第54話 キミの名は?

 エドモンドが、まさかの苦戦している最中、食事を止めない御一行。

 食卓の話題は、

「あのさ、アレ何て呼んだらいいんだろ?」

 プリンセス天功が悩みだす。

「そうでやすね~カミキリムシですからな~」

「英語でなんだっけ?」

「ロングホーンビートルです」

つのないじゃん」

つのないくせに、ロングホーンとは、コレいかに?」

「まぁ、資料によると…マスクド・ライダーとなってます」

「ライダー?バイク乗ってないわねエディ」

「これから乗せる?」

「いや自転車でもよければアソコにありやすが」

「う~ん…」

 どうにもしっくりこないのである。

「B・B、バイシクルとモーターバイクでは、見た目が大分変るわ」

「そうね…でもエドモンドのはバイシクルのほうが似合うと思うわ」

 脇に置いてある錆びたママチャリ、またがり現れるエドモンド、もしくはカミキリムシ…まぁまぁ大丈夫であると3名は無言で頷く。

(アリっちゃあ、アリ)

「名前考えないといけないわ」

 プリンセス天功が、アイスの自販機の前でふと言いだした。

 とくに強い思い入れは無い。

 ただアイスの表記をHALに尋ねているときに、はたと思っただけだ。

『チョコバナナストロベリー』『クッキークリーム』

 なんか混ぜたら名前が必要だと思っただけだ。

『エドモンド』+『カミキリムシ=ロングホーンビートル』

 マスク(仮面)+ライダー…ドってなんだ?

 奇しくもエドモンドにもドはある。2個もある。

 この『ド』は活かしたいとのB・Bの弁。

『エドホーンビートル』

『モンドビートル』

『エドムシ』

『エドキリムシ』

『エドロング』


 様々な候補が挙げられていた、その頃エドモンドは苦戦していた。

 なにせ必殺技がまさかの見当違いだったのだ。

 カニの甲羅に弾かれた必殺技。

 エドモンドは考えていた、カミキリムシって何が凄いんだ?

 エドモンドが同化したカミキリムシは一般的なゴマダラカミキリ、ハナカミキリだったら体色だけは派手だったかもしれないが残念だ。

 黒い甲冑に覆われた肉体、大きく発達したアゴと複眼、センサー的な長い触覚。

 変身後はエドモンドの面影はない。

「マスター」

 見兼ねたHALがエドモンドに渡したもの。

『白雨』と『ライトセイバーレプリカ』

「キックが良かった…」

「仕方ありません…バッタじゃないから」


「気を取り直して、行きます!!」

 戦闘再開である。

 自信たっぷりに待っていたリッパ―ことカニトカゲ、二刀流を構えるエドモンド(カミキリムシ)にハサミを向ける。

(二刀は振れない…止めはどちらかだ)

 二刀流では致命的なダメージは期待できない。

 最後は、白雨で斬るか、レプリカで刺すか、古来剣術は、九つに集約されることをリッパ―も知っている。

『唐竹』『逆風』『袈裟』『逆袈裟』『右切上』『左切上』『右薙』『左薙』そして『刺突』

 エドモンドの『雀返し』は『右薙』の抜刀術、抜いた状態では絶対に来ない。

 二刀は、この九つが左右から襲い掛かるということだ。

 軽いセイバーなら可能であろうが、日本刀では難しい。

 怖いのは左手のセイバーのほうであり、セイバーには致命的な弱点がある。

 電池の消耗が激しく長期戦には不向きなのだ。

 つまり…二刀のうちは怖くない…とか考えてるうちに、HALがリッパーの背中の甲羅に思いっきり体当たりした。

 バキッという音がして甲羅にヒビが入る。

「もうー回♪」

 B・Bとプリンセス天功が楽しそうに応援している。

「笑顔咲く~」

 ドムッ…!!

 脇をコロッとすり抜け、今度は柔らかい脇腹に。

「マスター!!」

「応!!」

 リッパーの背中にシャカシャカッと回り込んで、ヒビが入った甲羅にセイバーをフォンと突き立てる。

「グワッ…」

 思わず仰け反るリッパー

 再びシャカシャカッと正面に回り、納刀からの高速抜刀

「秘剣、雀返し!!」

 白雨がシャンッと涼やかな音を立てて、リッパーの腹を横一線に引き裂く。

 チンッという納刀の音と同時に、傷口から血が噴き出す。


(カミキリムシ関係ねぇ~)

 親父は言いかけて、その言葉を飲みこんだ。

 空気を読んだわけではない、たこ焼きが思いのほか熱かったのだ。

 言葉を飲んだというか…アツアツのたこ焼きを飲みこんだのだ。

 結果、言葉にはならなかった。

 スッと静かに水を取り速やかに流し込まないと流動が火傷しそうだっただけ…。


「勝ったー!! さぁ食事にするわよ」

 何事も無かったように席に戻る一向。

「勝った…気がしない…」

 午後の日差しをいっぱいに浴びる昆虫人間エドモンド。

「早く来なさいよ、アンタの名前決めなきゃなのよ」

 B・Bの呼びかけが無ければ、どのタイミングで戻っていいか解らなかったエドモンド、トボトボと戻って行く。

 その脇で、荷車に乗せられたカニトカゲが運ばれて行った。

 エドモンドの脳内では『ドナドナ』が流れていた。

「ある晴れた昼下がり…悲しそうな瞳で見ているよ」


(覚えてろよ…エドモンドー!!!!!)

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