第36話 目覚めればカニ
リッパ―にとって、悪夢のような一夜が明けた。
幾度か死ぬかと思った…。
リッパ―を救助したのは、地元の潮干狩りツアー参加者、御一同様であった。
掘り出されたリッパ―が丁寧にお礼を述べ、向かったのは野営地である。
ハイエナにでも襲われたような惨状、片目をつむったまま、海岸線を睨みつけ朝日に誓った。
(あのガキ、必ず殺す…)
リッパ―の鼻は赤く腫れていた、海水が滲みて涙が止まらない。
閉じたままの片目は、好きで閉じているのではない。
カニに食われたのだ。
カニは食うものだと思っていたリッパ―は考えを改めた。
(カニも、いつまでも食われるばかりじゃないってことだ…)
食われた右目がズキズキ痛む。
この痛み、癒えても忘れねェぜ。
近所の旅館で電話を借りて、無事?回収されたリッパ―が輸送された先は…航空空母艦テンペスト・プライズ通称テンプラ。
残念ながら航空技術は格段に衰退した現在において、海上の重要性は言うまでもない。
衰退した航空技術に対して、比較的、旧世界の技術を劣化させることなく引き継げたのが人体改造である。
もともとは、マニピュレーターに代表されるマシニング技術と医療分野の義手・義足といった技術が近づいていった結果、軍事利用されることとなり急速な発展を遂げたのである。
ある種の技術のカンブリア爆発といったターニングポイントには、ブラックテクノロジー、地球外惑星生命体からもたらされた技術の投入があったのだが、その技術を失わなかったのはAREA51の存在が大きい。
その人体改造のエキスパートが、今、リッパ―の目の前にいるDrアナハイムである。
マッドサイエンティスト、そんな形容詞が白衣を着て歩いているような年齢不詳の老人である。
見た目、100歳は楽々超えていそうなくせに、やたらと声がでかい、元気な老人だ。
リッパ―を見るなり
「ほう~…ほうっ…ウヒャハハッハ」
と歩み寄ってきて、嬉しそうにリッパ―の顔をペシペシ叩いて喜んでいる。
「片目を失ったか?うんうん…大丈夫だ、ちょうど試作品が出来たんだ義眼の…脳に直結させるから、まぁ軽い頭痛は後遺症として残るだろうが問題ない!」
なにが問題ないのか解らないが、Drアナハイムはリッパ―を構いたくてウズウズしていることは間違いない。
「よし! 手術室へ運べ」
「はっ?…うっ…」
喉脇にチクリと痛みが走ると急激に意識が遠のいていくリッパ―であった…。
ズキズキとした右目の痛みで眠りから覚めたリッパ―がベッドから飛び起きたのは1週間後のことであった。
(痛ェ…)
視界が少しおかしい。
チュイン・チュインとモーターの駆動音がする、その度に右目の奥と脳みそがズキンと痛む。
「おうおう、お目覚めかね リッパ―くん」
Drアナハイムが嬉しそうに近づいてくる…距離518…517…気づけば視界に数字がカウントされている。
「どうかね?ちゃんと機能しているかね?私との距離は表示されているか?ん?」
「なんだ?俺に何をした?」
「ちょっと、いじっただけじゃよ、なぁに礼はいらんよ」
「礼だ?ふざけるなよ!」
リッパ―が左手でDrアナハイムの胸ぐらを掴もうと手を伸ばすと左手が義手になっていた。
「なんだコレは?」
驚くのも無理はない…左手はカニのようなハサミになっている。
「えっ?もしかして左利きじゃったか?」
「あ?」
「じゃったら悪い事したかなって…」
「右利きだが…」
「おうおう…じゃあ問題ない! 便利じゃぞ~その左手は…アヒャハハハハ」
(なんなんだ…なにが起きてるんだ、俺に)
「早速、試すとよいわ」
クイッとDrアナハイムが指さした先のモニターには、航空空母艦テンプラに劣らない巨大なカニが横切ろうとしていた。
「ちょうどいい相手じゃ、お前さん、アレ軽く絞めてこいや」
「あっ?あんなものに勝てるわけねぇだろ!」
「そうかな…試してこい…」
不敵な笑みを浮かべるDrアナハイム、その笑みは負けるわけがないという自信が溢れていた。
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