第13話 地球は丸かった
さらわれたことはありますか?
エドモンド少尉、現在、誘拐の被害者真っ最中である。
誰が?どうやって?エドモンド少尉をさらったのか?
そんなことは今やどうでもいい。
彼の眼前に映るモノ……コバルトに輝く丸い惑星『地球』。
エドモンド少尉の故郷だ。
残念なことに、エドモンド少尉には何の感慨も湧かない。
なぜなら、彼の『地球』は大きな水たまりであり、その中心の大地で人は生活している。
水たまりの先は滝となって落ちている。
水たまりは大きな3頭の象に支えられ、その象はさらに大きなカメに乗っかっているのだ。
あれが、『地球』だと気づけというほうが無理なのである。
(どこかで見たことがあるような……)
『地球』を眺めるエドモンド少尉、なぜか見たことがあるような青い球。
う~む……特に変わり映えのしない景色に飽きてきたころ……。
(ここはどこなんだ?)
やっと、自分がどうやら自分の部屋にいないことに疑問を抱いたエドモンド少尉。
なんだろうな……ひょっとして、閉じ込められているような気がする。
気がするだけなら良かったのだが、どうも気のせいとは思えない。
なにがどうって、丸腰である。
というかパジャマである。
白地に水色のストライプのオーソドックスのパジャマ。
ご丁寧にナイトキャップまで被っている。
人類初ではなかろうか…パジャマで地球を眺めた人は。
銀色の部屋…おそらく小数点以下5桁くらいまで正確に計測された4m四方の立方体。
その一面だけがガラス張りのようだ。
まるで何もないかのように透明度の高いガラス。
事実エドモンド少尉は、ガンッと額を打ち付けたほどだ。
ところでこの部屋にはドアがない。
はて?どこから入って、どこから出るのか?
その疑問は、数分後解けることになった。
ブンッという音がして、ガラスの反対側の壁一面がポカリと開いた。
「地球人、どうかね故郷を見下ろす気分は?」
穴から姿を現したのは…50cmほどのタコ。
緑色のタコ。
しゃべるタコ。
「えっ?」
エドモンド少尉、キョロキョロと部屋を見回す。
「お前がしゃべったのか?」
タコが足をニュッとエドモンド少尉に向ける、その吸盤だらけの足の先には銃のようなものが握られている。
「口のきき方に気を付けろよ…地球人風情が」
偉そうなタコ。
「なんだと…緑で気色悪いからって喰われないとでも思ってるのか?」
銃の先からビビッと光線が走る。
「ンガッ!」
エドモンド少尉が頭から倒れる。
身体が痺れて動けない。
「同胞だけでなく…我々も喰うつもりか!蛮族が!」
「タ…タコ……のくせに……」
「我々は、キミ達より遥かに優れた生物だよ……地球人」
「キミ達は何百年も進歩しない生き物だ…いつか、我々と同じ位置に並ぶと思っていたが、残念だよ。キミ達が住む地球は素晴らしい惑星なのだよ…ソレを無駄にしおって……あまつさえアノような蛮行……許せない!」
タコがワナワナと怒りに震えている。
痺れながらもエドモンド少尉、目の前の緑のよくしゃべるタコにイライラしてきた。
「やい!タコ!偉そうに、なんだ俺がお前にナニをしたんだ!」
「貴様らは……我々の祖先を……敬うべき始祖を……切って刻んで…包んで焼いて…ソースを付けて…青のり振って…美味しく頂きやがって!」
(切って刻んで包んで焼いて………ハッ!)
「たこやきか?たこやきのことか~!」
そう、緑のタコは高度に進化を遂げた異星人。
たまたま、現地視察に訪れたの日が悪かった。
軍の屋台で『たこやき』を視察しちゃったのである、悲劇だ……。
「滅ぼす……お前らを滅ぼす!この惑星を、水の星を我々の安住の地とする」
事態の半分は理解してないエドモンド少尉ではあるが、『滅ぼす』といった侵略的な発言には下士官として物申したい、忘れてはいけない彼は軍人なのだ。
「お前…ケンカ売る気だな…俺たちに」
「ケンカ?ふん!そんなレベルにいると思うな下等生物。あっという間に駆逐するだけだ。ノシイカのように、ペラッペラッにしてやる」
「イカ嫌いなのか?」
「イカ…あんな気持ちの悪い臭い生物…軽蔑する」
(タコはイカが嫌いなのか……似たようなもんだと思うが……)
人間には解らぬ種族事情ってやつだ。
さてどうしたもんか……身体は上手く動かない…刀は無い…動くのは口ばかり…。
「おい…タコ」
「なんだ?」
「お前…たこやき食っただろ?」
「むっ………」
「美味しく頂きやがってって…お前食っただろ…おい」
「…………不可抗力だ……」
「共食い……」
緑のタコが青くなる……。
「共食いしたな!」
「…………」
「黙ってやっててもいいぞ……」
「何の話だ……」
「俺を帰して、侵略を諦めれば黙っててやっててもいいぞ」
その後、どんな密約があったか知らない。
エドモンド少尉は無事に自室に送り届けられたのである。
緑の子供がくれた、部屋に転がる青い地球儀を見つめる。
(コレだったか~見たことあるような気がしたのは……)
これで終わったわけではない。
なぜなら、縁日ではイカ焼きも売っていたのだから……。
いつかイカ型異星人がやってくるかも知れないのだ。
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