幼年期編

01 『You shall 勇者』

「──んぎゃあぁぁ! ああぁぁぁっ!」


「おめでとう御座います、奥様! 元気な男の子ですよっ!」


 おぉ、ようやく解放され……あぁ!? 眩しいっ! め……目が痛い!


「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っ!?」


「げ……元気な男の子、ですよっ!」


 ちょ、誰だか知らんが耳元で大きな声を出すんじゃねぇ! 耳が痛いだろうが!


「あぁぁっ! あぁぁあ!?」


「は、ははっ! こりゃワンパクになるぜ? なぁ、レイラ!」


「……ふふっ、そうね、ジン君……」


「あ、おい、大丈夫か? いや……よくやった、レイラ。頑張ったな!」


「……はいっ」


 あぁ、クソっ! ったく、何がどうなってやがんだ? 俺は死んだんじゃ──。



『そっ、それでは、旦那様、奥様──。───? い、いえ! ──……』


『あ、あぁ。──。よく──。』


『ハンナ、あなたも──。ありが──。───? ────。』


『───! ────……』






◆───────────────◆






「────?」


 ん、んぁ? いつの間にか気を失っていたのか。なんかまだボーッとするなぁ……。


「───」


 まぁでも、さっきよりは全然マシだな。体の痛みは無いし、眩しいのもそんなに気にならない。

 って事で、一先ひとまず状況確認をしよう。

 とりあえず、視界を左右に巡らせてみる。……が。


「────?」


 なんだ、ぼやけて良く見えんな……。微かに何かがあるのは分かる。でも、そんなレベルだ。もしかしたら、『魔王』から受けた傷で目にダメージを負ったのかもな。

 だがまぁ、一つは確信出来る事がある。どうやら俺は『生きている』ようだ。


「───?」


 とりあえず体を起こして動こうとして──ふと、何か『柔らかくて温かいもの』に包まれている事に気付く。なにこれ超幸せ。


「あら? ふふっ。ねぇ、見て。『アル』が起きたみたいよ?」


 その『柔らかくて温かいもの』は声を発し、誰かに話しかけている。


「おー、起きたかっ! レ、レイラ? 俺にも抱かせてくれないか……?」


「もう、そんな大きな声を出さないの。この子がびっくりしちゃうでしょ? それと、ごめんね、ジン君。まだ生まれたばかりだから、そんなに動かしちゃダメだって、ハンナに言われたのよ。だから、もう暫くは我慢してね?」


「そっ、そうなのか……」


「でも、ちゃんと清潔にしていれば、少しは触ってあげても大丈夫だって」


「っ! そうか! すぐに手を洗ってくる!」


「もうっ、大きな声出しちゃダメだって言ってるのに……」


 あぁ、凄く聞き覚えのある声だ。

 この声は──うん、【ジン】と【レイラ】で間違いないな。俺の『息子』と『義娘』だ。


 その後暫くドタバタと物音がしたと思ったら、急いだ様子の足音が近付いて来る。目の方は──相変わらずよく見えんな。超不便。


「はぁ…ふぅ……。よし、さ、触るぞ……?」


「ふふっ。ジン君ったら。ほぉら、『アル』? 『おとうさん』ですよ〜」


 あぁ、俺は確かに『おとうさん』だが……てか何で愛称呼びされてんの? ──おわっ!?


 てめぇ、ジン! 何気安く触ってやがる! ほっぺたツンツンすんじゃねぇ、くすぐったいだろうが!

 お? 今度は掌か? や、やめろ……っ、くすぐったい……っ!


「あぁ……見てくれ、レイラ! 指、指を握ったぞ! それに笑ってる! ははっ……!」


「もう、ジン君は大げさなんだから。……でも、ジン君の気持ちも分かる。本当に、愛おしいわね。私とあなたの、大切な宝物よ」



 ──なんとなく、理解してきたぞ。まさかとは思うが……その、『まさか』、なんだろうな……。



「ちっちゃくて、ちょっとでも小突いたら壊れちまいそうなのに……しっかりと、俺の指を、握ってる」


「えぇ。こんなに小さくても、ちゃんと『生きている』のよ」


「レイラはなんか、慣れた感じだな……」


「やぁね、そんな訳無いじゃない。──でも、そうね。この子を産んで、その顔を見て……多分だけど、『母親』として強くなったんじゃないかしら? 元気で健やかに育てなきゃ、って」


「……俺も、しっかりしなきゃな。改めてだけど、もう『父親』なんだもんな」


「もう、ジン君ったら意識するのがちょっと遅いんじゃないっ?」


「あ、いや、その──すまん」


「ふふっ、もうっ」



 あぁ。この状況で、それ以外は考えられないよな。それに、セフィリアの最後の言葉もだ。






 『早く成長して、迎えに来てね? 私、待ってるから!』






 ──どうやら俺は、『生まれ変わった』らしい。

 恐らく、あの巨大な『魔法陣』と謎の『呪文』。あれが『転生』の為の魔法だったのだろう。


「よ、よし、『アル』! 俺がお前を立派に育ててやるからな! 剣術や魔法なら任せとけ!」


「ジン君、気が早いっ」



 でも、でもな──



「まだ生まれたばかりなのに、何年先の事を言ってるのよ、もう……。ねぇ、『アルファルド』?」



 ──何で、また名前が【アルファルド】なんですかね?



 いや、『運命』だって言われりゃ、まぁそんなもんかと納得はするさ。セフィリアと『最初に会った時』もアルファルドで、『前回』もアルファルドだったしな。

 でもなー……そうは言っても、普通、『父親』の名前を『息子』に付けるかね? てかそもそも何で『息子の息子』なのかって時点でもう色々と突っ込みたいが────腹減った。


「アルファルド……うん。本当に、いい名前ね」


「あぁ。こいつの『虹色の瞳』を見た瞬間から、もうそれしか考えられなかった」


「コラッ。『こいつ』なんて言っちゃダメよ? こんなに小さくても私達の言葉を聞いてるんだし、将来言葉遣いが悪くなったらジン君のせいだからね?」


「あ、その、スマン。気を付けるよ……。で、さっきの続きだけど、瞳の色もそうだが、何と言っても──」


「ぁぅ……」


「あら?」


 腹減った。腹減った腹減った腹減った!

 やばい、超やばい。何がやばいってもう腹減ってやばい!


「ぁーっ……!」


「あらあら、お腹すいちゃったのね?」


「レ、レイラ、何言ってるのか分かるのか?」


「んー、母親だから、かしらね? 何となくだけど、分かる気がするのよ」



 あれ、でも待てよ? 俺って今『赤ちゃん』なんだよな? って事はさ……。



「うん。確かハンナも、『生まれたばかりの赤ちゃんは、起きたらすぐにおっぱいを飲みたがる』って言ってたしね」


 おぁっ!? やっぱりか!


「おぁっ!? そ、そうか! 俺は部屋に戻ってるから、何かあったら呼んでくれ!」


 ……『親子』揃って同じ反応かよ。


「あら? ふふっ、ジン君ったら、今更恥ずかしがってるの?」


「え、そっ、そんな事は無いぜ!」


 あ、お前そんな事言うとだな。


「じゃあ、見てく?」


「いやっ、えっと……それは、だな……」


 ほれみたことか。やーい、バカ息子!


「ふふっ、本当にからかい甲斐のある人ね」


 あ、それ同感です。

 というかレイラ。君は随分としたたかになったな。『母は強し』って事か?


「それじゃ、リビングを出るついでに、ハンナを呼んできて貰えるかしら? やっぱりちょっと心許無いっていうか……上手く出来る自信が無いのよ」


「お、おう! 任された! 行ってくるぜ!」






 それにしても、記憶を引き継いだままの転生、か……。色々と思うところはあるが、それ以上に、これからが楽しみで仕方がないな。

 前は通えなかった『学校』にも行ってみたいし、ジンの仕事──個人経営の『魔法具店』を継いでみるのも楽しそうだ。

 それに、俺はずっと『無詠唱魔法』ばかり使ってたが、セフィリアが使ったあの『魔法』。あぁいった、見たことも聞いたことも無い魔法なんかも探して学んでみたいし……。


 それに何より、『息子』の成長や人生を見届ける事が出来る。

 一度死んじまったのに、その先の未来を見る事が出来るなんて──



「で、では奥様っ、早速始めましょうっ」


「えぇ、ハンナ。色々とご指導よろしくね? ……ほぉら、アル? おっぱいの時間ですよ〜」



 ──最高の人生だぜ!! ……あぁっ!?

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