第39話 同族嫌悪

「人魚?」

 UFOレプリカ、現在潜水モードで運航中である。

 強化ガラスの向こうに、なんとも凶悪そうな醜悪な化け物が爪を立たり、噛みついたりと無駄な努力に勤しんでいる。

 その姿は、エドモンドが知っているソレとは大きく異なる姿をしていた。

「あれが?」

 思わずソレを指さすエドモンド。

「知能は低いわ…ほぼほぼ不死身だけど」

「不死身?」

「説明しましょう」

 HALが出番とばかりに転がってくる。

「アタシは興味ないから、寝る~」

 B・Bが自室へ戻って行った。

 UFOレプリカ、意外と広いのだ。

 8畳ほどのスペースがいくつか空いているので、各々、個室として利用している。


 そもそも、人魚とは…HALの長い説明が始まった。


 その昔、地球に、おそまつな生命しか居なかった頃の話…HALの話から察するに、ナカムラ家の始祖より、ずっと昔の話から始まるようだ。

 この惑星に流れついた漂流者がいた。

 その姿は、ヒトに近く、それでいてヒトではない。

 白い肌を海水に浸し、広大な海を漂った…幾日も…幾月も…。

 弱ることは無かった。

 ヒトに近く、ヒトでない者は、決して死に到達することは無いのだから。

 ただ独り…どれくらいの時間を過ごしたのだろう、自分には時間の感覚がすでに無い。

 長い…長い時間が流れた。

 海の環境も変わった。

 生き物と呼べる、不器用な姿をした生命が溢れだし、時として自分に興味を示す様に、身体に触れてくる生き物もいた。

 それは、興味…食欲…あるいは偶然。

(独りじゃなくなった)

 嬉しかった。

 だから…さよならが怖くなった…。

 だから…身体を分け与えた。


 ヒトに近く、ヒトでない者を食ったソレは…『人魚』となって永遠を生きるモノになった…。


「寂しいような…話だな…」

「そう思いますか?マスター」

「あぁ…それがなぜ、ああも、俺たちに威嚇行為を繰り返すのか?」

「それは…ですね」

「アタシのせいよー」

 一瞬、ビクッとなるエドモンド。

「B・B…」

 HALが躊躇しているように呟いた。

「いいのよ…話してやって」


『ヒトに近く、ヒトでない者』は、1人じゃなかった…。

 少し後で、もう1人、この惑星に辿り着いた者がいた。


 後に最初に辿り着いた者を『ナニカ』

 その後に辿り着いた者を『ダレカ』と名付けました。


『ダレカ』は、『ナニカ』と違って、人間の祖先となる哺乳類に自らをDNAに喰いこませた。

 融合とも、侵略でもない、言うなれば共存。

 そのDNAは受け継がれ、そして薄まり…しかし途切れることなく生き続けている。


『ナニカ』は『ダレカ』を嫌った。

 自らの分け身である『人魚』こそ、この惑星の覇者であると思っていたのに、『ダレカ』を受け継いだ猿は、あっという間に惑星でえ広がっていった。

 そして、惑星の覇者を名乗ったのである。

『ナニカ』の目的はひとつだけ…。

『ダレカ』のDNA、自らを進化させていくために必要な知恵。


「知恵?人魚はバカなのか?」

「知能はそれほど高くありません」

「その代わりに、限りなく不死に近い身体をもってるのよ」

「対して、人間は寿命に限りがある代わりに、自らのDNAを変化させながら情報を伝達していくわけです」

「つまり…すぐ死ぬ天才と、死なないバカ…」

 B・Bがエドモンドと人魚を交互に指さす。

「合わさると…死なない天才が出来るってわけね」


「アッシが人魚を食ったらどうなるんやすか?」

 いつの間にかオヤジが人魚を見ていた。

「死ぬわ…99%ね、1%は不死を得る」

「で…なぜB・Bに?」

「アタシが…その1%だからよ」

「食ったのか…アレを」

「ソレとは知らずにね…」


「だから…人魚に恨まれてるってこと?」

 プリンセス天功も会話に混ざる。

「そうかもね…仲間を食われたからかもね」

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