第22話 託された遺物

 帰りの山中、ゴギンッ!と金属音が木々の間に鳴り響いた。

 反射的に頭を抑えて屈みこむ、エドモンド(元少尉)およそ軍人とは…失礼、元軍人とは思えぬ恰好であたりを見回す。

 完全に不意を突かれて弱腰になっている。

 森の中で金属音…元軍人ならではというか…この音を知っているからこその弱腰。

 この音は、重装甲弾アームドマグナム装甲兵アーマトルーパーに着弾したときの音。

 つまり…この森には軍人がいるということになる。


 そう…少なくても銃騎兵ガンナー装甲兵アーマトルーパーが1名づついるのだ。

 このあたりで戦闘は行われていない、とすれば…元友軍内の内輪もめだ。


「やっかいなことに…」

 小さく呟いた矢先に、眼前に装甲兵アーマトルーパーが現れた。

 3mほどの鎧を着こむように纏い操る、先行突破フロントミッションを遂行する捨て駒のような部隊。

 逃亡も多いと聞くが…。

 ザシュッという音と共に、鎧の胸が左右に開く、中には薄着のブロンド美人。

 長い髪を無造作に束ね、息は荒い…緑のタンクトップに黒いシミが浮かび上がる。

 脇腹を撃ち抜かれたようだ。

 身体に繋がれた無数のコードを絡めたまま、ブロンド美人が地面に倒れ込む。

 ゴギンッ!脱ぎ捨てられた装甲機の背中部から銃弾が突き抜ける。

 通常弾を弾き返す、対装甲兵アーマトルーパー用の鉄鋼弾。

 分厚い装甲を貫くために、着弾すると外装部が外れ中の銃弾が喰い込むように貫通する特殊弾だ。

 えげつない弾痕を残すエグイ武器。

 3mの暴れる鎧を仕留めるのだから、しょうがない。


 見てしまったからにはしょうがない…。

 こういう場合は金髪の美女を助けるのがセオリーというものだ。

 しかも重症とくれば迷う余地は無い。

 エドモンドが美女を抱き起そうとすると

「私のことはいい…ランドセルに格納してある遺物を…頼む…軍に渡しては…頼む…起動する前に処分を…頼む…」

 息も絶え絶えでエドモンドの手を握る。

 彼女の手から力が抜けるようにカクンと地面に落ちた。

 チッ…舌打ちをして、エドモンドが装甲機のランドセルを開ける。

 パシュッと軽い音がしてハッチが開く。

 中に手を伸ばすと

「地面に伏せろ!…逆らわずに10分ほど地面に伏せていれば何もしない」

 後方に銃騎兵ガンナーが…足音から察するに2人。


「解った…言ううことを聞くから撃つな…」

 エドモンドはゆっくりと足を曲げ、地面にひざまずく…。

「そのままだ…ブレードを後ろに投げろ」

 エドモンドは白雨を投げた。

 後ろ向きのまま、刀を拾う音を聴き…距離を測る。

 振り向き様、銃騎兵ガンナーに斬りかかる。

 ブォーンと音を立てて、よく斬れるライトが銃騎兵ガンナーの腕を切り落とす。

 フォンとライトを構えなおし、もう一人を貫く。

 理力フォースこそ使えないが、エドモンドは刀を持たせれば手練れなのだ。


 ふぅーっと息を吐きだして…銃騎兵ガンナー装甲兵アーマトルーパーの装備品を漁る。

 こういうところは元軍人のクセだ。

 生き残る確率を少しでも上げるために…。


 残念ながら…単2電池は無かった。


 追手が来る前に、立ち去りたいのだが…問題は…。

 視線をブロンド美女に移す。

 すでに事切れている。


「遺言ってやつか…まったく…面倒くさい」

 と言いつつも、ランドセルから遺物を取り出す。

「これが…命を賭してまで守ろうとしたもの?」

 サッカーボール…にしか見えない…。

 重量はある…金属で出来たサッカーボール…白とオレンジのカラフルなサッカーボール。

 蹴飛ばせば痛そうだから…サッカーボールではないだろう。


「海にでも沈めるか…」


 奪った装備と携帯食糧を鞄にまとめて、山を下りるエドモンド元少尉。

 帰り道は解っているのかエドモンドよ…。

 すでに夕方…日は落ちかけている。

 今日も野宿だ。

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