第8話 そしてガラス玉
しばらくこの街で滞在することにしたエドモンド少尉。
先祖から受け継いだ刀の供養に立ち会うことにしたのだ。
その間、宿を取りながらも昼間は刀匠ジュードのところへ顔を出すことにした。
「竹斬り坊主…オメェなんでその刀を選んだ?」
「ん…なんとなく…この刀だけ違和感を感じた…上手くは言えないんだが…」
「ふ~ん」
ジュードは満足そうに自分の顎の無精ひげを撫でる。
「その刀はな~、俺の爺さんが打った刀だ…」
「だからか?なんか違う感じがしたんだ」
「いやー他にも、爺さんが打った刀も、親父が打った刀もあったんだが…その刀はよ…爺さんが行ったこともねぇジャポンに納めてぇって言って最後に打った刀だ」
「ジャポンに収める?」
「あぁ~、どういう意味かは解らんが…人を斬るために打った刀じゃねぇんだとよ」
「……俺が貰っていいのか?」
「いいんじゃねぇか、売る気も無かった刀だし…なにより、お前がしっくりきたんだったら、それで…」
「さて…行くかい…供養によ」
「あぁ」
この街に来て4日が経とうとしていた。
……………………
折れた刀を持って、山を登ること1時間。
中腹部にある寺に立ち寄る。
僧侶に経を唱えてもらい供養を終える。
「竹斬り坊主…感慨深いものでもあるかい?」
「ん?…そうだな…無いといえば嘘になるが、まぁ軽くなったよ」
「軽く?」
「あぁ…先祖代々、いったい何人の血を吸ったか解らん刀だ…俺には今一つ馴染まなかった気がしてたんでな…」
「そうか…まぁ達者でな、あぁ…いつかお前がジャポンへ行くことがあれば、その刀も連れてってやってくれ」
「解った、約束する…」
「お前さん、まだ上に行くんだろ?」
「あぁ、この玉と同じものを持つ僧侶に会いに行く、山頂付近で暮らしてるらしい」
「噂は聞いたことがある…なんでも伝説の剣士の末裔だとかいう破戒僧」
「破戒僧…」
「あぁ、変わり者らしい…気を付けな、じゃあな!」
そう言うと、ジュードは山を下りて行った。
……………………
寺から、さらに歩くこと1時間、けものみちが開けると粗末な家が見えてきた。
(あそこか)
エドモンド少尉は山小屋へ歩を進めようとしたが、身体が前に進まない。
風景が逆さまに見える……。
そう、エドモンド少尉は古典的な罠に引っかかり、逆さ吊りになっていたのである。
ぷらぷら吊られること30分…気持ち的には慣れたのだが、いかんせん身体がツライ………さらに15分経過……ヤバイ泣きそうだ………。
夕日が空をオレンジに染め上げる頃
「何してんだオマエ」
「んぁ……」
泣いてなんかいない…夕日が目に滲みただけ、それだけのこと…………。
「猪捕りに軍人が掛かるとはな~」
「…………」
返す言葉もないエドモンド少尉。
「しかも食糧調達班だもんな~」
「…………」
穴があったら入りたい…ハマりたくはない。
「で?」
「はい?」
「いや…何しに来たの?猪狩りじゃあるまいよ」
ニヤニヤしている破戒僧ベイル(40代前半♂)
「これを」
と例の宝玉を差し出す。
「ん…これは!…お前も選ばれた剣士なのか…」
「解らん…あなたが同じものを持っていると聞いて、俺は」
……………………
ベイルが宝玉を手にしたのは、幼いころ。
寺に預けられていたベイルは供えられた
物置に閉じ込められていた夜、頭の上に落ちてきたのだと話してくれた。
それから数年後、旅の行商人に何気なく、そんな話をして宝玉を見せると行商人は伝説を語ったという。
「以来、俺は伝説の宝玉が導くままに生き、ここで8剣士が揃うのを待っている、もう30年になるがな…」
と自分の宝玉をエドモンド少尉に差し出す。
選ばれし剣士…産まれるのではない、宝玉が導くのだ…伝説の剣士を。
「まさか…俺も…この刀との出会いも偶然ではなかったのか…」
その夜…2人は酒を酌み交わし、まだ見ぬ残りの6人との出会いを語るのである。
「いやいや…女もいるだろ絶対!」
「いるね…こうビキニアーマーの剣士が来るね」
あははははは…………。
そして2人はお互いの宝玉を月にかざすのであった。
互いの宝玉…月明かりに浮かぶ『考』の文字。
『考』の文字?
「ん?」
「どうしたエドモンド」
「ベイル…宝玉は8個だな」
「そうだ」
「『仁』『義』『礼』『智』『忠』『信』『孝』『悌』の1文字ずつ刻まれている」
「お前の宝玉は?」
「『考』だ」
「俺のも……『考』なのだが……」
……………………
翌朝、ベイルとエドモンド少尉はベイルが閉じ込められたという納屋へ向かう。
ホコリっぽい納屋を漁ると…古いダンボールに納められた宝玉が出てくる、出てくる。
『仁』『義』『礼』『智』『忠』『信』『孝』『悌』各々50~80個は出てきた。
寺のモンクマスターに聞くと、昔そんな伝説をでっち上げて商売をしていた男が居たという、寺の境内で商売をしていたのだが、日々伝説が盛られていって、寺の歴史まで巻き込み始めたので、ガラス玉を没収して納屋に放り込んだままだったという。
エドモンド少尉は恐る恐る聞いてみた…その男の名は?
名前は忘れたが…たしか登り旗に『グラスホッパー』と書かれていたことは覚えていると。
(あの野郎!)
そ~っとベイルを見てみると…。
その瞳からは大粒の涙がスーッと零れて床に落ちた。
この男の30年って…いや考えまい…憐れすぎる。
エドモンド少尉の脳裏に浮かぶオヤジの顔。
瞳に写る、ベイルの顔。
(ひょっとして、俺は
そんな予感が過る夏の午後であった。
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