第10話 山の奥里エルドラド

 2週間の任務を終え、に救助されたエドモンド少尉。

 2日間の点滴を外された後、まっすぐに向かった先。

『骨董品屋グラスホッパー』

 店の前には伝説の緑色軍曹がデーンと置いてある。

『しばらく休業することにしたであります』

 敬礼なんかする緑の軍曹が腹立たしい。


「あの野郎~!」

 ヒュッ、チンッ。

 エドモンド少尉の腰から涼やかな鍔なりの音が響く、と同時に張り紙がハラリと地面に落ちた。

『白雨』とエドモンド少尉の相性は良いようだ。


 宿舎に戻ると新たな指令が届けられていた。

『伝説の里エルドラドの調査を命ず』

(エルドラド…とはなんぞや?)

 そんな聞いたことないもない地名より、先ほど食べたラーメン屋の看板『家系』とはいったいなんのことか?そっちの方が気になるエドモンド少尉であった。


 バイク紛失の始末書を提出し、いざ資料室へ。

「そもそも…情報がアバウトすぎるんだよ…ブツブツ…」

 そう、山の奥の里なのか?山の奥里なのか?それすらも定かでない。

 とりあえず…それらしい山を特定することにしたのだが、なんだ山の情報って?

 観光資料しかないわけなのだが。

 ここでいいか?

『マッシュルーム取り放題!』

 エドモンド少尉がチョイスしたのは資料というかチラシ。

「出発は…3日後か」

 ツアー申し込みを済ませるエドモンド少尉であった。


 ………………

「ツアー参加者はこちらのバスに搭乗おねがいしま~す」

 ガイドの誘導におとなしく従う少尉殿。

 周りの参加者はリュックを背負ったハイキングスタイルなのに対し、エドモンド少尉の出で立ちは…腰に日本刀とハンドガン、肩からぶら下がるサブマシンガン。

 軍服にヘルメット、野戦使用グッズ満載のリュック。

 威圧感が半端ない。

 ツアー参加者というより、バスの護衛だと言われた方が納得できる。

 事実、ツアー参加者はそう思っているようだ。

 バスが走りはじめ、ガイドさんの自己紹介があり、参加者の自己紹介へ移行する。

「こういうツアーは初めての参加です…」

 みたいな挨拶が続くなか、

「自分は、エドモンド・ナカムラ。階級は少尉であります。所属は食糧調達部隊 特殊素材調理斑 X-1。本日は命令を請けての参加であります」

「おぉー」

 どよめく車内、どうやら参加者の勘違いに拍車をかけたようである。


 カラオケなどを楽しみながら2時間、目的の山へ到着する。

「では、ここからは自由行動になりますが~くれぐれもキノコ狩り区域外には出ないでくださいね~、いいですか~柵の向こう側は危険ですので出ないでくださいね…お願いしますよ…エドモンドさん」

 なぜかガイドさんはエドモンド少尉をやたらと警戒している。

 長年の経験で理解しているのだ、この手のタイプエドモンド少尉は必ず自分の手を煩わせることをすると。

 そしてソレは正しかったのである。


 キノコの山の管理区域を奥へ進むエドモンド少尉。

 もともとキノコに興味は無い、そもそも好きじゃない。

 嫌な思い出もある。

(山の奥…)

 エドモンド少尉は考えたのだ、奥というのは登ることなのだろうか?。

 否!断じて否である。

 奥とは山を越えることであると…。

 バスを降りて1時間、エドモンド少尉は木々を抜け、沼を渡り、今…遭難していた。

 コンパスは持っている。

 残念なことに山のMAPは管理区域に限られていたのが災いした。

 小太りの中年女性が笑顔で、あり得ない大きさのキノコをかざしているイラストが無性に腹立たしい。

 昼なのに暗い…。

「ここは、どこだ?」

 バスガイドさんが参加者に配った、非常用ベルを鳴らすべきだろうか。

 しばし考えてみたが、今はまだ、その時ではないと思った。

 なぜならば、集合時間は午後4時、今はまだ午後1時、3時間あれば戻れる…ような気がする。

 与えられた時間をフルに有効利用して情報収集にあたるべきだ。


 キューイン・キューイン……。

 キノコの山に非常ベルが鳴り響いたのは、それから20分後の出来事であった。


 エドモンド少尉は窮地に立たされていた。

 落とし穴にハマったのである。

 急に視界が開けたと思ったら、この有様。

 人工的な落とし穴なのか、あるいは偶発的に穴が開いたのか定かではない。

 すり鉢状穴の直径、目視で300mほどはある。

 深さは最深部で15mはあろうか、いかんせん滑って登れない。

 なによりもエドモンド少尉を悩ませていたのは、向こうに突き刺さった状の見たことも無い乗り物とその縁で座り込んでいるである。

 緑色の子供は大きな黒い目を潤ませながら、何事か訴えかけているのだが、まったく言葉が解らない。

 なんとな~くジャポン語に近いような言葉を発しているような気もするのだが

「ワレワレハウチュージンダ」

 気のせいだろう。

 なんとかしてやりたいのだが…今はエドモンド少尉がなんとかしてほしい立場である。

「ガイドさんに掛けるしかないのか…届け!この思い!えぇいままよ!」

 エドモンド少尉はガイドさんに怒られることを覚悟してボタンを押したのである。


 キューイン・キューイン……。

 鳴り響き始めてはや30分、救援が来る気配はない。

 すでに緑色の子供の隣で座り込んでいるエドモンド少尉、隣の子供と目が合い、互いに溜息をつく。


 エドモンド少尉が持参したバナナを緑色の子供に薦めると、不思議そうな顔をしながらバナナを天にかざした。

 違う違うとジェスチャーしバナナの食べかたを教える。

 子供はバナナが気に入ったようだ。

 2人はエドモンド少尉が持参したオヤツを分け合って食べた。

 クッキーにチョコレート、不幸なことにチョコは溶けていたのだが、緑色の子供は溶けたチョコをバナナに塗って食べたり、クッキーに塗って食べたりしている。

「なるほど…その発想は無かった」

 マネして食べてみれば美味い。

 自然と笑みがこぼれる2人。


 急に空が明るくなった。

 太陽が真上に寄ってきたような光だ。


 手で目を覆いながら子供を探すエドモンド少尉、緑色の子供はフワリと身体を浮かせてエドモンド少尉に手を伸ばす。

 エドモンド少尉も必死で手を伸ばす、その指先が緑色の子供の指先と触れた時、パーパーパラパパパーパー♪なぜか頭に聞いたことも無い音楽が流れ、指先がボワリと光る。

 大きな光に吸い込まれるように消えていく緑色の子供。

 手を振っているように見える。

(迎えなのか…)

 光がゆっくり遠ざかる、突き刺さっていた銀色の円盤を回収すると、大きな光を放つ球形の乗り物はシュンッと飛び去った。


 残されたエドモンド少尉…。

 ガイドさんが鬼の形相で迎えにきたのは、それから1時間経った頃であった。


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