第50話 死なない?どゆこと

「ダンナ、ダンナ、死なないってどうゆうことですかね?」

「さぁな~、そんな薬とか売ってないのか?」

「ありますぜ、この人魚印のドリンクを飲めば、そりゃあもう」

「人魚…じゃと…お主、人魚の肉を食うたのか?」

 静御前がオヤジをギロッと睨む。

「肉?エキスが入ったドリンクでやすが…」

「エキス?それを持ってこい」

「荷物は…取り上げられてますが…」

「ふむ…ここに持て!!」

 扇子を一振りすると、何人かが玉座の周りから離れる。

 しばらくすると、部屋にUFOレプリカの荷物が一式運ばれた。

「探せ」

 オヤジを指さして一言だけ指示する。

「あっ…はい…え~と…」

 一緒に探すプリンセス天功がエドモンドに小声で話しかけた。

「ホントにあるの?無ければ…」

 首を掻っ切るジェスチャーをするプリンセス天功。

「あるだろうな…だが…効くかどうかは…」

 エドモンドも少しは学習している、オヤジの話は

 HALがコロコロと転がってガラクタの中にマニピュレーターを差し込む

「これでは?」

 と箱入りのドリンクをオヤジに差し出す。

「ソレです」

「では、ソレを持ってこい…HAL」

 御前が命令する。

(HALを知っている…)

 エドモンドはふと思った、当然のような気もするが…なにか違和感がある。

「ふん…3500円…リリスを捉えたということか?」

 ブツブツと箱を眺めながら何事か呟く静御前、それを見て可笑しそうにニヤつくB・B、こらえきれずに笑い出す。

「ハハハハ…アンタ信じてるの?そういうとこがマヌケなのよ、世間知らずは相変わらずね」

「まがい物…ということか…そうだなリリスを…そんなわけない」

 クスッと笑うと、箱からドリンクを取り出しグイッと飲み干した。

「ハハハッ悪くない…悪くないぞ」

 能面のように感情の無い作り物のような美しい顔、その表情が邪悪に歪む。

「お気に召したようね…精力剤が、静」

「あぁ…気に入った…お前達に、この国での自由をやろう、たまに顔を出すがよい…ビヨンド・ベリアル、愉しめよ、しばらくは国を…」

 そういうと、静御前は玉座を立ち上がる。

 後ろの襖がスッと開くと、その奥の部屋にある3mほどの黒い長方形の石板に吸い込まれる様に消えた。

「モノリス…ガイアメモリー」

 B・Bが苦々しく呟いた。


 その後、大広間に通された御一行。

「今夜は、ここでお泊り下さい、なにかあればお申し付けください、部屋の外に女中を控えさせてあります」

 大広間には食事が用意されている。

 その部屋から個室に繋がる扉がある。

 見た目は和風だが、すべてIDカードで管理されている。

 絢爛豪華な和風の中に、化学が溶け込む違和感。

(静そのものだわ…)

 B・Bが溜息をつく。

「ドリンク…よほど気に入ったんだな」

「そうでやすね、これほどの厚遇を受けるとは」

「なんでも取っとくものね~」

 3人の現代人は呑気なものである、疑いも無く食事を口に運ぶ。

「バカ…」

 ご丁寧に、HAL用にお膳のうえに新鮮な金粉掛けミミズ(ナノマシーン)まで用意されている。

「食えよB・B」

 エドモンドが刺し身を差し出す。

「アンタ…なんの魚か知ってるの?コレ?」

「さぁ?」

「人魚よ…」

「はっ?嘘だろ?」

「ウソよ…バカ」


「聞かせてよ、人魚って何なの?」

 食事中に口を開いたのはプリンセス天功だった。

「そうね…少し話しておくわ」

 B・Bが箸を止め話し出す。


 静御前はね…

 昔、追われ逃げていく途中で彼女は夫と嵐に見舞われた、運良く船は沈まなかったが、帆を失った船は2週間、日本海を彷徨った。

 病死者・餓死者が出始め、死んだ者は生きている者に食われていった。

 そんなとき、光る船に乗って表れた女…名を『卑弥呼』と名乗った。

 彼女は甲板で横たわる者に食事を振る舞った。

 貪るように出された食べ物を口に運ぶ、静も水で流し込むように胃に押し込んだ。

 しばらくすると…皆、もがき苦しみだした。

 静も…それでもいいと思った、毒でも最後にお腹いっぱいに食べれたから…。

 意識が遠くなる、そんな中で見たものは、愛した夫『義経』が化け物に変わる様子。

 見回せば、皆、同じように化け物に変わり海へ飛び込んでいく。

 自分も、あぁなるのだと目を閉じた。

 目覚めたのは甲板。

 手を見て、恐る恐る顔にふれる、どうやら自分は化け物にはなっていないようだった、どのくらい彷徨ったのか…彼女は、行く土地で神となり…悪魔となり…流浪した。

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