第21話 便利な刀

 なんだかんだで…2週間。

 なんか…強引に…山の中…。

 いるんだか…いないんだか…わからない…伝説のソードマスターを探しているわけである。

「俺は…本当に軍に戻れないのだろうか…なんか勢いに負けてしまったが…よく考えれば、なんで俺が殺されなきゃならないんだ?」

 ブツブツ言いながら落書きのような地図を片手にソードマスターを探しているわけである。

 だいたい地図に『上』とか『下』…『右』・『左』とか書くだろうか…。

 東西南北が上下左右に変わっている…わけではない…。

『大きい木』から右…とか書かれても…ねぇ…。

(俺は…死ぬかもしれない…今度こそ…)

 軽い死神の気配を感じたエドモンド(元少尉)。

 とりあえず…今夜も野宿である。


 人里離れた山奥だけあって、動植物は豊富だ。

 それだけが救いなのである。

 それに、楽しみもある。

 何日か前から、夕食の支度(たき火)をしていると、遊びに来る人がいるのだ。

 こんな人里離れた山奥で、人がいるだけで救われる。

 今夜も来るであろう。


 ガサッと上の木の枝が揺れる。

「よう、今夜も邪魔するよ」

「こんばんわ…コウジロウさん」

「今日は、木の実を持ってきたよ」

「いつもすいませんね~、あっ今夜は猪を獲ったんです」

「ほぉ~、猪肉か~、ごちそうだな~」


 談笑しながら、火を囲む。

「ときに…お若い方、何しに、こんな山奥へ?」

 テングさんがエドモンド(元少尉)に尋ねる。

「いやぁ~、伝説のソードマスターを探しているのですが…迷ってしまいまして…」

「ソードマスター…そりゃ難儀なことですな~」

「コウジロウさんは御存知ありませんか?」


「会ってどうされます?」

「稽古をつけていただきたく思ってます…」

「稽古ですか…なぜ?」

「なんというか…まぁ個人的な、う~ん上手く言えないのですが…悔しいのかな…たぶん…」

「負けた…ということですか…」

「………はい……」


「刀を、拝見しても?」

「えっ?」

「エドモンドさんの刀を拝見してもよろしいですか?」

 エドモンドは黙って頷き、白雨を手渡す。

 コウジロウはカチャッと音を立てて、白雨をスラッと抜き月明かりにかざす。

「良い刀ですね…手入れもいい…」

「コウジロウ…さん…」

「私の祖先は…昔、サムライマスターと戦い…敗れたそうです…名をコジロー・ササキ」

「コジロー…ササキ…」

 なぜだろう…ジャポンの血を引くせいか…その名を知ってる気がする。

 脈々と受け継がれるDNAの中に刷り込まれているのかもしれない…。

「来なさい…」

 スッと立ち上がりエドモンドに白雨を返す。


 少し離れた山小屋の壁に長刀が掛けてある。

 それよりも…このあたりを散々歩きながら、なぜ俺は、この山小屋を見つけられなかったのだろう…。

 エドモンド(元少尉)は元軍人とは思えぬ注意力の無さに愕然としていた…。

「さすがに、その刀が気になりますか?」

 そうだろう、と言わんばかりのコウジロウ。

「いや…そんなことは…」

「ハハハ、解りますぞ…顔に書いてある、こんな長い刀振れるわけがない…とね」

 エドモンド(元少尉)は、本当にそんなこと考えてなかった…。

 あまりの自分の方向音痴ぶりに嫌気が差していただけだ。


「今日は遅い…明日、ゆっくりお話ししましょう」


 久しぶりの布団での就寝だった。


 翌朝…。

 軽く、朝ごはんを食べると、コウジロウは壁の長刀を手にとった。

「物干しざお…と言います」

「はい?」

「いや…だから…刀の名」

「はっ?」

「物干しざお!」

 なんとも…馬鹿にしたような名の刀だ、見た目も如何わしいが、名までふざけてやがる。

「外で…ご覧入れましょう」


 コウジロウは、手ごろな太さの木の前で刀の鞘をポイッと地面に投げた。

「敗れたり!」

 と聴こえたような…聴こえなかったような…。

 抜いてみると…その長さは異様だ…とても振れそうには思えない。

「祖先は、ツバメを斬ったそうです…ではッ!」

 木を前に…剣気を高めるように呼吸を整える…地面スレスレに切っ先を落とす。

「こぉおぉおぉおおおぉぉぉ…」

 深く息を吐きだし…ピタッと息を止めた、その刹那。

 空気を切り裂くようなヒンッという音が耳をつんざく。


 目の前の木は…刀を深々と喰い込ませたまま…凛とそびえ立っている。

 しばしの沈黙の後…

「歳は取りたくない…な…」

 刀は…無残にへし折れた…。

「昔は、もうちょっとこう…ズバッと…さぁ~」

 何だかゴニョゴニョと言い訳しているコウジロウ…なんだかイタイ…心が痛む。

「ちょっと…その刀貸してくんない?」

 無言で首を横に振るエドモンド(元少尉)


「なんか…ごめんね…マジで…力になれなくてさ…」

「いや…いいんです…気になさらずに…」

 折れた刀を隠すように鞘を被せ…壁に掛けられた、物干しざお。

 小汚い字で『封印』と札が張られている。


 今日は…月が雲に隠れて部屋も薄暗い…。

 なんか気が滅入る…。

「あっ!灯りつけようか」

「えっ?電気来てるんですか?」

「ううん…電気は来てないけど…貰い物の照明があるんだよね」

「はぁ~」

 コウジロウは銀色の西洋剣の柄のような金属を持ってきて、柄のボタンをカチッと押した。

 ブォーンという鈍い音がして、緑色の棒状の光が室内を照らす。

 コウジロウが振る度に、フォン…フォンと音がする。

 不思議な光だ…。

 そっと手を伸ばすエドモンド(元少尉)。

「危ない!」

 その手をバシッと叩く、コウジロウ。

「危ない?なぜ?」

 手を擦りながら、聞き返す。

「コレ、ものすごく斬れるんだよ」

「はっ?」

「いやね、昔ね、なんか銀色の乗り物が落ちてきてさ…ソレに乗ってた緑色の小さい爺さんを介抱したお礼に貰ったんだよ」

「変な爺さんだったよ…時代の騎士とかなんとか言ってたな…ちょっとイッちゃってた感じはしたよ…でも変な力があってさ、念動力っての?あの触れないでモノを動かしたりするヤツ、アレが得意だったね、爺さん」

「はぁ~」

「別れる時にさ、コレ置いてったの…ホースと共にアレ?とか言って…まぁ照明にはなるし…よく斬れるからさ~ナタ代わりに使ってんだけど…アレ?なんか暗くなってきたな~電池がさ~単2なんだよ…あんまり使わないよね、単2って」


 そんなこんなで夜が明けて…。

「世話になった…かな…コウジロウさん」

「うん…悪かったね…なんか力になれなくてさ…ホント」

「いや…いいんだ…」

「あっ!コレ…良かったらあげるよ」

 コウジロウは腰にぶら下げた、よく斬れるライトを差し出した。

「いや…いいんです…」

「そう言わずに…ホント…俺なら大丈夫、ナタには、折れた物干しざお使うからさ…ねっ」

 半ば強引に手渡されたよく斬れるライト。

「じゃあ…ありがたく…」

「うん…あッ!単2だからね、3本、以外と消費激しいから」


 こうして…エドモンド(元少尉)の山籠もりは終わりを告げたのであった…。

 夕日にマスターヨー〇が微笑んでいるヨーダ。

「エドモンド…フォースと共にあれ…」

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