第25話 逃亡者の自覚

 山を下りたはいいが、エドモンドに戻る場所は無い。

 宿舎に戻るわけにもいかず、とりあえず街をブラつく…。

 どうにも追われているという自覚が薄いようだ。


「逃亡者とは…北か…南へ向かうものだ…」

 いかにもといった椅子にふんぞり返る将校が呟く。

 胸には、いくつもの勲章が品悪く、ぶら下がっている。

「で…どちらで?」

 頬に大きな傷のある、これまたいかにも懐刀ふところがたなといった痩せた男が聞き返す。

「北かな…勘だがね…」

「勘ですか…フフフ、では北へ向かってみますかね…」

 部屋を出ようとする頬に傷のある男に将校が声を掛ける。

「リッパ―…エドモンドは手強いぞ…」

「だから…俺を呼んだんでしょ、お任せください」


 刺客が放たれたことなど露ほども知らないエドモンド…現在、屋台のラーメンを堪能中である。

「砂漠の真ん中で屋台とは…恐れ入る」

「お褒めにあずかり光栄です」

「しかし店主…客は来るのか?」

「いやぁ~ライバルのいない場所を転々としているうちに…たどり着いたのが、この砂漠の真ん中ってわけで…」

「なるほど…ライバルもいないが…客も来ないと…」

「そんなわけでして…」

「そんなわけで…この価格か…」

「そういうわけで…9,800円…ラーメン1杯」

「その他にもですね…水や砂漠のMAPも売ってます」

「店主…いい商売を教えてやろう」

「へっ…」

「砂漠を安全に渡らせるという商売はどうだ…」

「いやぁ~私はラーメン屋ですから」

(砂虫に食われてしまえ…)

「金はここに置くぞ…あと…クソ熱い砂漠の真ん中だ…せめて冷やし中華くらい用意しておけ…」

「いやぁ~氷が溶けちゃうんですよ、ハハハハ」


 購入したMAPをHALに渡す。

「なるほど…大丈夫です…1時間も歩けば街にでますよ」

「砂漠を1時間歩くのか…大丈夫じゃなさそうだが…」


 大丈夫じゃなかった…。

 歩き出して20分後にサンドワーム砂ミミズに飲まれかけて…サンドラット砂漠ネズミの群れに食われかける…そして辿り着いた街は……。


 至る所に緑の子供が大人気の街。

(おぉ~緑の子供の出身地なのか…右も左もポスターやらグッズで溢れている)

 人気者なのか…緑の身体に大きい黒目、まぁ見ようによっては…可愛いのか…。

「リトルグレイタイプですね」

 HALがポツリと呟く。

「なに?グレイ?」

「リトルグレイです、皮膚が緑なのは亜種というかタイプ違いでしょう」

(なにを言っているんだろう…壊れたのかな)


「とりあえずメシにしよう」

「非効率ですね…人間というものは…太陽光と自走するだけでワタシは充分ですけどね」

「草じゃないんだ、日光だけで腹は膨らまないんだ…残念ながら」

 そう…太陽だけでは腹は満たされない、そしてお金が無ければ腹は満たされない…。

 お金が要るのだ。

「さて…財布の中身は…リアルが込み上げてくるな…」

 3,500円…給料の供給が止まっているのだ当然の結果である。

「口座から下ろせば?」

「口座?なんだソレは?」

 そう…振り込みなんてシステムは無い。キャッシュディスペンサーなど存在しないのだ。

 あんなもの…現金が落ちているのと変わらない。

『いつもニコニコ現金払い』が基本だ。

 弱肉強食。

 これがエドモンドが生きている世界なのだ。

 ………とHALに教えながら、焼肉定食1,300円を食べているエドモンドである。

 細かいことは気にしない、そのうちなんとかなるだろう…そういう性格なのか、あるいは江戸ッ子DNAだろう。


 店を出て、路地裏へ向かう…。

「さて…ここらでいいだろう…」

 エドモンドが立ち止まり後ろに気を張る。

 路地の隅からスッと黒装束の集団が姿を現す。

(3…5人か…)

 エドモンドが柄に手を掛けるのが合図のように、一斉に四方から飛びかかる黒装束の集団。

(コイツら…)

 訓練された人間、最初から最後の一人が任務を達成すればいい。

 そんな戦い方だ。

 狭い路地で刀を振り回すのは不利…相手は小太刀でエドモンドを追いつめる。

(ちょっと…マズイな…)

 劣勢のエドモンド、さばくだけで手一杯だ。


「とりあえず…排除します」

 足元のHALから高速で石つぶてが排出された。

 アッという間に片付いた…。

「圧縮した空気で石を飛ばしました、狭い場所で有効な選択をしたと自負してます」

 無言で刀を収めるエドモンド…。

(コイツ…護衛とか要らなくないか…)

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