第27話 ナノマシーンは大地から

 翌朝、なぜか入口でオヤジが待っていた。

「ダンナ~おはようございます」

「なんで?」

「嫌だな~遺跡採掘に付き合ってくれるって言ったじゃないですか~」

「そうだったかな…」

 結局、昨夜、オヤジと遅くまで呑んでいたのだ…そういえば、そんなことを言ったような…言ってないような…まぁ、何処に向かうでもなし…それもいいかとオヤジに付き合うことにしたエドモンド。


「さぁ乗ってくだせぇ」

 と指さしたのは、立派なトラックだ。

 ペンキで『骨董品グラスホッパー』と手書きで書かれている。

「ほぉ~立派なトラックだな」

 手を掛けようとすると

「あっ!ソコは触らないで!まだ乾いてないんです」


 トラックに乗り込んで揺られること2時間

「マスター…熱源接近…着弾まで5…4…」

「なに?着弾?」

「…1…」

 エドモンドがハンドルを奪うように切る。

 ボムッ!

 若干後方から砂煙があがる。

「冗談じゃない!」

「ちっ…すまない、俺が追われているんだ」

「何言ってんです…ダンナ!長い付き合いじゃないですか」

「オヤジ…」

「ダンナ!反撃です、荷台へ移ってください、ハンドルはアッシが!」

「ふっ…任せたぞ」


 腐れ縁…インチキ店主と常連客の奇跡のコラボ。

 トラックが右へ…左へ…揺さぶられる。

 照準が定まらないなか、エドモンドが荷台の銃火器を撃ちまくる。

 もはや腕がいいとか関係ない…撃ってる本人が何処に撃ってるのか解らないのだ…良し悪しは無関係…。


 逃亡戦は続いた…銃火器が底を付いたとき…HALがヘリに向かって突っ込んだヘリの胴体に風穴を開けると、そのまま立て続けに3台のトラックの運転席をぶち抜いた。


 後方の黒煙からヒュッと飛び出して戻ってきたHAL。

「マスター(仮)エドモンド…御怪我は?」

「ない…身体には…心のほうが重傷だ…」

「心?精神攻撃ですか?」

「……いや…問題ない…」


 その夜…トラックに積んであった食糧でキャンプして気づいたことがある。

「すまなかったな…オヤジ…俺のせいで…」

「気にしないでくだせぇ…アッシも遺物で商売しておりやす、こんなこともありますよ…ダンナ」

 泣きそうなエドモンド。

 月明かりに照らされたエドモンドの涙が光る。

(俺は…こんないい人を疑って…バカだ…俺はバカだ…)

「さぁ旦那、食べましょう、食わなきゃ明日は迎えられませんぜ」

「あぁ…」

 差し出されたナポリタン…先ほどの戦闘で軽い乗り物酔いが抜けないのだが…ここは詰め込んでおかないと、切れた口にソースが滲みる。

『米国陸軍配給品』

「オヤジ…この食料は?」

「軍の配給品でさぁ…さすがいいものを揃えてますな」


 今思えば…荷台の銃火器も扱いなれたものばかり…。

「オヤジ…」

「ヘイ」

「このトラックは…どこでどうやって調達したんだ?」

「へっ?いやぁ~なんというか…」


 エドモンドが立ち上がり…トラックのペンキを石で擦って剥がす…。

『米国陸軍 輸送部隊』

「オヤジ…盗んだのか?」

「借りたんです」

「誰から?」

「無断で」

「それを盗むと言うんだ…と思うのだが…」


「追われていたのは…オマエじゃないのか…オヤジ…」

「…………これで仲間ですね、ダンナ」

 カチャッ…エドモンドが白雨の柄に手を掛ける。

「ダンナ…旅は道連れっていうじゃないですか…」


 ヒュッ…オヤジがギリギリでエドモンドの太刀をかわす。

 歳の割に身が軽い…。


 走り回ったエドモンドが地面に這いつくばる…。

 グチャグチャと音を立ててHALが何かしている。

「何を食ってるんだ?HAL」

「ナノマシーンですが、コレを摂取することでパーツを補給しています」

 核の浄化目的で、旧文明はナノマシーンをばら撒いていた。

 大地を耕し、木々を育てるソレは…ミミズそっくりの風貌をしていた…。


 思わず異胃からナポリタンを地面にリバースするエドモンド。

「マスターもナノマシーンを摂取するのですか?」

 HALが不思議そうにエドモンドを眺める…顔は無いのだが…。


 オヤジに背中を擦られながらトラックの荷台で横になるエドモンド…。


(追われる理由が増えた…)

 再び、月にエドモンドの涙が光った。

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