ラヂヲ・スタアは何故死んだ?
店主は箱を開けた。開けるなり、ヒュウ、と高い口笛を吹いた。
「驚いたね。純正品じゃないか、今時。嬉しいねぇ、こりゃ」
トレヴァは、店主の手の中でY字ドライバがクルクルと回るのよりも、店内のごった返しに心を奪われていた。
「――どこって言ってたけか、お兄さん」
「え?」
「出身だよ。出稼ぎだろ?」
「あぁ……ダーラムだよ」
今も雪が残っているであろう故郷を思い起こす。牛の匂いと、星空だけが自慢の雪深い場所を。
「ほ! 随分と北だァ! なるほどねェ。あっちにゃまだまだ掘り出し物があるんだろうなァ」
「ド田舎、ですからね」
だからこそ、閑農期の間に勉学に励み、街へ出たのだ。僅か3シリングの日当と、
「古い物しか無いんですよ」
トレヴァは若かった。だからこそ、
「ソレがイイんだヨ。こんな純正の
カチリ、カチリとスイッチが音を立てる。それを合図に、いつもだったら
「ふむ――スイッチ系じゃない、と。となると、タマかな……」
「タマ?」
「真空管のコトさ。オジチャン達プロはそー呼ぶのヨ。ちょっと
店主は
「壊さないでくださいよ」
瞼をパチパチと言わせながら、トレヴァは店主に文句をつけた。開拓民だった曾祖父さんからの形見なのだ。それも店主の言葉が確かなら、純正品の
「そんなお間抜けしないサ。オジチャン、プロだから。それに、この程度で壊れるようじゃそのタマは
「え?」
「タマを片づけないとナ。小さい
悪びれもしない店主の声に従うままに、作業机の上を片づけていく。どうやら、設計図と工具の海の下は、
「よい……せっと。あぁ、やっぱりコイツ、かな?」
店主が、その
「何です、これ?」
「
「ジェム?」
「何だイ。知らないのかイ。ま、時代かなァ……」
店主は、呆れた顔でドライバを教師の差棒のように振り回した。
「コイツがナ、本当は彩度たっぷりで輝いてだナ、星の声を拾うのヨ」
「あぁ、
トレヴァがそう聞くと、店主はチッ、チッとドライバを横に振った。
「それ以上の代物サ。星の片割れだからナ。
ま、こんだけ小さいし、
「ま、百聞は、ってヤツだ。ちょいと繋いでみよう」
ゴソゴソと作業机の下から店主が取り出したのは、いくつもの真空管と
「
聞いてもいないのに、店主はそう言って自慢気に、髭の中から歯を覗かせた。少しだけ、黄ばんでいる。
「はぁ……」
パチンパチンと装置の
「さて、どうなるか……よっと」
店主が、トグルスイッチを傾けたと同時に、
「わ……」
音。
水の中から、泡が立ち上る
火山の噴火にも似た
雷鳴のように轟く
吹き抜ける風のような
雑多な鳴き声の
いくつもの音が途切れなく、
ときに激しく、ときに優しく。曲調こそは入れ替わるが、美しさは変わらない。
店内のあちこちの真空管が、共鳴するように共に歌い、星石は一層輝きを増す。音楽はやがて最高潮を迎えて、始まったと同じように、唐突に終わった。素人のトレヴァでも、何となく、見当がつく終わり方だった。「電球の
「ふーむ、どうやら、やっぱ死にかけだったんだナ。
「……で、今、死んだと?」
最後までカタカタと共振していた真空管が止まると、部屋の空気が、萎んでいくようだった。壁にかかった柱時計によると、3分も経っていない。それが、幾千、幾億もの時間であったかのように感じる。それほど濃密なひと時だった。トレヴァは、自身の体の芯が未だに震えているのに気付いた。
「そ。貴重だゼ? 星の死ぬのを聞けたんだ」
「そっか、死んじゃったんだ……」
不思議と、トレヴァは悲しくなかった。
「どの星だろうなァ。
そんなトレヴァを横に、店主は分厚い
「ふーん、
「どこです?」
店主は、型番と製品名が並んだ台帳をトレヴァに差しだし、該当個所を指さした。
「『
「いえ、全く」
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