第28話 旅は道ズレ
「ダンナ…気分は?」
「あぁ…随分眠っていたような…放置されていたような…そんな夢を見た」
すでに盗んだ軍用トラックを、キャンピングカー感覚で運転しているオヤジ。
狙ったのか、偶然か…寝袋に食糧に…逃亡に必要な物を積んだ車を盗んだものだ。
(侮れない…)
エドモンドは、ある意味では感心していた。
「ところでダンナ、そのブレード…ニホントウですよね?」
「ん…あぁ…そう呼ばれているな」
「銃弾をも切り裂くっていう話…本当ですかい」
「さあな…俺には出来ないがな…」
「はぁ…ジャポンか…行きたいですなー」
「ん~…東の果てだそうだ…俺の先祖はソコから来たんだ…」
伝説の国ジャポン。
東方の果て…滝が落ちている端っこに位置する小さな島国だそうだ。
「果て…はて?…地球は丸いのですが…端って?」
HALが不思議そうな顔(顔は無いのだが…)でエドモンドを眺めて聞き返す。
「日本の話ですか?」
「ニホン…ジャポンの話だ」
「97%の確率で、同じ国のことです。マスター」
「そうなのか…」
「そのブレードの名称は?」
「ニホントウだが…そういうことか…俺の先祖はニホンジンだと…どうりで…聞き覚えのある単語だと…」
「先祖…ですか…ダンナの」
「そうだ。俺にはジャポンの血が流れている…ナカムラという姓もジャポンではポピュラーらしいぞ」
「そうなんですか~、エドモンドってのも捻りの無い名だし…平凡な名前なんですね~」
「……気を悪くするぞ…」
チキッと刀を抜く音がする。
「マスターの業は居合と呼ばれる日本の剣技ですが…どこで学ばれたのですか?」
「ん…先祖代々、受け継がれてきたらしい、開祖は『八丁堀の昼行燈』の異名を取った剣客だったそうだ。」
「ダンナ…どんな意味なんです?」
「さて…考えたことは無かったな…」
「調べましょうか?マスター」
「そうだな…知っておくべきなのだろうな…先祖のことくらい」
「………検索できましたが…知りたいですか?マスター」
「もったいぶるなよHAL」
「ダンナ…ヤバイ予感がしやすぜ…」
「あぁ…伝説の剣豪だったらしいからな…異名もな…そのあたりから取られてるんだろう…」
「では…八丁堀とは日本の首都、東京都中央区のことですね、地名です」
「なるほど…首都を代表するって意味ですなダンナ…」
ポンッと手を叩くオヤジ…。
「さすがだ…ジャポンの中心地を冠に掲げるなど…俺なんか足元にも及ばない剣士だったのだろうな…」
「昼行灯のほうですが…」
「うん…ヒルアンドン…技の名なのか?」
「いえ…申し上げにくいというか…」
「それほどまでに…恐ろしい異名なのか…」
「ある意味では…恐ろしいと言えます…」
エドモンドは少し考えた…。
聞くのが恐ろしいというか…受け継がれてきた名が重いと言うか…。
「昼行灯とは…」
「うん…ヒルアンドンとは?」
「……昼は、お昼のことです」
「うん…」
「行燈とは…昔の照明器具です…」
「うん…で?」
「ですから…真っ昼間に照明使わないですよね…」
「明るいから、必要ないってことか…」
「そうです…」
「ダンナ…あっしは解りましたぜ」
「なんだ?」
「ヒントは、その光る剣でさぁ~」
「なに!コレか?」
「違います!」
HALが、ややキツイ口調で否定する。
「どちらかといえば、こっちだよな…」
腰の刀を繁々と見つめるエドモンド。
「マスター…気をしっかり保ってください…真っ昼間に、ぼんやりとした灯りがあっても役に立たないということで……」
「つまり…」
「ボケッとして役に立たない人を、総じて『昼行灯』と呼んだそうです…」
「つまり…」
「ダンナ!あっしは解りやしたぜ! つまりダンナの先祖は街一番のボケッとして役に立たない人ってことでさぁ~」
「………マスター……」
エドモンドは無言で輸送車の窓を開けた…夕日が沈むころまでエドモンドは無言で外を眺めていた…。
小刻みに肩が震えていたことは言うまでもない。
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