第11話 住処を探そう!
旧市街の鍛冶屋ザンに到着した社会派紳士と二人のエルフ。それとヒポ先生。先生は流石にお疲れの様子で、その場に座り込み地面と一体化している。
エルモアとネピアは未だ首輪と鎖が外せていない状態なので、俺が社会派紳士として鎖を持ってあげている状態だ。何せ結構な重量がある鎖を引きずらせて歩かせる訳にはいかない。
(扉を叩いたけど……反応がないんだよな)
聞こえてないかと思い、もう一度大きめに叩く。しばらく立ち尽くすも何も反応がない。しびれを切らし、大きくしっかりとノックをしながら声を掛ける。
「すいませーん! ザンさんいますかー?」
それでも反応はない。しかし俺は中にいる事を確信していた。以前の世界で住んでいた俺の安アパートにはこのような突然な来訪が多かったからだ。
そして俺には分かる。この中で居留守を使っている人が存在しているという事。もちろんだが電気のメーターが動いていたりという訳ではない。感じるのだ「気」を。
「手紙を預かってきましたー! ヨヘイさんからでーす!」
すると慌てて階段を降りる音がこちらまで届き、勢いよく扉が開かれる。そこにいたのは背の高く筋肉質で上半身裸の頑固そうな親父がいた。下半身は作業着とブーツ。これまた年月を感じる一品でそれに呼応するかのように頭にはトサカが立っている。これほど綺麗で見事なモヒカンもないだろうと思えるくらい親父には似合っていた。
「……なんだ。奴隷商人に知り合いはいないぞ。それに貴様、どこからその名前を知った?」
全く距離は変わっていないのに、最後の言葉辺りから目の前で喋られているような威圧感を発している。ヨヘイさんといい、このあたりのじいさんが本気になると恐いよな。
「あの……俺はタロ・ズーキです。ヨヘイさんには世話になりまして……」
そう伝え、手紙を渡すと鋭い眼光で手紙を読みふける。それなりの時間が過ぎたので文章量は多いのだろうと勝手に考えていた。
「……」
「……」
無言は恐い。何か喋ってくれるといいと思うが、なかなか手紙を離さない。待ちぼうけする三人と一匹。すると読み終わったのか目線をこちらに向け、値踏みするように皆を見る。
「……お前は俺に何を求める?」
「……宿を……探しているんですが、おすすめはありますか?」
「……宿か。屋根裏部屋でよければ一ヶ月で一人あたり一万クイーンでいいぞ。ただし家の設備を使うならプラス一万クイーンだ」
このクイーンというのがこの世界の通貨単位である。絶対的支配者なるこの世界の女王様に敬意を表してクイーンという単位になった訳だ。まだ実際生活していないが、今までの金銭のやりとりを見ると、元の世界と変わらないような金銭感覚といえる。
「ちなにみな、お前さんには丁寧に説明しろって記載があったからな、田舎モンに説明するようにしてやる。この辺り旧市街には旅人向けの安宿が多く存在している。だがこれからシーズンだから値上がりするだろう。一人で
「そうですね」
「それから賃貸物件を借りるっていう選択肢もある。だが保証人というクソのような決まり事がこの国にはある為、お前らには無理だ。俺も保証人になる気はねぇ。新市街の宿は省く。お前らがそこに行けるなら、ここには来ないだろうよ」
全くもってその通りだった。子供とはいえ女の子がいるから相部屋というのは可哀想だ。それに安全という意味でも多少なりとも見知った人がいて欲しいという気持ちもある。
常に人が流動する安宿では荷物の盗難や、細かいトラブルが往々にしてある。それも自己責任と言える一人身軽な一人旅とは違って、奴隷の姉妹エルフで付き。それに動物であるヒポがいる。安宿にも家畜小屋があればよいが、設備がなければヒポが困る事になる。
それに金額の問題もある。仕事がすぐ見つかり給料がすぐ手に入れば良いが、そうでなかった時の事も考えてると多く残しておきたい。俺はこの破格の金額を手放したくなかった。
「あの……ヒポは……この動物は大丈夫ですかね? そのザンさんの所で世話になりたいんですけど……」
「……あぁ。これでも鍛冶屋だからな。荷車置くところもあるし、そいつも入れてもらって構わん」
「ありがとうございます。本日からお願い出来ますでしょうか?」
「分かった。前金な。それとな、掃除だけはしっかりやれよ」
「はい」
(そう言えばヨヘイさんとはどういう繋がりなんだろう)
すぐに支払いを済ませてヒポと荷車を建物の一階にある、家畜小屋兼倉庫に連れて行く。草が見たらないので、多少積んできた丸めた草を展開し下に置く。合わせて水も汲んできて、家畜用の水入れに満たしてやった。
「これは……ヨヘイさんのワンオフ仕様の荷車だよな?」
「そうです。TYPE-Sの名の通り頑丈でしたよ」
「……まさかあのヨヘイさんが、このような奴に自分の大事な荷車を渡すとはな。世の中どうなるか分かったもんじゃねぇな。はっはっはっ」
「そんなに珍しいんですか?」
「お前なら分かるだろうけど、あの寂れた村にわざわざ行く奴がまずいないな。それであの職人気質なヨヘイさんがここまでしてくれるんだ。手紙も楽しませてもらったし、今日はなかなか面白い日になった。まぁ疲れただろう。ゆっくりしていけ」
「はい。ありがとうございます。これから四匹ともどもお世話になります」
まず住む場所が決まった事に安堵する。建物は石や煉瓦で作られていて五~六階ありそうな高さであった。天辺が三角になっていたので、屋根裏にと言われた俺たちはそこの隙間に住む事になる。
まず屋根裏部屋を目指して、エルモアとネピアにも荷物運びを手伝ってもらう。たいした量でもないが、ブランケットやラグがかさばったので三人協力体制で最上階を目指す。
「なんだかワクワクしますね!」
「本当だな。俺もこういう建物の中で泊まるのは初めてだよ」
「……」
未だにふくれているネピアをよそに気分が高揚する俺とエルモア。だがせっかく一緒にいるのに寂しい気分にさせたままだと心苦しいので、こちらから声をかけてやった。
「ほらネピアもどうだ? なんだか楽しくなってこないか?」
「……別に」
「ほらほらぁ~ 楽しいくせにぃ~」
「うるさいわねぇ。別にしょげてないわよ……ふわぁ……ホントに疲れたのよ……」
「大丈夫? ネピア?」
「うん。大丈夫だけど……あんなに荷車に乗ってたのはいつ以来かしらね」
「そうだね~」
「「ね~」」
いつも通り「ね~」を合図に荷物を持ちながら腰から上を同じ方向に傾ける。疲れたと言ったネピアもエルモアと一緒になって笑顔を見せている。本当に仲が良くて羨ましい限りだ。
「……はぁ」
「どうしたんですか?」
「どしたん?」
「いや……意外に……階段がきつくて……」
「荷物持ちましょうか?」
「いやいや。それには及ばない。社会派紳士を名乗る以上は頑張らなくてはなるまいて」
「だらしないわね~ こんなので疲れるの? ちょっと貧弱過ぎるんじゃない?」
確かにその通りだったのと、また喧嘩するのも面倒だったので一言「そうだな」と答えて最後の階段を上りきる。
「上がりきったぁ~」
「到着しました~」
「えっ……まだ到着してないでしょ? 屋根裏部屋よね?」
「いいんだよ。俺にとってはここが最上階だった訳だ」
「それで屋根裏部屋にはどうやって行くんでしょうか?」
「どうやってもなにもこれじゃないの?」
後ろを振り返ると、確かに屋根裏に繋がっていそうな階段が無造作に通路にある。それを見上げると天井まで続いてた。どうやら上っていって天板を上に押し上げるような形で中に入るようだ。
「んじゃ。行ってみますか」
「待って! 待って! 私開けたい!」
「んぁ? いいぜ行ってこいよ」
「あんがと!」
「エルモアはいいのか?」
「ん~ やってみたいですけど、今日だけで終わる事じゃないので、またの機会にします」
大人しく妹の為に引き下がる良く出来たお姉さん。双子でもこれだけ違うんだから、人間って面白い。いやエルフか。
ネピアは階段を上りきり天板に手を押し当てている。もうそろそろ開いてもいいような力加減になるが全く開こうとはしない。俺はこれからの展開を考えた。
一つ。開けた瞬間に大量の埃がネピアに襲いかかり蹂躙される。
一つ。開けた瞬間に大量の蟲がネピアに襲いかかり蹂躙される。
一つ。開けた瞬間に大量の鼠がネピアに襲いかかり蹂躙される。
(良かった。女王様ありがとうございます。率先して危険に飛び込んでくれたのは、あなた様のお陰でございます)
俺はこれからの展開に対して絶対安全防衛ラインを制定し、友好国・
「こんのぉ~ 開きやがれぇ~」
(うわぁ~ 絶対何かいるよ~ あいつマジでアホだな)
「あの…… タロさん? どうしたんです? こんなに離れて。 ……それに手まで握って」
「ご安心をエルモア姫。我が国きっての向こう見ずエルフの一人。その名もネピア嬢! 彼女なら大丈夫。きっと我々の期待に応えてくれます」
ひざまずいて王女に誓う騎士のようにうやうやしく頭を垂れながら言葉をつなぐ。
「はぁ。期待……ですか?」
「左様でございます姫様。ささ、念の為もう少しこちらへ」
姫に何かあってはこの社会派紳士の名折れ。念には念を入れいざとなったら姫様を抱えて階段下へ逃れらるように万全を期す。
「こんのぉーーーエルフをなめんじゃないわよぉーーーーーー!!!!!!」
とち狂ったネピアは一度階段を下がり勢いをつけて階段を一気に駆け上がり、走ってきた勢いと共に肩の辺りで天板を押し上げた。そしてそのまま屋根裏へと消えてゆく。
「おわっーーーっ ぎゃふっ!」
(おしいっ! 「ん」があれば……生まれて初めてあの言葉が聞けたのに)
それも残念だったが、屋根裏部屋から出てきた大量の埃と蟲と鼠に蹂躙されるネピアが見られなかったのもショックだった。だがエルモア姫を守り切った事は事実であるので結果オーライだ。
「ささっ姫様。まいりましょう。我々の輝けるペントハウスで栄光の時間を……」
「はぁ。ネピア大丈夫ですかね……」
「大丈夫でございます。ご安心の程を」
「そうですか」
「左様です」
手を繋ぎながら階段を上る。これほど騒いでも何も出てこない事を見ると意外に綺麗にされているのかもしれない。ザンさんも綺麗好きそうだったので、そのまま階段を上がりきった。
そこに見えたのはネピア。もちろんネピアは存在している。だがあまりにも近かった。そして嫌な気分を払拭するように上ってきた方向とは逆の方を見た瞬間、この屋根裏が破格の条件であった事を思い出した。
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