第18話 イカを手に入れし者

 もう…胃の中が空っぽです…。

 揺れるのレベルを超えて、早いもので20分が過ぎようとしていた。


 もう…何も出て来ません…上と下が、天と地が解りません。

 空が青く…海も青い…顔色もきっと青いでしょう。

 BLUE一色のこの世界…。


 穴という穴から内臓が飛びでそうな今日この頃…。


「だんな~…生きてますか…」

「ギリギリだ…」

「なんか…縦揺れのほうが身体にキツイんだって今日知りましたぜ…」

「首にくるんだよな…」

「首にきやすね…もげたかと思いやした…」


「だんな…目が回って…よく解らないんですがね…」

「なんだ」

「回ってませんか?」

「目が?」

「いや…あっし達がです」

「そう思うか…お前も…」


 このカメ…水平にグルグル回って空飛んでやがる。

 カメって飛ぶんだ…口から火を噴きながら飛ぶんだ…カメ舐めてた~俺。


 ガクン!


 カメそのまま金色の竜に体当たり、竜、海へ落下…トカゲに捕まる竜、羽を引き千切るトカゲ、竜が3つ首を空中のカメに向ける、カメを襲う竜の怪光線…。


 AHAaaaaaaaaaaaa……。

 轟く俺の絶叫…なんで生きてんだろう俺…。

 香るイカ焼きの香り…。

 今は吐きそうです…。

 意識が遠のく……。


 イカ焼きの匂いで目が覚めた…。

 身体がまだ揺れている…というか脳が揺れている。

 きっと何割かはシェイクされているであろう脳みそが働き出すと海が静かだ…。

 相変わらず、カメの甲羅の上のようだが…。


 目を凝らすと…トカゲと竜がイカを食ってる…カメも食ってるのだろう。

 腹が減って…休戦というわけか。


 チャンスだ!


「オヤジ!生きてるか?」

「なんです?」

 イカ焼きを食ってるオヤジ。

「おまえ…タフだな…」

「案外、いけますぜ」

 イカの切れ端を差し出すオヤジ

「俺はいい…それよりチャンスだ、いかだをつくるぞ」

「ヘイ!…イカだけに?」

「ホント…タフだな…オマエ…」


 即席でいかだをこしらえた。

「大丈夫ですか?コレ?だんな?」

「見かけは悪いが…浮くんだから大丈夫だろ」


 かくして…化け物戦争から遠ざかるエドモンド少尉…。

 イカ焼きを積んだいかだが海を漂う。

 海は広い…呆れるほどに広い…。


 エドモンド少尉が、米軍偵察艇に救助されるのは2日後の話である。

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