第53話 長所はソレじゃない

 少々、陽が傾いた午後3時、逆光で良く見えないが、そのシルエットにはまったく見覚えは無かった。

「言いてぇことは山ほどあるが…テメエに関わったおかげで、この様だ」

「どちら様で?」

 うどんをもったまま、オヤジが立ち上がる。

 よく見ようと目を凝らすが…やはり見覚えはない。

 御一行の凄いところは、この状況下でも誰一人、食事を止めないことだろう。

 B・Bに至っては、チラっと一瞥しただけで、ミートソースに手を伸ばしている。

 目の前でミミズそっくりなナノマシーンをズルズルすするHALを見ながらミートソースをだ。

「強メンタルよねーB・Bって」

 プリンセス天功が呆れている。


「強メンタルはテメエもだこの野郎!!」

 ズイッと1歩前へ出て店内へ踏み込んだ声の主。

 二足歩行の人面トカゲが蛍光灯の下に表れる。

「キモッ」

 プリンセス天功が自分の肩を抱いて、1歩後ろへ下る。

 思いっきり嫌悪感が顔にブワッと滲み出ている。

「なんとも形容しがたい容姿ですな…ダンナ…」

「あぁ…どこの誰かは知らないが、あのビジュアルには同情と嫌悪しか湧かないな」

「ご愁傷様です」

 B・Bが深々とトカゲ男に頭を下げる。

「力強く生きてくだせぇ…食べかけですがコレ良かったら」

 オヤジがトカゲ男にコップヌードルを差し出す、カレー味だ。

「こっちのほうが良いのでは?」

 HALが、ミミズにそっくりなナノマシーンをトカゲ男の足元へ曇ったコップに写して差し出す。

「俺はトカゲじゃねぇ!!」

 コップを尻尾で弾き飛ばす。

「えっ?」×5

「まさかの自己否定よ~」

「そこまで追い詰められているんでヤスよ…」

「落ち込まないでくださいリッパ―さん」

 HALの一言。

「えっ?」

「リッパ―?カニ男じゃなかったの…」

 B・Bが露骨に驚く。

「声紋認識の結果、間違いありません」

「気づいていたのかHAL」

 エドモンドがHALに尋ねる。

「登場コンマ2秒で」

 シレッと答えるHAL。

「知ってて、この扱いか」

「空気を読んだ結果です」


 なんだか切れかけた蛍光灯の下まで近づいて来れば、面影があるようなないような…背中に甲羅を背負っているあたりに、そこはかとなくカニ時代の風味が残されているっちゃあ…いる。

「なんだか…何と言っていいのやら、なんだか申し訳ないというか…」

 エドモンドが罰が悪そうにリッパ―から目を逸らす。

「オマエにだけは言われたくないわ!!」

「面倒な、エドモンド、チャチャッと片づけてしまいなさい」

 ビシッとB・Bがリッパーを指さす。

「まぁ…なんだ…もとカニの風味を活かした面妖なトカゲ、食事が不味くなるわ」

 プリンセス天功がパサパサのハンバーガーを食べながら言葉を重ねる。

「カニ風味って、カニカマみたいでやすな、アハハハハ」

 オヤジが笑う。

 手には天ぷら蕎麦。


「致し方ない…行くぞ!!」

 エドモンドがライトセイバーレプリカに手を掛ける。

「待った!!」

 カニカマ…もとい、リッパ―の後ろからナポリタンをすすりながら現れたアナハイム。

「改造人間通しの決着は…ズズズッ…変身せんとなエドモンドくん」

「なに?」

(それも最もだ)

 一同深く頷いた。

 ジトッとした視線がエドモンドに集まる。

「そういうものなのか…」

「マスター、此処はジャポンです、郷には従っておかないと」

「解った…気乗りはしないが…では…変身!!」

 とかなんとか言いながら、ちゃっかりポーズを練習していたエドモンド、HALのメモリーに、それっぽい資料があったのだ。

 バッタの改造人間が活躍するアレだ。

 グギギギギッと身体が変化していく。

 明らかに最初の変身より変化の速度が速くなっている。

「アレね~馴染んできてるのね~順応早いわ、ホント」

 B・Bが呆れたように呟く。


「そうじゃ、そういう感じじゃ、行け!! カニトカゲ!!」

 アナハイムが嬉しそうにはしゃいでいる。

「うるせぇ!! 言われなくても殺ったるわ!!」


「いきなりで恐縮だが、食事中につき手っ取り早く済ませてもらおう」

 転がるようにもつれ合いながら外に出た、カニトカゲとカミキリムシ。

 バッと離れ、カミキリムシが羽を広げて宙を舞う。

「いつの間にダンナは飛べるようになったんですかい?」

「あれね…もう人間じゃないわねエディは…」

「大したものね~遺伝子の結合って凄いのね~」

「マスターの人知れず修行していた賜物です」

「あ~人知れず変身してたのね…どうりで浸食が早いな~と思ってたわよ」


「行くぞ、必殺ライダーキ~ック!!」

「お~」

 上空からカニトカゲめがけて、急降下してくるカミキリムシ。

 ガシンッ……。

「えっ?」

 一同驚愕、てっきり吹き飛んでボカーンって爆発するかと思いきや、割とガシッと受け止められている。

「はて?」

 一番首を傾げているのはエドモンド自身である。

「マスター、カミキリムシはバッタと違って脚力は大したことありませんよ」

 カニトカゲがニヤッと笑い、甲羅の付いた尻尾を振り回してカミキリムシを弾き飛ばした。

 ズジャッと地面に叩きつけられるカミキリムシ。

「HAL、早く言ってくれよ…見てたじゃん…練習するとこ見てたじゃん…」

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