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『
「けっこうきれいなところですね。想像していたのとだいぶ違いました」
「まだ出来てから十年ちょっとくらいらしいよ」
二人は入口脇に建てられた事務所らしき建物に向かった。自動ドアをくぐって中に入ると左手に総合受付と書かれたカウンターが目に入った。奥でパソコンに向かって作業をしていた中年の女性がすぐに気づいて立ち上がった。
「こんにちは。ご用件は……」
「すみません。先日電話した神上と申しますが、石山さんはいらっしゃいますか」
石山というのが神上を電話で対応した人物らしかった。受付の女性は「ああ」と少し驚いた表情を見せると「少々お待ちくださいね」と言い残して事務所の奥へと消えて行った。しばらくして、今度は年配の男性を伴って何事か話しながら戻ってきた。その男性がどうやら石山のようだ。最初に二人を対応した女性はそのまま自分のデスクへと戻り、石山だけが二人の方へ軽く会釈しながら近づいてきた。
「どうも、石山です。いや、それにしても本当に来られるとは」
石山は少し困惑した表情で後ろ頭を掻きながら言った。五十代後半か六十を過ぎているだろう。ベージュの作業着が恰幅のよい体を窮屈そうに包んでいた。屋外での作業が多いのだろう。歳の割には健康そうに日焼けした顔にレンズの厚い老眼鏡を通して、優しそうな瞳が覗いていた。
「お忙しいところ申し訳ありません。それで電話でお伺いした工藤さんの件なんですが」
神上が丁寧に頭を下げると、石山は「いやいや」と片手を振って笑った。
「ここで立ち話しってのもあれですから、ご案内しますよ」
石山はそう言うと事務所の自動ドアへ向かって歩き出した。どうやら墓所の方へ向かうらしい。二人は後について外へ出た。霊園中央の広い石畳を通って、三人は墓所の奥へと向かった。
「工藤さんの件はね、正直わたしらも困っていましてね」
石山は歩きながら二人を振り返ってそう言った。
「そんなに電話があるのですか」
神上がそう聞くと石山は困った表情を作って無言で頷いた。
「月に一回は必ずあるかなぁ。多いときだと三回くらい。大体駅前の喫茶店とかハンバーガー屋みたいなところからだね。口の利けない婆さんが来て、嘘を言っては商品を要求するんだってね。それで、連絡先を聞くとここの電話番号書いて帰るんだろう?」
「うちのお店以外にも行っていたんですね」
あの日神上は言っていた「面白い話」とは恐らくこのことだったのだろう。
「でも、なんでここの番号なんですかね」
香苗が聞くと石山は「ああ、そりゃあ多分」と言って石畳の先にある墓石の一つを指さした。
「あれね。工藤さんの亡くなった旦那さんのお墓なんですわ」
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