第45話 嘘も方便

「はっ?」

 目が覚めたエドモンド、慣れない複眼で目を回したのである。

「なんか気持ち悪い」


「気持ち悪いのはアンタのほうよ」

 B・Bが大きな鏡を指さす。

「うぉ!!」

「それがアンタの今の姿…御愁傷様…カミキリムシらしいわよ」

「何がだ?」

「何がって…アンタが」

「俺は…バッタだったのか…」

「バッタじゃないわよ、カミキリムシよ」

「ダンナ…気をしっかり…えぇ、まぁかっこいいとも思わないでもないですぜ…」

「俺は…ついに虫になったのか…」

「えっ?悲願だったの?」

「んなわけあるか!!」


「早く戻りなさいよ…面倒くさい」

「マスター解除はリリースと叫べば大丈夫です」

「リリース!!」

「うるさいわよ!! 寝てるんだから~…あっ、元に戻ったの」

「激痛が…痛い…」

「マスター皮膚組織を変化させるんですから我慢です」

「なんで…俺はこんな目に…」

「そういう星の下に産まれたとしか言えないわ…」

「ダンナ…元に戻れただけでもよしとしましょうや」

「それ以前に…変身したことについては、なにかないのか?」

「過ぎたことを、いつまでも…女々しい男ね」

「過ぎてないだろ、現在進行形だろ…」

「いいじゃない!! 強くなれたんだし~」

「天功の言う通りよ、人間が頑張って到達できるレベルをぶっちぎりで超えたのよ、大したリスクなしで」

「マスター、先ほどの戦闘から変身後の能力を数値化してみました」

【身長】:大体200cm

【体重】:おおよそ100kg

【パンチ力】:いい感じで入れば10t

【キック力】:長淵キック20t

【ジャンプ力】:風船を取る感覚で50m

【走力】:絶好調時100mを5秒

【視力】:目を凝らせば20km先の看板を正確に読み取れる

【聴力】:集中力次第で20km四方のささやき声が聞き取れる


「スゴイじゃない!! 装甲騎兵なんて目じゃないわね~」

「ダンナ、キモい姿に目をつぶれば無敵っぽいじゃないですか」

「そうよ、ちょっとカミキリムシが混ざっただけで、その能力よ、ノーリスクってほうが信じられないわよ」

「いえ…ノーリスクではないようです」

「えっ?」×3

「ほらな…だと思ってたんだ…俺のことだもん」

 気落ちするエドモンド。

「マスター、変身を繰り返すと、融合が進むようですよ」

「それって、アレ?徐々にカミキリムシに近くなるってこと?」

「いやだー!!!!」

「カミキリムシにと言うか、人で無くなるというか…」

「この際です、ハッキリ言ってやってくだせぇHALさん」

(他人事だと思いやがって…)

「そうよ、エディだって、そのほうがいいに決まってるわ」

(エディって…オマエ興味だけだろ、顔が楽しそうなんだよ…)

「アタシ…どっちでもいい…変身されても勝てそうだし」

(お前は何物なんだい?B・B)

「では、戻れなくなります…確実に」

「それだけ?」

(それだけ?じゃないだろ!!大問題だろー)

「思ったより、大丈夫そうですなー」

(何を想像したんだオヤジ!!)

「想定内ね!!OK!!」

(OKじゃねぇー)

「そうですか、まぁ受け手の問題ですからね、こういうのは」

(HAL…お前もか…)


「変身しなきゃいいんだろ?ようは…」

 エドモンドが確信を突いてきた。いつになく。

「えっ?」×4

「なんだ、その驚いたような顔は?」

「いや…ちょっと意外だったわ」

「なにが?」

「いやダンナ…まぁお約束というか…」

「なにが?」

「エドモンド、孤独なヒーローってのは、リスクを承知で変身するものよ」

「俺はヒーローじゃない」

「マスター、改造人間を倒すのはヒーローの役目です」

「改造人間って、あのカニ男なら倒したぞ」


 一方その頃…。


「いやぁー、あの爆発でよく脱出できたもんだのー、リッパ―くんも回収できたしの」

 培養液で不機嫌そうなリッパ―。

「さすが人魚の肉を喰うた男は簡単には死なないのー」

「今度は何に改造しようかのー、なにせ、死なない身体がベースじゃからのー、思い付きで改造しても大丈夫じゃもんなー、感謝しとるよ、リッパ―くん」

 聴こえてはいないが、ガラスの向こうで、アナハイムのじい様が何を考えているかは理解しているリッパ―である。

(エドモンドを殺したら、アイツを殺してやる…)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る