第15話 艦上の感情

 おぇぇぇぇ……。

 船酔い収まらぬ夜。

 甲板で海に『海軍カレー』をおすそ分けしている、エドモンド少尉。


「ダンナ、苦しければいい薬ありやすぜ」

「ホントか」

「ジャポンの秘薬、トヤマノクスリウリ…1袋2万円ですが」

「2万だと!」

「現地価格ってヤツでして…なんとかゆう山でも、登れば登るほど、ジュースの値段も高くなるってわけでして…」


 振り向けば……見知った顔がソコにある。

「オヤジ!貴様!なぜここにいる?」

「いやぁ~出張販売ってことで…」

「極秘任務だと聞いていたのだが」

「アッシはもう、口の堅い男ですから」

「貴様の口が堅かろうが、柔らかろうが知ったことじゃねぇ…なぜ?軍艦に?民間人の貴様が?乗っただけじゃなく?自由に歩いているのか?と聞いている」

「軍御用達の商人あきんどが出張販売に乗船したんでさぁ」

「なぜ、キサマが軍御用達になれたんだ?」

「いやぁ~ウナギの稚魚が大好評で…グェッ」

 エドモンド少尉はオヤジの首を絞めつけながら

「俺は…エサ係りに任命されてるんだぞ!ちっともデカくなりゃしねぇじゃねぇか…一気に数が増えたと思いきや…貴様だったのか!」

「良く…売れて…やす…毎度」


 ゴンッ!!

 鈍い音が足元から響く…船体が大きく傾く。

「へっ?」

 2転がりほどで、エドモンド少尉は海中に投げ出された。

 もがく海中でナニカと目が合った…それはエドモンド少尉より大きな目玉であった。



 …………カモメの鳴き声で目が覚めた。

 白い砂浜…ハングル文字のプラスチック容器…ビニールサンダル左足のみ…ガラスに入った謎の液体…THE 無人島。


 絵にかいたような無人島。

 正確に言えば、無人島ではない。

 隣で寝転んでいるのは、見知った顔……。

「よりによって……」


 はぁ……無人島なら話は早い…まずは住処造りからだ。

 途中、人に会えればなおよしだ。

 その時点で無人島脱出ということだ。


 エドモンド少尉、手ごろな木で骨組みを組む…崩れる…組む…崩れる。

「よ~し…魚を捕ろう!」

 ナイフで簡易的なモリをつくり、浅瀬で魚を突く…突く…突く…。

「よ~し…木の実を取るぞ!」


 気づけば、夕方…刀が錆びると手ごろな石で研ぎだしている始末。

「槍も習っておくべきだった…」

 隣で気持ち良く気絶しているオヤジ……。

「本当に、よりによって……」

「バーバラ…胸だか腹だかわからねぇよ……」

 なんの夢みてやがるんだ、コイツは……。


 途方に暮れるエドモンド少尉、その反対側の海岸では、正体不明の巨獣とが壮絶な戦いを繰り広げていた。

 巨獣が口からカメハメハを放つ、夜空がパッと明るくなる。

「稲妻か……それにしても気持ち悪い…船の上と変わらん」

 どこまでも呑気なエドモンド少尉……。

 揺れて当たり前である。

 ソコは無人島じゃない…巨大なカメの甲羅の上なのだから……。

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