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「詐欺?このおばあちゃんが?」

香苗のその言葉に神上は目を丸くした。

「はい。たまに来るんですよ。内容は毎回変わりますけど、持ち帰った商品に髪の毛が入っていたとか、飲み物のフタが開いていて商品が濡れていたとか」

「へえ。でもこんな歳になって詐欺なんて、何か事情があるのかね」

 神上の言葉が香苗には新鮮で意外だった。飲食店にとって現金詐欺はよくあることだ。代引き詐欺というのが流行っているらしいが、人間ちょっと騙せば数千円くらい簡単に渡してしまうものらしい。飲食店における詐欺はそれより遥かに安い金額を要求される。平均五百円から、いいとこ千円くらいのものだろう。近隣の店舗をいくつか回って小銭を稼ぐのだ。皆、店舗の管理体制やシステムをよく勉強していて、どのように話しを運べば相手が折れるか、情報が共有されているらしい。どちらかというと愉快犯に近い。ただこちらもプロの飲食業従事者だ。香苗が今まで出会った社員たちは、皆一様にマニュアルに沿って、毅然とした態度で対応し、詐欺師たちを悉く追い返して終わりだ。会社内で情報共有はするが、警察に届けたりはしない。被害に遭っていないのだから当然だが、悪く言えば追い返した詐欺師がその後別の店で詐欺を働こうが気にしないし、ましてや詐欺を働こうと思った動機など考えるだけ時間の無駄といった感じだった。だからこそ神上の言葉からは、今までの店長とは違った何かを香苗は感じ取ったのであった。気づけばさっきまで隣に居たはずの神上がモニターに中にいた。いつの間に移動したのか香苗にはわからなかった。神上はさきほどまで対応していたパートスタッフを本来のポジションへと戻し、一人で老婆に相対していた。神上がどんな対応をするのか香苗は気になったが休憩時間は残り十五分を切っていた。このままモニターの前で立っていても仕方がない。この監視カメラは音声を拾う機能がないからだ。テレビ番組のように会話をテロップで表示してくれたら便利だろう。ただ録音機能があったとしてもこの老婆に対しては意味をなさないことを香苗はわかっていた。休憩スペースに戻ってイスに腰を下ろし、勤務前に買っておいたサンドイッチを頬張ることにした。

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