い、左右に6人の美女を侍らせた…猿似の老人。
だが、その目は強かに値踏みをするようにコチラを眺めている。
「よく来たな、ビヨンドベリアル」
好々爺の笑み。
「B・B…今はそう呼ばれているの」
「B・Bね…そう呼んだ方がいいか?ビヨンドベリアル」
「ケンカ売ってるの?勝ち目はないわよ」
チラっとエドモンド達に視線を動かす老人。
「なるほど…止めておこう今は…よく来た、ワシはヒデヨシ、オーサカ国の王だ」
「でやしたぜ、モンキーキング!!」
オヤジの耳の脇をヒュッと小刀がかすめ、コンッと音を立て後ろの柱に深々と刺さった。
「滅多な事を言わん事だ…ワシは気にせんが。こやつ等は少々気が荒いでな」
美女の一人が、はだけた着物の裾をシュッと直す。
(アイツが投げたのか…早い…)
エドモンドがゴクッと唾を飲みこんだ。
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