第51話 向こう側

「静は、人魚の肉を食ったのか?」

 エドモンドがB・Bに聞いた。

「えぇ…正確には、リリスと呼ばれる地球外生命体のDNAを取りこんだということね」

「適合した」

 プリンセス天功が真面目な顔でB・Bを見ている。

「そういうことね…不適合者は人魚となって永遠に海を彷徨うの…満たされない空腹を満たそうと人を襲い続ける」

「私たちが見たのは…」

「そうよ…もと人間、呪われた、もう地上に戻れぬ呪われた人間」

「なんだか悲しい話ですぁね…戻す薬があったような…」

「おい…」

 エドモンドがオヤジを刀の柄で強く突く。

「静は、なぜ日本へ?」

 エドモンドが話を戻す。


 静は、ひっそりと生きていたの…でも、戦争中に米軍に偶然捕まってね…死なない女の研究が始められた。

 対象が死なないのだから…時間は無限にある、どんな無茶もできる。

 知的好奇心の赴くままに研究は進められた。

 彼女の口から時折でる固有名詞『卑弥呼』

 とある仮説が持ち上がる。

 世界に残る伝説も、辿れば一つになるのでは?

 キリストを産んだ『マリア』、そのキリストと行動を共にした『マグダラ』、奇跡の伝承は事実も含まれているのでは?

 目の前にいる『静御前』と名乗る女を見れば、むしろ…。

 不死の身体を持つ者、何人かは見つかった…人魚も何体か手に入れた。

 ヒトが自らの設計図を書き換えることが可能になった頃、自らの手で『神』を造ろうとした…それはただの好奇心。

『卑弥呼』『マリア』などと呼ばれる女性、不死者から時折聞く名、実は同一人物ではないだろうか…その女性は何なのか?

 それが知りたかった。

 不死者の身体をベースに72人の悪魔の名を持つ子供が造られた…。

 酷く不安定な不死…比較的安定している個体には区別として『BEYOND超えた者』の意を名前とした。

 その数、わずか3名。

『ナベリウス』・『バアル』・『ベリアル』

 その他は廃棄(凍結処分)された。


「ベリアル…って」

 プリンセス天功がB・Bを見る。

「そう…アタシが、そのひとり」

「B・B…オマエ…静の子供だったのか」

「…微妙に違うわ…エドモンド…でも思ってた以上に伝わってて安心した」

「そうか」

 嬉しそうなエドモンド

「違うわエディ…軽くバカにされたのよ」

「そうか?」

「ダンナはまったく、困ったお人でさぁー」

「アンタは論外だから」

 プリンセス天功がピシャッとオヤジを制する。


「まぁ…今日は、ここまでにしましょう、冷めちゃうわ」

「そうだ、俺は、とりあえず、オマエがなんであっても仲間だと思ってるし、うん…別に気にもならない、少々変わった子供ってだけだ」

 エドモンドがニコッと笑う。

「アタシより、カミキリムシの遺伝子に馴染むアンタのほうが気持ち悪いと思うわ、そんなヤツに変わり者扱いされてくないわよ!!」

 バシッとエドモンドにお手拭を投げるB・Bの顔…笑っていた。

(ありがとう…エドモンド)

 思ったかどうかは知らないが…。


 同時刻、食事中のDrアナハイムとリッパ―の米軍小隊。

「ドクター、箸の持ち方はコレでいいのか?」

「お前さん不器用じゃのー、こうじゃ」

「そう言われても…指の数が違うんだぜ、余った指の置き場に困るんだが」

「ふ~む…折りたたむ機能をつけるかの~」

「ドクター、そろそろジャポンへ上陸します、水陸両用車両に移動してください」

 若い兵士が入ってきた。

「あぁ…では行くかのリッパ―くん、今度は勝てるといいの~」

「自信が無いのかいドクター?」

「カミキリムシに勝てないカニ…今度は勝てるかな~って、まぁ負けても、また何か考えるだけじゃけどな~ギャハハハハ」

(笑い事じゃねぇ…)

「ドクター進路は?いつものトコじゃ、まずは静ちゃんに挨拶じゃ」


「あぁ…そうか…バアルがね…今度は何用か?…わかった…好きにしろと伝えろ」

 静御前が愛想なく応える。

「レプリカが揃うか…この地で…」

 ペンダントの先に付いている緑の勾玉を指で弄びながら、遠い目をして夜空を眺める。

 少し考え、ため息をつくと、スーツを呼んでこう伝えた。

八百比丘尼ビクニ浦島太郎ウラシマに連絡してやれ、ビヨンドが揃うとな…」

「三種の神器を奪いに…ですか?」

「さぁな…ベリアルはそのつもりだろうが…バアルは解らん…ナベリウスが、どっちに就くか、私は神ではないよ、解るはずもない…行け」

「承知」

 スーツを部屋から出すと静御前は静かに呟いた

「神に仇名すか再び…この地が現代のバビロン退廃土地となるか…」

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