勇者の息子の息子の勇者

中里蜜柑

プロローグ

00 『魔王と会おう』

『──ねぇ、リア』


『ん、なぁに、アル?』


『えっと……ね。すきだよ、リア。ずっと、いっしょにいよう』


『……うんっ』


『な、なんで泣いてるの!? どこかケガしたの!?』


『ち、ちがうの、うれしかったから……』


『あ、あの、えっと』


『ねぇ、アル。『やくそく』、してくれる?』


『──え?』


『ずっと、いっしょにいるってこと』


『うん、もちろん! ずっと、ずっとずっと、どこまでもいっしょだよ! たとえ生まれかわっても、いっしょにいるよ。『やくそく』する』


『……うん、ありがとう、アル。わたしも……すき、だよ。えへへ、ずっと、いっしょだね』





『──もうすぐ、『マモノ』がここまでくる。たぶん、もう、にげられない。それでも、『ぼく』は『きみ』のそばにいる。なにがあっても、はなさないから』


『うん、うんっ』





『……セフィリア』


『……アルファルド』


『『だいす────』』




◆───────────────◆




「──やっと、見つけたぜ……『魔王城』!」


 今、俺の目の前には、見上げても見渡しても一度で収めきれない程に巨大な、黒曜石を思わせる漆黒の建造物が堂々とそびえ立っている。辺りは常闇で、なんかよく分からない薄紫の煙なんかが立ち昇って──なんでちょっと良い匂いなんだよ。


 ……ともあれ、ココがこの旅の最終目標である『魔王城』で間違いない筈だ。いや、『魔王城』であってくれ。頼む。


「あんのクソ王に『勇者』として放り出されてから、もう『三十年』だぞオイ……」


 思い返すまでも無く、『あの日』の事は鮮明に覚えている。そう、俺の十歳の誕生日だ。


 朝起きて友達と遊んで、昼ぐらいに一旦家に帰ってみりゃ、大層立派な馬車と騎士サマ達が家の前にズラリだ。その時は自分の目を疑ったね。

 なにせ、特徴も何にも無い辺鄙へんぴな寒村に、『王国』の紋章が刻まれた黒塗りの馬車が来てるんだからな。それも俺ん家の前に。

 それでもまぁ、とりあえず、おっかなびっくり家に入るだろ? 応接間に両親と談笑してる『王様』が居るだろ? で、俺を見つけて微笑んだと思ったら、両親が『大量の何か』が入った麻袋を貰ってそっちも微笑んでるんだよ。



 ──うん、そうだね。俺、売られたんだよね。国に。



 その後は、よく分からないまま馬車に詰め込まれて、よく分からないまま王城に連れて行かれて、よく分からないまま簡素な装備を持たされて──


『さぁ、勇者よ。『魔王城』へと旅立つのだ!』


 ──じゃねぇよ! ふざけんなよ! 

 何で剣が木製なの? 防具が普段着と変わらないような麻の服なの? 『勇者』ナメんなよ。蛮勇にも程があんぞコラ。


 ……あぁ、そっからは頑張ったね。何せ帰る手段も金も無いんだから。

 とりあえず王都にある『狩猟組合』に登録して、『魔物』の討伐依頼を受けて死ぬ気でお金を稼いで、その日食う飯さえ確保出来るか分からない生活を一年ぐらい続けてさ。そこで気付いたよ。


 俺、仲間いねぇじゃん。


 まぁそうだよね。ボロッボロな装備で鼻水垂らしてるようなガキが『一緒に魔王討伐しようぜ!』なんて言って、付いて来る奴なんざ居る訳ねぇんですよ。


「あぁ……思い出してたら涙出てきた」


 ほんと、木剣で【サッジ】とか【ヴォンドゥ】とかよく狩れたわ。【プルモ】ぐらいなら何とかなったが、そいつ一匹倒せば、貧相過ぎて涙が出そうになるような飯を一食分稼げたんだから、マジ助かったぜ。

 ちなみに【プルモ】の討伐に掛かった時間は約十五時間だ。飯一食分じゃ足りねぇよ。


 で、そっからは────おっと。


「今、感傷に浸ってんだよ! 邪魔すんな!」


 考え事しながら行動していたら、いつの間にか『魔王城』の中に入っていたようだ。

 正門を越えた辺りで、左右から一体ずつ、全身甲冑の騎士の姿をした『魔物』が飛び出してきた。一瞬『人間』かもと考えたが、見るからに禍々しい雰囲気を放つこの場所に人間が居る筈も無く、尚且つ奴らの兜の隙間から見える眼窩がんかには、『青白い炎』が宿っているんだから『魔物』で決定だろ。


 そう結論付けた俺は、すぐさま右腕を突き出し、パチンと『指を鳴らす』。


「雑魚はんでろ!」


 辺りに澄んだ音が響くと同時に、斬り掛かってくる二体の魔物の足元が盛大に『爆発』する。もちろん、巻き込まれた甲冑騎士もバラバラに弾け飛んだ。……中身が入ってなくて良かった。


「ほんと、この『魔法』は便利だよなぁ。憎いぜ、愛してる」


 そう。この俺の『魔法』こそが、『勇者』に選ばれた要因でもある。

 通常、『魔法』と言う物は、体内に流れる『魔力』を練り上げ、それを『操作』して『魔法陣』を構成し、『呪文』を唱える事で発動出来る。魔力操作能力と、魔法陣と呪文を覚える暗記能力、それに、土壇場でもそれを全てこなせる胆力が無ければ、『魔法』など使えないのだ。

 だが、例外もある。

 既に魔法陣が描かれている羊皮紙。それに自身の魔力を注ぎ、丁寧にもその裏に書いてある呪文を読み上げれば魔法を発動させる事が出来る『スクロール』と呼ばれる物がある。


 それともう一つ、特例中の特例ってのもあるんだな、これが。


 俺のように、『特定の動作』を行う事で『魔法』を発動させる事が出来る奴も居るって事だ。俗に『無詠唱魔法』と呼ばれる、非常にレアなスキルらしい。

 ここまでの旅をしてきた三十年間で、そういうのを何人か見てきた。



 例えば──『手で扇ぐ』動作をすると、結構強めの風が吹き出る奴。暑い時に少し涼しく出来たり、焚き火に風を送ったりするのが便利だな。蝋燭ろうそくの火を消そうとして書類が吹き飛んでたのには笑ったけど。


 例えば──『声を出す』と、その音量が大幅に底上げされる奴。演説とか歌う時とか、無理に声を張らなくても後ろまでよく聞こえて便利だな。内緒話で陰口を叩いてたら本人に丸聞こえだったのは、なかなか可哀想だったぜ。


 例えば──『歩く』と、歩行スピードが名馬と同じぐらい足が早くなる奴。目的地に早く着いたり、追撃や逃走の時なんかはかなり便利だな。行軍に馴染むまで、かなり苦労したそうだ……。



「ったく、どんだけ居るん──どんだけ居るんだよ!?」


 思い出に浸りながら、庭園を軽く『掃除』して、正面玄関から堂々と『魔王城』にお邪魔すると、出てくる出てくる大量の『魔物』達。

 あちらこちらの部屋からワラワラと甲冑騎士が飛び出して来ては、広いエントランスを埋め尽くすほどに──比喩では無く本当に埋め尽くしてしまっている。お前らちょっと『前へならえ』してみろ。


「まぁ、集まってる方がそれはそれで楽なんだけど……さ!」


 今までのように、俺はまた『指を鳴らす』。それと同時に、俺の周囲から甲冑騎士群に向けて『雷光』がほとばしる。

 極太の電撃が甲冑騎士に命中すると、瞬時に爆散し、それが連鎖的に周囲に拡がって行く。俺がよく使う魔法の一つで、『神の怒り』とも称される『雷魔法』だ。威力は一目瞭然。回避や防御は──雷が落ちて来ても対処出来る奴以外には必中だ。


「……さすがにこの数の『破片』は邪魔だな。ちょっと掃除するか」


 もう一度パチンと『指を鳴らす』と、俺を中心に台風もかくやという暴風が吹き荒れる。それに流され、甲冑騎士『だったもの』がまとめて部屋の隅に追いやられ、すぐさま道が出来上がる。



 ──これが、俺が『勇者』として選ばれた最大の理由だろうな。

 俺のように、『無詠唱』で『全ての魔法』が使える奴なんざ、世界中探しても居ないらしい。クソが。でも超便利。



「今じゃ余裕だが、昔は苦労したよなぁ」


 エントランスから上階へと続く階段を見つけ、昇りながら昔を思い出す。

 魔法を使う時の一番の注意点は、体内の『魔力切れ』だ。魔力ってのは、気力や体力と似たような感じで、消費すれば体がだるくなるし、思考も鈍くなる。もちろん、空っぽになれば意識が飛ぶ。魔力の総量を増やすには、体が成長するか、魔法を使いまくって鍛えるしかない。走り込みをして体力を付けるのと同じ感じだな。

 で、今でこそ高火力な攻撃魔法を連発してるが、子供の頃はそれこそ、指先に火をともすだけで意識がもっていかれたぐらいには、魔法の扱いってのは非常に難しい。そのお陰で、拉致されてから一年以上は、死ぬ気で『魔物』の討伐に励んだものさ。


「──さて、そろそろお目当ての場所か?」


 のんびり歩きながら『指をパチパチ鳴らし』、出てくる『魔物』をことごとく撃破しながら通路を進むと、ついに『それらしき部屋』に辿り着く。

 重厚感溢れる、巨大な黒塗りの両開き扉。金の装飾に髑髏どくろの意匠なんか施しちゃって、まぁ。


「お邪魔しまーす」


 その、巨人でも通るのかと言いたくなるようなデカイ扉を、魔法で肉体強化した腕で押し開け、中に入る。

 きちんと挨拶も忘れない。俺が無作法じゃ、子供に示しがつかないからな。


「……ノックをすれば勝手に開くのに」


 目の前に広がるのは、荘厳そうごん絢爛けんらんな大広間。壁には幾つもの『趣味の悪い』松明が煌いており、天井からはクッソでかいシャンデリアが垂れ下がっている。床には御丁寧に赤い絨毯じゅうたんなんか敷いてあって、その先、部屋の最奥には玉座らしき物がある。

 その、決して『趣味が良いとは言えない』作りの大きな椅子に座る、黒ずくめの『女性』が呆れ顔で呟いていた。


「いや、そんな機能あるとか知らねぇし」


 超便利。自宅の扉にも付けたい機能だな。いや、勝手に開いたら駄目じゃん。やっぱ却下で。


「まぁ、いいか……。コホン。──よく来た、お客人。歓迎する。久々の来訪だ、盛大に持て成すとしよう」


 玉座に座っていた黒ずくめの『女性』が立ち上がり、両手を広げて俺を歓迎する素振りを見せる。


 漆黒に濡れたつやのある長い黒髪。まるで宝石の様に美しい瞳。背中には黒い翼が生え、こめかみから額に向けて捻じれた角が生えている。

 体に張り付いた宵闇のドレスの下は見るからに細身であり、すそから覗くスラリと伸びた脚は、まるで新雪の様に白い。


 え、何この人。超美人なんですけど。超美人なんですけど!


「アンタみたいな美人が持て成してくれるなら、俺も大歓迎なんだけどさ……一つ聞きたい」


「ふむ? 私が答えられる範囲で良ければ、何でも聞いてみると良い」


 あぁ、どれだけ美人だとしても、めちゃめちゃタイプだとしても、このまま愛の告白をしてしまいたくなっても──


「アンタが、『魔王』か?」


「──あぁ、そうだ」


「……そっか。そりゃ、残念だ」


 ──相手が『魔王』なら、俺は殺さなくちゃならない。


「悪いが、『魔王』にくれてやれる慈悲は一つだけだ。──せめて、苦しませずに殺してやるよ」



 そう言い切ると同時に、俺は『指を鳴らす』。



「ッ!?」


 次の瞬間には、『魔王』の居る玉座周辺を、『火炎』『暴風』『雷光』『衝撃』『圧縮』の複合魔法が襲う。

 出し惜しみはしない。最初から全力で葬り去る。それが俺のやり方だ。


 灼熱に焼かれ、竜巻で威力を増し、紫電にまとわれ、四方から衝撃波にさらされ、押し潰される。一つ一つが致死の威力を持った、俺の得意魔法達だ。

 『魔王』と言えど、生きている事は──いや、形さえ残らないと確信する。



「──随分と呆気無い締め括りだったな……」


 耳をつんざく程の轟音と、視界を埋め尽くす煙幕の中、俺はこれまでの旅を振り返る。


 魔物退治が主な生活だった俺でも、王都で出会った『妻』と結婚し、子供を授かりもした。流石にずっと家に居る訳にはいかないから、暫くしたら家政婦さんを雇って、家の事を多少任せて旅を続けたもんだ。


 と言っても、『転移魔法』を使えるようになってからは頻繁に家に帰ってたし、言う程苦労を掛けさせた覚えは無いけどな。


 いつでも帰れるって分かってから、それまで以上に足を伸ばして、世界放浪とかもしたもんだ。立ち寄る村の殆どに『退魔結界』を張って歩いて、強力な『魔物』は見かける度に滅ぼして来た。

 もう『魔王』倒さなくても世界平和なんじゃねぇかなってぐらい、頑張ったもんさ。だからこそ、のんびりと『三十年』も『魔王』を放って置いても、『世界の危機』に陥る事は無かった。


 でも。それでもな。『魔王』が居る限り、『魔物』は生まれ続けるんだ。

 どれだけ平和になろうと、『魔物』を殆ど見かけなくなろうと、『危険』はずっとくすぶっていた。


「ようやく、終わりなんだな」


 『魔王』を滅した今、新たに『魔物』が生まれる事は無い、筈だ。少なくとも、向こう数十年は平和で安全な世界が訪れるだろう。

 そうなれば、久しぶりに家族サービスなんかもしてやりたいな。


「息子夫婦に『早く孫の顔見せろ』って急かしてやるのも楽しそうだ」


 ははっ、アイツの事だ。『このクソ親父! 余計な事言ってんじゃねぇ!』とか、顔真っ赤にして怒鳴りそうだな。

 嫁さんもなかなか初心うぶな感じだったし、本当にからかい甲斐のある──


「──がふっ、あっ……あ?」


 あ? なんだ?


「な、なん、で……」



 左胸に、穴、開いてんだ?



「……ちょ、今のは結構やばかったかも」


 煙の合間から見える、その向こう。『新品同様』の玉座の前に、悠然と立つ『無傷』の魔王の姿があった。


「煙が邪魔でよく見えない……あぁもう!」


 魔王が、軽く何度も『手を横に薙ぐ』。その『動作』と同時に、目の前から迫る、『闇の塊』。

 それは、周囲の全てを──光すらも飲み込みながら、一直線に俺へと向かって来る。


「────ッ!」


 意識が朦朧もうろうとし始めるなか、力を振り絞って回避行動を取る。が、寸での所で間に合わず、左腕が『闇の塊』に触れた。触れてしまった。

 その箇所が、ぽっかりと『削り取られた』のを見て、声にならない叫びをあげる。


「……えっ、ちょっと────やばっ! 『無詠唱魔法』が発動した!?」


 やばい。──やばいやばいやばい! なんか『魔王』の口調が変な感じになってるが、それどころじゃない!

 目の前から無数の『闇の塊』が迫るのを見て、思考が一瞬凍結しかけるが、すぐに解決策を思いつく。


 一度、逃げよう。すぐさま俺は『転移魔法』を発動させ──


「ッ!? 魔法が発動しない……っ!?」


 ──何も起きずに、『闇の塊』に両手足を『喰われた』。


「ま、まさか『魔力』まで……?」


 その、まさかだった。

 あの『闇の塊』は、魔力すらも『削り取る』らしい。さっきから襲い来る倦怠感と無力感は、これが原因だった。

 そして、これが限界だった。


 俺は無様にも仰向けに倒れ、灼熱の塊を口から零しながら、意識を遠ざけ始める。


「ま、待って! ダメ! 死んじゃダメだからね!」


 なんかもうキャラを忘れてあたふたしながら、『魔王』が近付いて来る。

 泣きそうな顔で喚いている『魔王』の瞳は、俺と同じ、『虹色の瞳』をしていた。そういや、『無詠唱魔法を使える』ってのも俺と『一緒』だな。


 ────ん、『いっしょ』……?


「あぁ、血が流れすぎてる……何か、何か助かる方法は……っ!」


 何かが、引っ掛かる。

 俺の『魂』が、何かを『思い出せ』と必死に叫んでいる。

 だが、それも、白く染まる思考に、徐々に掻き消されていく。


「もう少し、あと少しだけ耐えてね、『お客さん』! 私が、何としてでも繋いで──」


「……『お客さん』じゃねぇ……アルファルドだ」


「────えっ?」


 おいおい、人がせっかく死力を尽くして喋ってやってんのに、何聞き返してやがる。


「アルファルド……ニルドレア……だ」


 おう、言い切ってやったぜ。【アルファルド・ニルドレア】。テメェを倒す筈だった『勇者』の名だ、しっかり心に刻んどけ。


「────うそ」


 は? 『うそ』? ……ちっ、何か言ってやりたいのに、もう口が開かねぇ。クソっ。


「まって、ちがう、だめ、いや……いやぁ!!」



 あぁ、もう、声が遠く────。



『な、なんで!? いや、いやだよ、『アル』……!』



 ─────。



『ねぇ、───、『アル』? 『私』だよ、──。───だよ?』



 ────。



『ずっと───! ────! 『約束』、───……』



 ───。



『だいす────』



 ──。





























 ……あぁ。どうりで俺のタイプな訳だぜ。



「セ、フィ、リア……」


「──アル!?」


 『虹色の瞳』。『無詠唱魔法』。そして、『人殺しが嫌い』な性格。どれもこれも、『俺と一緒』じゃねぇか。

 それはつまり、『あいつと一緒』って事だ。


「ずっ、と……いっしょ、に……」


「……うんっ」


 こんな場面になるまで『忘れて』いて、普通に妻子持ちになって、挙句、『殺しかけた』。あぁ、クソッ! 最低だ!


「……や、くそ、く」


「うん、うんっ」


 あぁ、泣くなよ。どっかケガした訳じゃねぇんだろ?


「約束、破ったらおしおきだよ…?」


 その困ったような笑い顔、懐かしいなぁ。やっぱりお前は、笑ってる方が似合うぜ。超可愛い。


「……あぁ。こん、ど、こそ……ずっと、いっしょ、に」


「うん、『約束』。『約束』したからね! だから──」


 死んじゃダメ、とか言うんだろ?

 はっ、安心しろ! 体は動かねぇし血は足りねぇし意識も保てねぇし手足もねぇし心臓もねぇが、なんとか──ごめん、やっぱ無理かも。


「──『早く成長して』、迎えに来てね? 私、待ってるから!」



 …………は?



「【ルキエ・ウル・アルムラス】!」



 まばゆい光が迸り、俺を中心に莫大な規模の『魔法陣』が展開されると同時に、セフィリアが『呪文』らしき言葉を告げる。

 その光景を最期に、俺の意識は深い闇へと沈んで行った……。




◆───────────────◆




 ──あぁ……温かい……。

 これが『死』ってやつか。なんていうか、安心感があるっていうか、幸せな感じだな。天国か?

 まるでお湯に浸かっているような……お湯? お?


 おぉっ!? 息できねぇ!? うっそだろお前! 死ぬ死ぬ! また死ぬぅ!

 くそっ、身動きも取れねぇし、なんだこれ! 拷問か? 天国かと思ったら地獄でしたかそうですか!


 ぐ、ぐおぉぉぉ……あ、頭が潰れる……っ! あぁ痛い痛い痛い痛いぎゃあああああぁ!



「──んぎゃああぁぁ! ああぁぁぁっ!」


「おめでとう御座います、奥様! 元気な男の子ですよっ!」



 これが、俺の新たな『生』の始まりだった。

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