第7話 A玉B玉

「その宝玉に無関係でもありませんし…」

「なんだと」


 ……………………

「このガラス玉がね~伝説の剣士を産む?」

 どうにも半信半疑なエドモンド少尉、手のひらでコロコロさせながら軍用ジープの後部シートで移動中である。

 ラムーネ工場へ行くのだ。

(どうやってガラス玉をはめ込んでいるんだ?)

「ダンナ、気になるなら生産工場へ行ってみたらどうでしょう」

「生産工場…って工場で造ってるのか?」

「そうですよ、なんだと思ったんです?」

「いや…なんか…伝説の…その、なんか」

「1ダース、1,500ダラーです」[1ダラー=1円]

「意外と相場どおりなんだな…」

「しかも、空ビンを持って行くと5ダラーで買い取ってくれます」

「本当か!」


 幼いころは山で雀を追いかける毎日…16歳で入隊して、現在に至るわけで軍の支給品以外のことは良く知らないエドモンド少尉。

 スポーンと抜けてるところがあるのだ。


「少尉!到着しました」

「うん…ご苦労さま」

「では3時間後にお迎えにあがります!」

 ビシッと敬礼する二等兵。


 驚きであった…ビー玉じゃないんだ。エー玉なんだ~へぇ~。

 サイダーなの…マジで…。


 しっかり3本のガラス瓶を15ダラーで買い取ってもらったエドモンド少尉。

 ラムネの上手な飲み方を教わり、生産工場を堪能したのである。

(いや~勉強になった。オヤジのホラ話と違う)

 ※ラムネ工場視察 報告書

 ガラス玉は炭酸の圧力で栓をするため完全な球体でなくてはならず、ランクAのA玉のみ使用する。

 B玉の語源由来はランクA・B説とビードロ玉の略とあるが、有力なのはビードロ玉説である。


 追記 爽快感が半端ないので軍での常備品に検討していただきたい。


 ……………………

「オヤジ!なにが封印だ!この野郎」

「ダンナ…そりゃ普通のラムーネの話でしょ~、ダンナに差し上げたのは、そのラムーネに神通力を込めた『力水』っていうラムーネでさぁ~」

「なに?チカラミズ…どういう意味?」

「ジャポンの言葉でPower Waterです、ラムーネに念を込めたものが『力水』になるんです」

「誰が?ドコで?込めてんだ!」

「バンブータウンのマッシュルームマウンテンに住むモンクが念を込めてるんです」

「バンブータウン…たけのこの都か」

「えぇ…そこに宝玉のひとつを持つモンクがおりやして、あっ刀匠もその街にいますぜ、あの街はジャポンの遺物が発掘されるトコですからね」

「この宝玉のひとつを持つ僧侶か…」


 ……………………

 そんなこんなでバンブータウンへやってきたエドモンド少尉。

 べつにガラス玉に興味があるわけではないのだが…日本刀は一振り打ってもらわねばならない。


「まずは刀匠探しからだな…」

 バイクから降りて街のソバ屋でカレー南蛮をズルッとすすりながら店主に聞いてみる。

 古刀を打てる刀匠は限られているらしい、言われた場所を尋ねると、いかにもって感じの気難しそうな爺さんがカンコン刀を打っている。

「米国陸軍 食糧調達部隊 特殊素材調理斑 X-1 エドモンド少尉であります」

「……吸血部隊がなんのようだ?」

 刀匠はこちらを振り返ることもなく刀を打ち続ける。

「刀を一振り打ってもらいたい」

 少し間を置いて、刀匠はエドモンド少尉をジロッと見る。

 無言で手を突き出す。

 エドモンド少尉は折れた刀を差し出す。

 スッと刀を抜いて

「いい刀だな…よく手入れされてる…古刀だな、だいぶ血を吸った色だ…アンタ何人斬った?」

 エドモンド少尉は答えなかった。

 答えは0だ。

 エドモンド少尉は人を斬ったことがない。

「まぁいいさ…そこらにある刀で、ソイツを斬ってみな」

 指で竹藪を指す刀匠。

 言われるままに一振り握り、竹を斬る。

「いい腕だ…いいだろう…そこらにある刀、好きなモノひとつ持ってきな」

「いいのか?」

「あぁ…アンタが気に入った…いい腕だ」


 しばらく刀を眺めるエドモンド少尉

「これを貰う…」

「ふっふふ…白雨か…爺さんの打った刀だ…いいだろう持ってきな、この折れた刀は供養しといてやるよ…」

「すまない…白雨はくうというのか…」

「あぁ…なんの曰くもねぇ刀だが…人を斬ったことがない、お前さんに似合いだと思うぜ、名刀だが…抜かれたことが無い刀だ」

「俺に似てるか?」

「そうだな…腕はあるが、人が斬れないってトコがな」

「貰っていく!」

「あぁ…折るなよ…ボウズ、斬鉄ってのは、心・技・体、を一呼吸に込めないと出来ねぇもんだ…」

 返す言葉もないエドモンド少尉であった…。


さらに続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る