第35話 いざ、クルージングへ

「おい、お前達の食糧の中に青のりはあるか?」

 B・Bがリッパ―に聞く。

「俺が知る訳ねぇだろ!」

「ほぉ~まだ立場が解ってないようだな…オヤジ!」

「へい!」

 オヤジがリッパ―の鼻の穴にカニのハサミを近づける。

「やめろ…それは…シャレにならないんだぞ」

「ジャポン伝説の鉄人、テツロー・イデガワは、その強靭な精神力で耐えたそうですよ」

 オヤジがサラッと言い放つ。

 放射能だかなんだかで、カニも強制的な進化を遂げている、その大きさは変わらないまでもハサミだけは異常にデカいのだ。

「チョッキン、チョッキン、チョッキンな~♪」

 呑気に歌うB・B

「少尉! 止めさせろ」

「俺は、すでに少尉ではない…命令される覚えはない、もちろん聞く必要もない」

「あんたさぁ~早く言わないとさぁ~苦しい思いするのよ~、ねっHAL」

「はい、その位置は満潮時に、ギリギリ鼻が海面に出たり…出なかったりする微妙な位置をカリギュレートしました」

 表情は無いのだが、なぜだか鼻高々で嬉しそうに見えるのが不思議だ。

(あの女の人格が忠実に再現されているわ…恐るべし、ジャパンテクノロジー)


 そうこうしているうちに、リッパ―の顎の下でチャポン…チャポンと音がする。

「なんで俺が青のりごときで拷問を受けねばならんのだ! もっと聞くべきことがあるだろう! 誰の差し金か?とか気にならねぇのか!」

 ごもっともな貴重なご意見であった。

 それが、まさかの拷問を受けている側から指摘されようとは、この世の中は侮れないのである。

「そんなこと、どーでもいいのよ、夜食の焼きそばに青のりが乗るのか、乗らないのかのほうが重要なのよ、ワタシ達は、ねっ」

 B・Bがエドモンドに同意を求めるのだが…うんと言っていいのか…悪いのか…。

「そんなことは知らねェんだよ!ガホッ…どーでもいいじゃねぇか…ゴボッ…」

「どーでもいいのわ、お前らのほうだ」

 B・Bがリッパ―の頭をつま先で小突く。

「本当に知らないんじゃないのか?」

「もはや、そういう問題じゃないのよ、コイツの口から聞きたいのよ! こういう強情な奴に敗北感を植え付けたいのよ!」

 離れぎわに、思いっきりリッパ―の後頭部を蹴り突ける。

 リッパ―の敗因、それはHALを戦力外と、みなしたことに他ならない。

 B・Bを即座に危険と認識したのは、さすがと言わざるを得ない。

 一番最初に倒すべき敵と認識したのだが…転がるだけの喋るサッカーボールを無視してしまった。

 どうも、この時代の人達は、物事を柔軟に捉えすぎる傾向が強いようだ、リッパ―も例外ではない。

 そしてその柔軟性が命取りになった。

 それ自体が異常だと思わないのはエドモンドもオヤジも一緒である。

 HALの背後からの背骨を砕かんばかりの一撃に文字通り崩れ落ちたのである。


 陰険で精神を逆なでするような屈辱を与えてくるのはB・BとHAL。

 旧世界の住人である。

 リッパ―の憎悪はエドモンドではなく、この2名に向いていた。

(今度逢ったら切り刻んでる…ガボッ…)

 しかし今、一番憎いのは…執拗に自分の鼻を挟んでくるハサミが巨大化したカニ達であった。


「行った方が早いんじゃないか?」

 エドモンドの一言で、本来の目的を思い出したB・B。

「ソレもそうね…飽きてきたし」


 御一行は、リッパ―小隊の野戦(キャンプ)地で武器・食糧を物色中、端っこのトラックの荷台で、踏ん縛られた、プリンセス天功を見つけるに至るのである。


「いやぁ~いい迷惑だったわよ」

 すんなりと『UFOレプリカ』内でチンした焼きそばをフォークに絡めて頬張りながら、苦労話を語るプリンセス天功。

 誰も聞いちゃいないのだが、まぁよく喋る。

 今まで、猿轡さるぐつわをされていたのだ、気持ちは解ってあげたい。

 歯に青のりを、くっ付けながらデザートのプリンを食べている。

「ごちそうさまでした」

 両手を合わせて言うあたり、この人もジャポンの文化を微妙に受け継いでいるのかもしれない。


 御一行、荷物を積み込み、現在、夜の快適なクルージングを満喫中である。

(このまま、何事もなくジャポンへ行けるのだろうか…)

 今までの経験上、何か起こるような気がしてならないエドモンドであった。

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