第38話 馬鹿とリッパ―は使いよう
空母テンプラ、カニを引っ張るその姿は威厳を失いつつ、微笑ましい。
艦内ではカニを目当てに群がる海洋生物の投網漁や釣りがブームである。
寄ってくるのは海洋生物だけではない。
しっかりとUFOレプリカも付かず離れず並走していた。
「食糧問題は、しばらく問題なさそうね」
B・Bが釣り糸を垂れる。
「しかし…魚ばっかで飽きて来たわ」
プリンセス天功がUFOレプリカの上で干物を干している。
「ダンナ、ダンナ、醤油と魚類の相性は抜群ですな、偉大なジャポンの文化ですな~」
「海を渡るというから買い貯めしといて正解だったな」
「知ってますか?プリンに醤油を垂らすとウニの味がするそうです…私には理解しかねますが」
「あぁ…それは昨夜試して嘘だと身を持って知ったばかりだ…」
HALのデータベースをエドモンドが完全否定した。
「よく考えれば、ウニなんて山ほど取れるんだから、無理して試すこと無かったんだ、比較するから微妙な差が違和感として…云々」
別に試さなくても、新鮮なウニは海底で採取できるのだ。
検証には相応しいかもしれないが、結果が残念になるのは目に見えていた。
「目を閉じて、鼻を摘まんで食べれば…体調次第ではあるいは…」
エドモンド談であった。
「毎日、違うモノを食べなくてもいいじゃないですか」
ミミズに酷似したナノマシーンを飽きもせずに摂取しているHALにしてみれば、食事とはカロリー摂取以外の何物でも無く、味などどうでもいい、理解し難いテーマなのである。
空母テンプラでは、カニ祭りも終わり、通常運行体制でジャポンを目指して海の真ん中。
目指すは、海の果て、滝の直前に存在するという、伝説の国ジャポン。
「そこ~に行けば~どんな夢も~叶うというよ~♪」
リッパ―が甲板で歌っている月夜の晩。
その目には涙が浮かんでいる。
「どんな夢も~………俺の身体を元に戻せー!」
この数日間で、また2つの機能が追加されていた。
魚群探知機と投網である。
「なんの役に立つのだろう…」
自問自答しながらも、空母テンプラの食糧事情に大きく貢献している自分が情けなくなってきたのだ。
最近、眠れない日が続いている。
次に目覚めた時に、自分の姿が変わっている恐怖は、他の誰にも理解できまい。
ある朝目覚めたら、魚影が見えるのである。
もう、なにがなんだか…。
Drアナハイム、無駄に声がでかい年齢不詳のじい様。
アイツは俺を玩具にして遊んでいる。
そして、今…左手から伸び広がる、巨大な投網を巻きあげているわけである。
エビ・カニ・ウニ…様々な魚、と…人魚…ん?
上半身が人間、下半身が魚…なるほど人魚だ。
「思っていたのと違う…」
下半身はともかく、上半身が…致命的に違う。
毛のない猿だもん…牙と爪が異様に発達した毛のない猿。
ついでに言えば、なんかやたらと凶悪そうで好戦的な性格。
投網に絡まりながらもリッパ―に飛びかからんと、ビタンビタンと跳ねまわっている。
「ほうほう、人魚じゃな…ひい…ふう…みい…なにやらいっぱい獲れたの~」
いつの間にかリッパ―の背後に立っているDrアナハイム。
ビクッとなる。
この爺さん、なんで俺のセンサーに引っかからないのか…。
すでに改造人間の自覚を持っているリッパ―、『気配』とか考えなくなったあたりが場に染まってきている。
「これだけの人魚を集めるということは…案外、近くにいるのかの~ビヨンド・ベリアルが」
(独り言か?何言ってんだ、このジジイ…ボケたのか)
独り言には違いないが、やたらと声がデカいので、あまり独り言にならないDrアナハイム。
「くしゅんっ!」
同時刻、B・Bがくしゃみをしたのは、お約束である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます