第49話 おいでやす

「リピート、アフターミー…おいでやす~」

「おいでやすー」

 HALがジャポン語を3人にレクチャーしている。

「リピート、アフターミー…毎度あり~」

「毎度ありー」


「HALか私が翻訳すればいいだけじゃないのかしら…」

 B・Bが呟く。


 さて一行が連れて来られた高層ビルの地下。

 身体の痺れもとれて、閉じ込められた窓の無い部屋。

 誰も試してないが、ドアはひとつ、カギが掛かっているはずだ。

 カニ鍋の途中で、誰も武器を持っていなかったせいか、何かを盗られたということもない。

 縛られてすらいない。


 ガチャッ…ドアが開いた。

(鍵掛かってなかったんかい…)

 そう…軟禁すらされていなかった。


「日本語の勉強時間だったか?悪いが…そろそろ身体は動くよな、御前ごぜんがお待ちなんだが…歩けるよな?」

 スーツ姿の出来るビジネスマンといった風貌の男が入ってきた。


 恥ずかしくて下を向いたまま4人は頷いた。

「あなたはジャポン語を話さないのね」

 プリンセス天功が先頭を歩くビジネスマンに話しかける。

「ジャポン…あぁいえ、英語も話せるだけです、普段は日本語ですよ」

「髪型も変わっているわね」

「シチサンと言うのです。御前に使える者だけに許されたエリートの証です」

「シチサン?」

「えぇ…表面積を7:3に分けることから、シチサンと呼ばれています」

「なるほど…」

 プリンセス天功が後ろを歩くオヤジをジッと見る。

「なんでやす?」

 クルッと振り返るとビジネスマンに

「ねぇ、もし禿げたらどうするの?」

「それは……残念ながら引退ということに…いや、もちろん禿げ方によってはギリギリなバージョンもあるのですが…」

「そうなの…死活問題なのね~」

 再びオヤジの頭を眺める。

「いや…あの方ならば、脇の髪を伸ばしてこう、グイッと頭頂部に持って来ればあるいは」

 後頭部で手を組みながらブラブラと歩いていたB・Bが退屈そうにビジネスマンに聞く。

「で?アンタの言う御前って…しずかでしょ?元気なんだ?あの牛女うしおんな

「牛?御前さまを牛扱いとは!!」

「あのバカデカい乳は牛よ、牛!!」

「オマエは、真っ平だものな」

 久しぶりに口を開いたと思えば余計なことを言うエドモンド。

 ふとももに、いい感じの角度でローキックが入る。


「ここに御前さまがおられるが…無礼は許さんぞ、たとえ客人であれ」

「はん!!」

 B・Bが面白くなさそうな顔でそっぽを向く。

 向いた先には、太ももを擦りながらヒョコヒョコと歩くエドモンド…変身前はそれほど丈夫には出来ていないらしい。


「ここだ…くれぐれも失礼の無いようにな」

 ジロッと御一行を端から睨むように目でも訴えてくる。

 失礼なこと以外何もしなそうな連中である。

 ビジネスマンの心配も推して知るべし。


 重そうで無駄にデカい扉が開くと…玉座にうやうやしく腰かける、派手な着物の女性がチラリとこっちを見ている。

 小声でエドモンドがHALに

「アレが御前さまという奴か?」

静御前しずかごぜん、始祖の民…地球最古の知的生命体です」

「…始祖?知的生命体?…なんか偉いのだろうという感じは理解するが…」

 B・Bが数歩、ツカツカと玉座に歩み寄る。

 脇からスッと数名の御付がB・Bとの距離を詰める。

 その後ろからエドモンドも御付との距離を詰めている。

 無言で歩を進めるB・B、1歩…また1歩と進む、その周りをスッ…ススッと体を入れ替えるエドモンドと数名の御付。

 まるで一瞬も止まらないチェスのような異様な光景。

 御前の前までB・Bが進むと、スッと御前が扇子で御付を制する。

 先に口を開いたのは御前のほうであった。

「久しぶりね…ビヨンド・ベリアル」

「始祖って奴は、死ぬことすらしらないくせに、一丁前に時間の流れは感じるの?」

 フッと笑い、口元を扇子で隠す御前、その扇子をパチンと閉じてスッと刺した先に『田中酒店』と書かれたカレンダー。

 エドモンドには読めない文字ではあったが、カレンダーであることは理解できる。

「なるほど…」

 思わず小さく呟いたエドモンド足にB・Bの裏拳がバシッと入る。

 再び、うずくまるエドモンド。

「あんたのそういうところが大嫌い…しずか

「フフフ…ここは我らが産まれた始まりの土地…貴様らレプリカ風情に支配できると思うなよ」

「レプリカだぁーぁ!?」

「そうであろう…貴様は絶惑星のカスから偶発的に発生したヒトが造りだした、人造の神であろう…事もあろうに、我らに近づき…いや超えようとすらした愚かな所業の成れの果て」

「それを恐れてリバースバベルを発動させたくせに、威張るなよ死なないだけの臆病者が」


 小難しい話に完全に置いて行かれたエドモンド。

 気になるのは、痛む両足の腫れ具合だ。

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